本資料は、EV(電気自動車)を電力システムに統合するための考え方と施策について、IEAの提言を基礎に、海外事例および日本の取組状況を整理したものである。
EVの普及は、ガソリン車から電動車への転換にとどまらず、充電を通じて電力需要や系統運用にも影響を与える。そのため、資料では、以下の4分野を一体的に検討している。
IEAは、EVのグリッド統合に向けて、次のような方向性を示している。
| 分野 | 主な方向性 |
|---|---|
| A. 機関の準備 | 多様な関係者の参加、運輸部門とエネルギー部門の連携 |
| B. 影響評価 | 移動・充電データの収集、電力需要や系統影響の分析 |
| C. 統合施策 | 管理型充電、V1G・V2G、通信標準化、柔軟性の活用 |
| D. 電力システム計画 | EVの接続需要や柔軟性を考慮した系統計画・規制設計 |
IEAは、EVのグリッド統合には、モビリティと電力の関係者だけでなく、建設・不動産、研究機関などを含む幅広い主体の参加が必要であるとしている。
| 主体 | 主な役割 |
|---|---|
| 国・地方自治体 | EV政策の展開、公共スペースへの充電設備設置、建築規制を通じた充電設備導入、関係者間の調整 |
| エネルギー規制機関 | ネットワーク独占の規制、競争性の確保 |
| 電力会社・系統運用者 | 系統接続、系統運用、需要・柔軟性への対応 |
| 自動車・バッテリーメーカー | 車両・電池技術、安全性、出力制限、劣化等に関する知見の提供 |
| EVSE・充電サービス事業者 | 充電設備の提供、EV・充電器・電力系統間の互換性確保 |
| 都市交通プランナー | 移動ニーズやルートを踏まえた充電拠点の配置 |
| 建設・不動産事業者 | 駐車場等における充電スペースの整備 |
| 研究機関・シンクタンク | 技術・ビジネスモデルの研究、実証、普及や系統影響の分析 |
このため、IEAは、こうした関係者を集めた学際的なワーキンググループの設置や、政策立案レベルでの部門横断的な調整窓口の指定を推奨している。
カリフォルニア州では、CAISO、CEC、CPUCなどが連携し、EVと電力系統の統合、すなわち**VGI(Vehicle-Grid Integration)**に関する政策を検討している。
2019年のVGI Working Groupでは、以下の論点が扱われた。
参加者には、系統運用者、規制機関、電力会社、アグリゲーター、自動車メーカー、充電器メーカー、交通事業者、研究機関、環境団体などが含まれていた。これは、EVのグリッド統合を単一の行政部門や事業者だけで進めるのではなく、政策・技術・市場・利用者の関係者が共同で検討する枠組みの事例である。
IEAは、EV政策と電力政策を別々に進めるのではなく、政府内の複数部門が計画・政策を調整することを推奨している。
米国では、運輸省とエネルギー省の縦割りを解消するため、3億ドルの予算を持つ共同オフィスが設立された。この共同オフィスでは、以下のような分野での業務が期待されている。
調整が必要な政策領域として、資料では次の事項が示されている。
EVの普及が電力システムに与える影響を把握するため、IEAは移動データや充電データの収集・活用を推奨している。
| データ・手法 | 把握・活用できる事項 |
|---|---|
| 移動調査 | 車両の利用状況、移動・駐車傾向、EVの運転行動 |
| GPS等のデジタル技術 | 移動経路、交通の流れ、充電インフラの配置 |
| 充電セッションデータ | 接続時間、実際の充電時間、充電パターン、提供可能な柔軟性 |
| 公共充電インフラのオープンデータ | 充電サービスや設備配置に関する研究・分析 |
| パイロットスタディ | 地域ごとのモビリティ特性や充電ニーズ |
公共充電インフラについては、自治体等が入札時にデータ共有要件を設定する方法が示されている。家庭での充電については、データプライバシー規制を踏まえつつ、車載メーターや車両テレマティクスからのデータ共有を求める考え方が示されている。
ノルウェーのNOBILは、EV利用者や充電ポイント事業者等からの情報を集約し、充電器に関する主要データを一般公開するデータベースである。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 開発・維持者 | Norwegian Electric Vehicle Association |
| 所有者 | ノルウェー政府機関Enova |
| 規模 | 約3,500の充電ステーション、25,000以上の充電ポイント |
| 時点 | 2023年2月時点 |
| 公開情報 | コネクタ種類、充電容量、座標、写真、アクセシビリティ情報、技術情報等 |
データは、手動登録、他のデータベースからの静的データ、充電ポイントからのリアルタイムデータなどから収集される。これらはAPIを通じて、ウェブサービスやモバイルアプリ等に連携される。
NOBILでは、政府機関Enovaが資金を提供し、公的所有権を確保する一方、データを活用したサービス開発は市場に委ねられている。この仕組みは、充電インフラに関する基礎データを広く共有する事例である。
カリフォルニア州のCECは、2030年に800万台のZEVが導入された場合の平日の充電需要を予測し、再生可能エネルギー発電や送配電網への影響を分析している。
| 時間帯 | 小型EV充電の予測電力消費 | 電力需要の増加 |
|---|---|---|
| 午前0時頃 | 約5,500MW | 最大約25% |
| 午前10時頃 | 約4,600MW | 最大約20% |
非住宅用充電器の需要は、日中の太陽光発電と概ね一致する一方、総充電電力量の60%以上は、太陽光が十分に得られない時間帯に発生すると予測されている。
また、オフピーク料金が適用される深夜に充電需要が集中すると、地域の配電インフラに負担が生じる可能性が指摘されている。したがって、EVの普及台数だけでなく、いつ、どこで、どの程度充電されるかを踏まえた需要評価が必要となる。
IEAは、EV充電負荷の大きさと、電力系統が必要とする柔軟性の程度に応じて、EVのグリッド統合を4つのフェーズに整理している。
| フェーズ | 状況 | 主な特徴 | 資料に記載された例 |
|---|---|---|---|
| 1 | EV負荷が系統に顕著な影響を与えていない | EV普及率や電動化車種の規模が小さい | ノルウェー |
| 2 | EV負荷は大きいが、柔軟性ニーズは小さい | 管理されない充電でピーク負荷が生じるが、系統容量は通常十分、または増強予定 | フランス、オランダ |
| 3 | EV負荷と柔軟性ニーズがともに大きい | ローカル系統の容量制約や卸電力市場での需要シフトへの対応が必要 | 島しょ部の系統 |
| 4 | EVの柔軟性を高度に活用でき、柔軟性ニーズも大きい | V2Gによる電力供給に対しても市場が対価を支払うほど、柔軟性ニーズが大きい | 島しょ部の系統 |
フェーズに応じた主な施策は、以下のとおりである。
英国では、系統の供給力が十分でない地域に急速充電インフラを整備するため、充電設備に蓄電池を併設する計画が示されている。
計画では、約200の蓄電システムを導入し、以下のように運用する。
| 状況 | 蓄電池の運用 |
|---|---|
| 夜間など電力価格が安い時間帯 | 電力系統から蓄電池へ充電 |
| 電力需要が集中する時間帯 | 蓄電池と電力系統の双方からEV充電器へ供給 |
これは、電力系統から急速充電に必要な電力を直接供給できるようになるまでの対応として示されている。
EVの充電・放電を制御する方法には、それぞれ異なる効果と留意点がある。
| 対策 | 主な効果 | 事例・留意事項 |
|---|---|---|
| 電気料金型DR | 料金シグナルにより充電をピーク時間帯から移動 | カリフォルニア州で、インセンティブと価格シグナルの組合せを実施。EV間の協調が不十分な場合、リバウンドピークの可能性がある |
| V1G | 充電時間を制御し、再エネが利用可能な時間帯へ負荷を移動 | 電池の劣化を加速させずに制御できる一方、電力の流れは一方向である |
| V2B・V2H | 建物や住宅内で再エネの自家消費を拡大し、バックアップにも活用 | EVの電力系統全体への貢献は、住宅・ビルのローカルシステムに限定される |
| V2G | 周波数調整、電力価格差の活用、変動性再エネの導入に貢献 | 充放電サイクルの増加により、電池劣化が加速する場合がある |
| S2G・B2G | バッテリーステーションを通じて、集約的・長時間の柔軟性を提供 | 中国で、バッテリー交換ステーションを活用した実証が行われている |
英国では、特定時刻への充電集中を防ぐため、スマート充電器に対し、充電開始時間をランダムに遅延させる初期設定が義務付けられている。
**「The Electric Vehicles (Smart Charge Points) Regulations 2021」**では、次の内容が定められている。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| ピーク時間 | 平日 午前8時~午前11時、午後4時~午後10時 |
| 初期設定 | ピーク時間以外に充電する設定 |
| ランダム遅延 | オフピーク開始時等への集中を避けるため、秒単位で開始時刻を遅延 |
| 設定変更 | 需要家やオーナー等による上書きが可能 |
IEAは、EV、充電設備(EVSE)、電力系統の間で通信プロトコルを標準化し、相互運用性を高めることを推奨している。
標準化によって、次の効果が期待されている。
資料では、以下のプロトコルが示されている。
ルクセンブルクでは、OCPPに準拠したスマート充電ステーション等の導入に対し、補助金が支給されていた。
| 駐車スペース | 充電設備 | 補助上限 |
|---|---|---|
| 3台まで | 基本的な充電ステーション | 750ユーロ |
| 3台まで | OCPP準拠のスマート充電ステーション | 1,200ユーロ |
| 4台以上 | スマート充電ステーション | 1,200ユーロ |
| 4台以上 | 共有のスマート充電管理システムで管理された充電ステーション | 1,650ユーロ |
補助額は、充電スタンドの購入・設置費用の50%であり、対象期間は2020年7月1日から2023年6月30日までである。一定の出力要件、低圧ネットワーク接続要件、認定電気技術者による設置などが求められていた。
V2Gでは充放電サイクルが増えるため、バッテリー劣化への対応が必要となる。英国では、CENEXを中心に、劣化を考慮したV2G制御の実証が行われている。
バッテリー劣化には、主に以下の2種類がある。
| 劣化の種類 | 主な要因 |
|---|---|
| Calendar Ageing | 蓄電池温度、SoCなど |
| Cycling Ageing | 周辺温度、充電サイクル数、DoD、Cレートなど |
資料では、劣化メカニズムを踏まえて充放電アルゴリズムを最適化することで、通常充電と比較したV2Gのバッテリー劣化を8.6~12.3%改善できたとしている。
| 充電方法 | 概要 | 通常充電と比較した劣化改善率(1年後) |
|---|---|---|
| 通常充電 | 接続後すぐに満充電し、出発までSoC100%で保持 | ベースライン |
| 遅延型スマート充電 | 適切なタイミングで充電し、出発時に満充電 | -5.9~14.9% |
| V1Gスマート充電 | 劣化率の低いSoCで待機し、適切なタイミングで充電 | 0.4~14.9% |
| V2Gスマート充電 | 劣化率の低いSoCまで放電後、適切なタイミングで充電 | -16.0~10.6% |
| V1G・V2G統合型 | Calendar AgeingとCycling Ageingを考慮して最適制御 | 8.6~12.3% |
IEAは、EVが提供する柔軟性に対して、可能な限り対価を支払う仕組みを整備することを推奨している。
EV単体では提供できる電力量が限られるため、複数のEVを束ねるアグリゲーターの役割が重要となる。資料では、以下の対応が必要とされている。
| 領域 | サービス | メカニズムの例 |
|---|---|---|
| 配電 | 混雑管理 | ローカルフレキシビリティ市場、入札契約、タリフ |
| 配電 | 電圧調整 | 成熟した市場メカニズムは現時点でなし |
| 配電 | 障害復旧 | フレキシビリティ入札、二者間契約 |
| 配電 | フェーズインバランス | グリッドコード遵守 |
| 送電 | バランシングリザーブ | アンシラリーサービス市場 |
| 送電 | エネルギーアービトラージ | 卸電力市場 |
このように、EVの柔軟性は、単なる充電需要の制御だけでなく、混雑管理、需給調整、周波数調整、電力価格差を利用した運用などに活用する方向が示されている。
EV充電による系統負荷を抑えるには、充電時間の制御だけでなく、充電設備をどこに接続するかも重要となる。
IEAは、以下のような施策を示している。
| 対策 | 内容 | 期待される効果 |
|---|---|---|
| ホスティング・キャパシティ・マップ | 系統容量や負荷プロファイルを踏まえ、充電設備を接続可能な場所を示す | 接続しやすい場所への立地、接続手続の合理化 |
| 蓄電池の併設 | 充電ステーションに定置型蓄電池を設置 | 重要な時間帯の系統負荷を抑制 |
| 場所ごとの接続料金 | 利用可能な系統容量に応じて接続料金を設定 | 立地判断に系統容量の情報を反映 |
| ノンファーム接続 | 混雑時の調整や一定期間の切断を条件に接続 | 大容量充電設備の接続を迅速化 |
| 管理型充電へのインセンティブ | 充電器の制御性や最大電力に応じて料金を設定 | 通信・制御機能への投資を促進 |
米国ニュージャージー州等の電力会社では、既存の負荷プロファイル、ネットワーク容量、配電会社の性能要件、充電設備の接続による影響を踏まえ、EV充電器を接続しやすい場所を示すマップを作成・公開している。
IEAは、EV普及による接続需要と、EVが提供する需要側の柔軟性を踏まえ、系統拡張やシステム計画の基準を見直すことを推奨している。
| 見直しの分野 | 内容 |
|---|---|
| 系統拡張計画 | 系統増強だけでなく、エネルギー効率化や需要側柔軟性プログラムを含め、費用対効果を比較する |
| システム計画基準 | 発電と負荷の不確実性を考慮し、より高度で確率的な計画を行う |
| DERの活用 | EV等のDERによりピーク負荷を回避できる場合、設備増強以外の選択肢として評価する |
| 規制設計 | 設備投資に偏らず、パフォーマンスやイノベーションを評価するインセンティブを検討する |
事例として、ニューヨーク州・カリフォルニア州におけるNWA(Non-Wires Alternatives)や、英国のRIIO規制が示されている。
資料では、IEAが推奨する施策に対応して、日本でも検討・実証が進められていると整理している。
| 分野 | 日本の取組状況 |
|---|---|
| 機関の準備 | 「次世代の分散型電力システムに関する検討会」で、EVと電力システムに関する議論が開始されている。関係者を集めたワーキンググループの立ち上げも議論予定である |
| EV導入目標 | 新車販売における電動車比率目標が掲げられている |
| データ収集 | OD調査やダイナミックプライシング実証を通じ、移動データ・充電データの収集が進められている |
| 影響評価 | EVの走行・充電データや、EV稼働率、電力価格、変動性再エネ発電量、系統制約などの予測精度向上に向けた実証が進められている |
日本では、次のような施策について取組や検討が示されている。
通信規格については、資料上、CHAdeMOがV2Gプロトコルに対応していると整理されている。また、電力システム計画については、2023年度からレベニューキャップ制度を開始する予定とされている。
本資料が示すEVのグリッド統合の方向性は、以下のとおりである。
多様な関係者を含む横断的な体制を構築する
移動・充電データに基づいて系統影響を評価する
充電時間と充電場所を適切に管理する
V1G・V2G等によりEVの柔軟性を活用する
通信プロトコルと相互運用性を確保する
バッテリー劣化を考慮して充放電を制御する
EVの柔軟性に対する市場・契約・料金制度を整備する
EVの普及を前提に電力システム計画を見直す
資料全体としては、EVを新たな電力需要として受け入れるだけでなく、充電・蓄電・通信・市場制度を組み合わせることで、電力システムの柔軟性を担う資源として活用する方向性が示されている。日本では、ダイナミックプライシング、V1G・V2G、VPP、データ収集、アグリゲーターの市場参加、系統用蓄電池の料金制度等について、検討・実証が進められている状況である。
※AI生成。詳細は原文PDFをご確認ください。
出典:
「EVのグリッド統合に向けた海外動向」(経済産業省)(https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/jisedai_bunsan/index.html)をもとに当社作成
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