DERを活用した配電系統運用の高度化
1. 資料の目的
本資料は、太陽光発電、EV、蓄電池などの分散型エネルギーリソース(DER)を活用した配電系統運用の高度化について、検討状況と主な論点を整理したものである。
DERとは、需要家側などに分散して設置される発電設備、蓄電池、EV等を指す。これらを適切なタイミングで充放電・制御することで、以下の実現が期待されている。
- 配電系統や上位系統の混雑緩和
- 配電系統の電圧制御
- 再生可能エネルギーの接続量拡大
- 配電設備の増強回避・最適化
- 災害時の電力供給レジリエンス向上
2. DER活用が求められる背景
将来的な配電系統の課題
太陽光発電やEV等の導入が増加すると、配電系統では次の課題が生じることが想定されている。
- 配電系統の混雑
- 太陽光発電の逆潮流による電圧上昇
- 需要増加等による電圧降下
- 配電系統の混雑が上位の基幹系統へ及ぼす影響
このため、配電系統内にあるEVや蓄電池等を適切なタイミングで充放電し、上位系統へ逆流する電力や配電系統内の潮流を調整することが、系統混雑への対応手段となり得る。
配電系統に期待される役割
資料では、今後の配電系統について、単に電力を供給する設備としてではなく、DERやデジタル技術を活用して系統運用を高度化する役割が期待されている。
具体的には、以下のような役割である。
- 配電系統の混雑・電圧の管理
- DERを活用した需給調整
- 再エネ・EV等の接続拡大への対応
- 上位系統との協調運用
- 災害時における特定区域の独立運用
3. 配電事業ライセンスとの関係
改正電気事業法の施行により、配電事業ライセンスが開始された。この制度により、特定区域において、配電事業者が一般送配電事業者の送配電網を活用しながら、以下の技術・設備を用いて系統運用を行うことが制度上可能となった。
- AI・IoT等のデジタル技術
- 太陽光発電、蓄電池、EV等のDER
- 配電系統の状態把握・制御技術
特に災害時には、特定区域の配電網を切り離して独立運用することで、レジリエンスの確保が期待されている。
一方で、送電系統全体にとっての最適運用と、配電系統内の部分的な最適運用が一致しない場合も想定される。そのため、送電と配電を一体で捉えた系統運用の在り方が重要な検討論点となっている。
4. 主な検討論点
資料では、DERを活用した配電系統運用について、主に次の論点が示されている。
- 系統全体の観点から、今後の配電系統が担うべき役割は何か
- DER、次世代スマートメーター、高度なデジタル技術を系統課題の解決に活用できるか
- 配電系統を効率的に運用するための仕組みを、制度上どのように担保するか
- 送電事業者(TSO)と配電事業者(DSO)の役割をどのように整理するか
- アグリゲーターとの取引ルールをどのように設定するか
- DERの制御方法・参加要件をどのように定めるか
- 情報管理、費用負担、費用回収をどのように設計するか
5. 紹介された3つの取組・構想
資料では、DERを活用した配電系統運用に関する3つの取組・構想が紹介されている。
| 取組・構想 | 主体 | 主な対象・仕組み | 検討段階 |
|---|
| DERフレキシビリティの活用 | NEDO | 配電用変電所の混雑対策として、蓄電池等のDERを制御 | FS実施済み、実証準備中 |
| 分散エネルギー取引市場 | 東京電力パワーグリッド | 配電エリア内の発電・需要・蓄電池等を市場でマッチング | 将来構想 |
| 配電系統の次世代化・DER活用 | 関西電力送配電 | IT開閉器や次世代スマートメーターで系統を精緻に把握し、将来のDER活用につなげる | 次世代投資・段階的検討 |
これらは、DERを活用する点では共通しているが、対象とする系統課題や活用方法が異なる。
- NEDO:混雑箇所に対してDERの柔軟性を調達・制御する仕組み
- 東京電力パワーグリッド:市場を通じてDERの自律的な取引・制御を促す仕組み
- 関西電力送配電:配電系統の状態把握や設備形成を高度化し、段階的にDER活用へ進む仕組み
6. 各取組の概要と課題
6.1 NEDO:DERフレキシビリティの活用
NEDOの取組は、配電用変電所の混雑を対象に、TSO・DSOからの指令に基づいて、アグリゲーター等がDERを制御する仕組みである。
想定される仕組み
- 配電用変電所の混雑状況を把握する
- 配電線以下に接続されたDERの情報を収集する
- 混雑緩和に利用可能なDERを特定する
- 蓄電池や需要家設備等を制御する
- 変電所の増強に代えて、DERの柔軟性を活用する
実証では、配電線以下のDERによる上げDRを行い、配電用変電所への電力潮流を調整するシステムの検証が計画されている。
また、送配電事業者のシステムとアグリゲーターのシステムを接続するため、DER情報プラットフォームの構築が必要とされている。資料では、2024年度頃からの先行的な取引開始を目指して、実証に向けた取組を進める方向性が示されている。
主な課題
- 系統潮流情報とDER情報をマッチングする情報プラットフォームの構築
- DERの制御方法・制御ルールの確立
- 送配電事業者、アグリゲーター等のシステム間のデータ連携
- システム費用の負担方法
- フレキシビリティ調達費用の財源確保
- 将来の機能拡張を見据えたシステム要件の整理
6.2 東京電力パワーグリッド:分散エネルギー取引市場
東京電力パワーグリッドは、全国市場と地域の需要家設備との間に位置するローカルな階層に、分散エネルギー取引市場を設ける構想を示している。
この市場では、配電エリア内の発電設備、需要設備、蓄電池等を対象として、需給調整や混雑管理を行うことが想定されている。
市場の特徴
- 配電エリア内の発電と需要をマッチングする
- 混雑状況を価格シグナル等に反映する
- 発電事業者、小売電気事業者、アグリゲーター等が自律的に行動する
- 地産地消を促す
- kWh価値やkW価値等の取引を想定する
- 配電エリア内の需給調整と、系統全体の需給調整を連携させる
この構想では、以下の価値の実現が想定されている。
- カーボンニュートラル
- 防災・レジリエンス
- 地域課題の解決
- 電化・電動化・電熱化
- 合理的な設備形成
主な課題
- 配電エリア内のDER情報を把握・管理する仕組み
- 蓄電池等を含む調整力の全量把握
- DER設備のサイバーセキュリティ確保
- 蓄電池等の将来導入量の想定・共有
- EMS等の技術システムの開発
- システム開発費用や普及費用の回収方法
6.3 関西電力送配電:配電系統の次世代化
関西電力送配電は、配電系統の状態を精緻に把握するための設備投資を進め、段階的にDER活用を拡大する考え方を示している。
検討のステップ
- 系統全体の需給バランス維持へのDER活用
- 上位系統の混雑回避に向けたDER活用の検証
- そのための情報管理・制御環境の整備
- 将来的な配電系統単位でのDER活用
将来的には、配電線単位で以下の用途にDERを活用することが想定されている。
- 配電線の混雑緩和
- 電圧調整
- DERを考慮した配電設備の最適化
当面は、次の設備を用いて配電系統の状態を精緻に把握し、設備形成の最適化を進めるとしている。
- IT開閉器
- 次世代スマートメーター
- その他のDER活用に資する次世代投資
また、蓄電池を併設する場合の接続ルールを整備することで、配電設備の増強を回避し、DERの普及・利活用を促進できる可能性が示されている。
主な課題
- 系統全体でDERを活用する場合と、配電系統で活用する場合の要件差の整理
- DER情報を管理する仕組み
- 短期間でDERを調達する仕組み
- 系統増強とDER調達の費用対便益比較
- 超急速充電器の接続ルールの整備
7. 3つの取組の比較
| 観点 | NEDO | 東京電力パワーグリッド | 関西電力送配電 |
|---|
| 主な対象 | 配電用変電所の混雑 | 配電エリア内の需給・混雑 | 配電線単位を含む配電系統 |
| DERの活用方法 | 指令に基づくフレキシビリティの調達・制御 | 価格シグナルによる自律的な取引・制御 | 系統状態の把握と将来的な系統運用への活用 |
| 中心的な仕組み | DER情報プラットフォーム | 分散エネルギー取引市場 | IT開閉器、次世代スマートメーター |
| 主な段階 | FS実施済み、実証準備中 | 将来構想 | 次世代投資・段階的検討 |
| 中心的な課題 | 情報連携、制御ルール、費用負担 | 情報管理、サイバーセキュリティ、市場設計 | 要件差、費用対便益、配電固有の制御 |
3つの取組は、いずれもDER活用を目指しているが、次の点でアプローチが異なる。
- NEDOは、混雑対策に必要なDERを明示的に調達・制御することに重点を置く。
- 東京電力パワーグリッドは、市場メカニズムや価格シグナルを通じて、DERの自律的な活用を目指す。
- 関西電力送配電は、系統の情報把握と設備形成の高度化を基盤として、段階的にDER活用を進める。
資料では、これらの取組について、技術的な相互利用や連携の可能性、目的・メリット・デメリットを踏まえて議論することが求められている。
8. 分散型エネルギープラットフォームで示された意見
資源エネルギー庁と環境省が開催した「分散型エネルギープラットフォーム」では、配電分野に関係する事業者等から、次のような意見が示された。
DERフレキシビリティの活用
- 小規模な低圧リソースも、アグリゲーターが束ねることで配電系統に貢献できる
- 系統混雑緩和に寄与する調整力を、どのように価値化・評価するかが重要である
- 混雑情報や、利用可能なDERが存在する配電系統を把握できるプラットフォームが必要である
- フレキシビリティの要件が厳しすぎると、参加可能なリソースが限定される
- リソース保有者やアグリゲーターにとって経済合理性のあるルール設計が必要である
活用可能なリソースと技術要件
- DERを制御するゲートウェイの仕様や通信プロトコルの統一が重要である
- 制御端末の導入費用や通信費が課題となる
- マンションを一棟単位で捉えることで、DRリソースとして活用できる可能性がある
- 蓄熱槽は上げDR・下げDRの双方に活用できるが、熱供給に必要な容量との両立が必要である
- 大容量蓄電池だけでなく、EVを束ねて活用することも考えられる
- 系統用蓄電池の設置場所を一般送配電事業者が誘導する仕組みを求める意見がある
配電事業ライセンス
配電事業ライセンスについては、次の意見が示されている。
- 配電事業を行う対象エリアの設定が重要である
- 山間部、ニュータウン、産業団地など、地域ごとに配電上の課題が異なる
- 一般送配電事業者と協力し、課題のあるエリアを特定することが重要である
- 地域新電力、アグリゲーター、配電事業者等が連携し、実証的に取り組むことが考えられる
- 配電事業の託送料金について、既存託送料金の5%以内とするルールでは、採算が合わない可能性が指摘されている
9. 共通する今後の課題
資料全体を通じて、DERの活用を実現するための課題は、次のように整理できる。
情報基盤の整備
- 系統の混雑・電圧等の状態を把握する仕組み
- DERの所在地、性能、稼働状況を把握する仕組み
- 送配電事業者とアグリゲーター間のデータ連携
- 配電エリア内の調整力を把握・管理する仕組み
制御・市場ルールの整備
- DERの制御方法・制御ルール
- フレキシビリティの要件
- 低圧リソースやEV等の参加要件
- kWh価値・kW価値等の評価方法
- 価格シグナルや取引ルール
- TSO・DSO間およびアグリゲーターとの役割分担
費用負担と事業性
- システム開発費用
- 通信・制御端末の導入費用
- DERの調達費用
- フレキシビリティの財源確保
- 系統増強費用との比較
- 配電事業の託送料金や費用回収方法
セキュリティ
- インターネット回線を利用するDER設備への不正アクセス対策
- DERを含むシステム全体のサイバーセキュリティ確保
- サイバーテロ等への対応
系統増強との費用対便益比較
DERの活用を進める際には、すべての課題をDERで解決するのではなく、系統増強との比較が必要となる。資料では、次の点を整理する必要があるとしている。
- 系統増強とDER調達のどちらが適切か
- 両者を組み合わせる場合の方法
- 系統増強を回避・最適化するDER活用の費用対便益
- 社会経済的な便益をどのように評価するか
10. 資料全体の整理
本資料は、DERを活用した配電系統運用について、単一の制度や技術を示すものではなく、複数の取組を通じて必要な環境整備と制度設計を整理したものである。
全体の方向性は、次のようにまとめられる。
- 太陽光発電、EV、蓄電池等のDERの増加に伴う混雑・電圧等の系統課題を把握する。
- スマートメーター、IT開閉器、DER情報プラットフォーム等により、系統とDERの状態を把握する。
- 指令型のフレキシビリティ調達や、市場・価格シグナルを通じた自律的なDER活用を検討する。
- 送電系統と配電系統、一般送配電事業者とアグリゲーター等の役割・費用関係を整理する。
- 系統増強、DER調達、配電事業の制度設計を費用対便益の観点から評価する。
- NEDO実証等を通じて共通的な環境整備を進め、将来的には配電系統固有の混雑・電圧制御等へ活用範囲を広げる。
したがって、DER活用の実現には、DERそのものの導入だけでなく、情報基盤、制御技術、市場・制度、費用負担、セキュリティ、系統運用の連携を一体的に整備することが必要である。