policy scope
コラム|

火力休廃止で供給力は足りるか

火力電源の休廃止は、単なる設備更新の問題ではない。失われるkWを、容量市場、追加オークション、更新投資、代替電源でどこまで埋められるかが、小売・発電の双方の収益に直結する。2026年時点では、休廃止の進行と需要増が同時に起きており、供給力を「市場で買えばよい」とは言い切れない局面に入っている。 本稿の中心的な問いは一つである。火力休廃止が進む中で、必要な供給力は本当に足りるのか。足りないなら、誰がどのコストで埋めるのか。以下では、この問いに沿って「変化→理由→作用経路→事業影響→判断」の順で整理する。
7 件参照

この記事でわかること

  • 火力電源の休廃止は、単なる設備更新の問題ではない。失われるkWを、容量市場、追加オークション、更新投資、代替電源でどこまで埋められるかが、小売・発電の双方の収益に直結する。2026年時点では、休廃止の進行と需要増が同時に起きており、供給力を「市場で買えばよい」とは言い切れない局面に入っている。 本稿の中心的な問いは一つである。火力休廃止が進む中で、必要な供給力は本当に足りるのか。足りないなら、誰がどのコストで埋めるのか。以下では、この問いに沿って「変化→理由→作用経路→事業影響→判断」の順で整理する。
  • 関連する審議会資料の論点と、事業判断への影響を確認できます。
  • 一次資料への導線をたどりながら、社内共有に使える形で整理できます。

変化:休廃止は供給力の前提条件になった

まず出発点となる変化は、火力の退出がもはや例外的な調整ではなく、供給力を考える際の前提条件になったことである。

2026年度供給計画では、火力発電の新増設と休廃止の差し引きで電源設備量が減少する見込みであり、2026年度中に休廃止となる火力電源は合計371万kWである。内訳はLNGが241万kW、石油他が104万kW、石炭が25万kWである。1

前年度も同様である。2025年度供給計画では、2025年度中に休廃止となる火力電源は602万kWで、LNG215万kW、石油他266万kW、石炭121万kWとされている。2

重要なのは、休廃止が単年度の変動ではなく、複数年度にわたり供給力を削る流れとして続いている点である。したがって論点は「火力を減らすべきか」ではなく、「減らすときに必要な供給力をどう確保するか」に移っている。12

Policy Monitoring

このテーマを、資料公開から社内共有まで追跡する

Policy Scopeでは、関連審議会の新資料、AI要約、重要論点、一次資料リンクをまとめて確認できます。

理由:なぜ供給力は足りなくなりやすいのか

この変化が供給不安に直結する理由は、設備量が減るだけでなく、需要・実効供給力・信頼度が同時に悪化しうるためである。

2026年度供給計画では、最大需要電力は2025年度の15,882万kWから2026年度見通しで15,963万kWへ増加し、2035年度には16,460万kWまで伸びる見通しである。1

一方で、供給信頼度の評価では、2029年度に東北・東京エリアでH1予備率が3%を下回る見通しが示されている。さらに、補修計画に相当する年間計画停止可能量によって予備率は1〜4%程度悪化する見込みである。加えてリスクケースとして、経年45年を超える火力電源の廃止非効率石炭火力の2029年度末での廃止が想定されている。3

ここでの作用経路は明確である。需要が増える一方で、休廃止により名目設備量が減る。さらに補修や停止を織り込むと、実際に使えるkWは見かけ以上に縮む。つまり問題は「設備があるか」ではなく、「必要な時期とエリアで使える供給力があるか」にある。投資判断でも、発電所の名目容量より、どの季節・どのエリアで実効供給力として評価されるかが効いてくる。13

作用経路:制度が不足をどこで価格に変えるか

このように不足が構造化すると、制度側も「不足したら後で補う」発想から「不足を先に織り込んで価格を決める」発想へ寄る。ここが供給力不足が事業に伝わる経路である。

容量市場は、電力量ではなく将来の供給力を取引する市場であり、発電事業者への容量確保契約金額の支払いを通じて、必要な供給力を前もって確保する仕組みである。4

その中で、追加オークションで調達を見込む供給力の扱いが見直されている。第73回検討会では、老朽火力の廃止が進む中で、追加オークションで調達を予定している供給力はH3需要の2%分として重要視され、メインオークション時点で控除する考え方の見直しが示された。5

この見直しが意味するのは、休廃止後に追加オークションで穴埋めすればよいという前提が弱くなっていることである。老朽火力の退出が増えるほど、メインオークション時点で不足を厳しく見積もる必要が生じる。結果として、発電事業者にとっては設備を止める判断が市場退出後の収益機会を狭めうるものになり、小売事業者にとっては調達コストを後ろ倒しで平準化する余地が小さくなる。5

補足(応札枠の技術的論点):追加オークションでの応札上限容量について、発動指令電源は現行のH3需要の4%から5%へ引き上げる案が示され、追加オークションの応札上限も「H3需要の1%+市場退出量」から「メインオークション未達量+市場退出量」へ見直す方向が検討されている。5

事業影響:コストと収益にどう跳ね返るか

前章の価格付けの前倒しは、最終的に小売の原価と発電の採算という形で現れる。

2026年5月公表の長期脱炭素電源オークションでは、第3回オークションの約定総容量が、脱炭素電源426.1万kW、LNG専焼火力303.8万kWとされた。同資料では、容量拠出金の試算として、2029年度の全国合計が一般送配電事業者メイン1,889.5億円、長期86.6億円、小売電気事業者メイン21,313.1億円、長期1,022.5億円と示されている。4

また、2025年度追加オークションの結果では、約定総容量830万kW、約定総額582億円であった。6

これらの数字が示すのは、供給力不足への対応が「安定供給のための保険料」にとどまらず、小売の原価と発電の投資採算を左右する固定費・収益源になっているということである。小売電気事業者は、需要家への価格転嫁余地が限られる中で、容量拠出金の増加と需給逼迫時の調達プレミアムの双方を負う。発電事業者は、休廃止を遅らせるか、更新投資や脱炭素化投資に踏み込むかで、将来収益の安定度が変わる。供給力不足は制度論で終わらず、P/Lに直接入ってくる。46

判断:何を基準に決めるか

コストと収益への伝わり方が見えれば、判断軸は「火力を残すか否か」ではなくなる。いつ退出し、どの代替手段で、どのコストと収益条件なら供給力を確保できるかが問われる。

第一に、休廃止のペースが制度と市場の吸収能力を上回るか。起点となる指標は、供給計画の火力休廃止量602万kW(2025年度)と371万kW(2026年度)であり、退出が継続するかを確認する必要がある。21

第二に、不足がどのエリアで実際の調達リスクになるか。2029年度に東北・東京で見込まれるH1予備率3%割れに加え、東京では2026年度供給計画でEUEが目標停電量を超過している点を押さえるべきである。37

第三に、供給力の価格付けがメインオークション側へどこまで前倒しされるか。追加オークションの扱いとメインオークション時点での控除の見直しが、不足がどの時点で価格に反映されるかを左右する。5

第四に、代替電源や更新投資が長期収益を確保できるか。長期脱炭素電源オークションの約定容量(脱炭素電源426.1万kW、LNG専焼火力303.8万kW)と容量拠出金試算の水準が目安となる。4

Key Points·読者別ポイント

小売電気事業者

  • 判断基準:容量拠出金と逼迫時調達コストを合算した総調達原価で、スポット依存をどこまで許容できるか。4
  • 監視指標:2029年度の小売電気事業者の容量拠出金試算(メイン21,313.1億円、長期1,022.5億円)、東北・東京のH1予備率3%割れ見通し。43

発電事業者

  • 判断基準:老朽火力の休廃止による固定費削減と、容量収入・追加オークション・長期収益機会の喪失を比較して、退出より更新・改修が有利か。54
  • 監視指標:火力休廃止量(2025年度602万kW、2026年度371万kW)、追加オークション制度見直し、長期脱炭素電源オークションの約定容量(脱炭素電源426.1万kW、LNG専焼火力303.8万kW)。2154

結論:何を判断すべきか

火力休廃止で供給力が足りるかという問いへの答えは、設備量の多寡では決まらない。判断すべきなのは、休廃止で失われる供給力を、制度上いつ不足として織り込み、どのエリアで、どのコストで、どの代替手段が埋めるのかである。

2026年時点では、休廃止の継続、需要の増勢、予備率低下が同時に進み、容量市場と追加オークションは「余裕があれば使う制度」から「不足を前提に価格を決める制度」へ変わりつつある。135

したがって、小売電気事業者は容量拠出金と逼迫時調達を含めた総コストで供給戦略を見直すべきであり、発電事業者は休廃止より更新・改修・長期契約の方が期待収益と制度適合性の両面で有利かを判断すべきである。供給力確保は、もはや制度対応ではなく、事業判断そのものになっている。45

参考文献

  1. 3.
    中長期の厳気象H1需給時の需給見通しについて
    電力広域的運営推進委員会2026/06/02PDF
  2. 4.
    2026年度供給計画の取りまとめについて
    電力広域的運営推進委員会2026/03/16PDF

本サービスで提供される審議会資料は、各府省庁が公開している情報を公共データ利用規約(PDL1.0)に基づいて利用しています。詳細はデータソースページをご確認ください。

Next Action

容量市場を監視テーマに設定しませんか?

制度変更や関連資料の新着を、出典付きで継続的に確認できます。

容量市場の監視を相談する

関連する政策文書

Policy Scope では、審議会資料の原文・要約を無料で検索・閲覧できます。

資料を検索する