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非化石証書とは何か。非化石価値・ゼロエミ価値・環境表示価値の違いと取引市場・トラッキングの仕組み

非化石証書は、原子力や再生可能エネルギーなど二酸化炭素を排出しない電源が持つ「環境価値」を、電気そのものから切り離して証書の形で取引できるようにした仕組みです。2018年5月に非化石価値取引市場が創設され1、環境価値の対価を非化石電源に還流させることを目的としています。
6 件参照

この記事でわかること

  • 非化石証書がなぜ電気と分離して取引されるのか、その制度目的と対象電源の広がり
  • 非化石価値・ゼロエミ価値・環境表示価値という3つの価値の意味と、再エネ指定証書と指定なし証書の違い
  • 取引市場に誰が参加でき、トラッキング(電源の属性情報の紐付け)が需要家の再エネ調達にどう関わるか

非化石証書は電気の「環境価値」を切り離して取引する証書

非化石証書とは、原子力や再生可能エネルギーといった、発電時に二酸化炭素を排出しない電源(非化石電源)が持つ環境上の価値を、電気そのものとは別に証書化したものです。電気は物理的にはどの電源から来たか区別できないため、卸電力取引所を経由して売買すると、その電気がどの電源で作られたかという情報が失われます。JEPX(日本卸電力取引所)経由の取引では非化石電源の環境価値が認識されないため、環境価値を分離して証書として取引する制度が導入されました1。

ここでいう環境価値とは、「化石燃料に由来しない電気である」という属性そのものを指します。電気の物理的な量(kWh)とは別の商品として扱うことで、環境価値を求める需要家がその対価を支払い、対価が非化石電源の事業者へ届く構造をつくることが制度の狙いです。証書は電気1kWh単位で発行され、購入した側は「その量に相当する環境価値を自らのものとして扱える」という考え方に立ちます。

初めて調べる際に混乱しやすいのは、非化石証書が「電気そのものを買う仕組み」ではないという点です。電気は通常どおり小売電気事業者から購入し、環境価値だけを別途証書で調達する、という二層構造になっています。

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制度の目的はエネルギー供給構造高度化法の目標達成と環境価値の対価還流

非化石証書が生まれた直接の背景には、エネルギー供給構造高度化法(高度化法)があります。同法に基づき、小売電気事業者は自らが販売する電気に占める非化石電源の比率を高めることが求められています1。小売電気事業者の非化石電源導入量は、証書の調達量によって判断される整理となっており2、証書は法令上の目標達成手段としての役割を担っています。

もう一つの目的が、環境価値の対価を確実に非化石電源へ流すことです。証書を通じて価値を明示的に売買することで、非化石電源の事業者が環境価値に見合う収入を得られる構造を目指しています1。

対象となる電源は段階的に広がってきました。2018年5月に始まった当初はFIT(固定価格買取制度)電源に由来する証書のみが取引対象でしたが、2020年度からは非FIT電源も対象となり、すべての非化石電源に基づく証書が発行される形へと拡大しています21。この拡大により、原子力や大型水力、FIT期間を終えた再エネなども証書の発行対象に含まれるようになりました。

取引市場の参加者は小売電気事業者から需要家へ広がった

非化石証書は、日本卸電力取引所(JEPX)が運営する非化石価値取引市場で売買されます。制度の開始当初、この市場に参加できるのは小売電気事業者に限られていました3。需要家が環境価値を得るには、小売電気事業者を経由して証書付きの電力メニューを購入する必要がありました。

その後、需要家の証書調達手段を多様化する観点から資源エネルギー庁の制度検討作業部会で検討が行われ、JEPXの業務規程が変更されました。これにより、需要家が小売電気事業者を介さず非化石証書を直接購入できる仕組みが整備され、再エネ価値調達の効率化とコスト低減が期待されるとされています3。JEPXの業務規程の変更には経済産業大臣の認可が必要であり、2021年に認可手続きが進められました3。

市場に参加するには「非化石価値取引会員」としての加入手続きが必要です。加入要件としては、日本国内に法人格を持つことに加え、電気事業法に基づく小売電気事業者・発電事業者・一般送配電事業者または特定送配電事業者などの資格が定められています3。加入時には資格を示す書面、業務規程への同意書、利用目的および収支計画、定款や財務諸表などの提出が求められ、入会金10万円と年会費の納入が必要とされています3。

非化石価値・ゼロエミ価値・環境表示価値という3つの価値の区分

非化石証書が持つ価値は、用途に応じて3つに整理されます。第一が非化石価値で、高度化法上の非化石電源比率にカウントできる価値です。第二がゼロエミ価値で、CO2排出係数の算定において排出をゼロとして扱える価値を意味します。第三が環境表示価値で、需要家に対して「再生可能エネルギー由来である」と訴求できる価値です。

証書は「再エネ指定」と「指定なし」の2種類に区別されます。いずれも非化石価値を持ち、ゼロエミ価値としては0kg-CO2/kWhとして扱われますが、環境表示については再エネ指定は表示可能、指定なしは表示不可という違いがあります2。原子力など再エネ以外の非化石電源に由来する証書は「指定なし」に区分され、CO2排出量の削減には使えても「再エネ」という訴求には使えない、という整理です。

この区分は需要家への表示ルールと直結しています。電力・ガス取引監視等委員会の制度設計専門会合では、非化石証書制度の変更を踏まえて「電力の小売営業に関する指針」(小売営業ガイドライン)の改定が議論され、再エネ指定証書と非FIT電源の組み合わせは「再エネ」、再エネ指定証書とFIT電気の組み合わせはFIT電気である旨の説明を伴う表示、その他の電源との組み合わせは「実質再エネ」に相当する説明、証書を使用しない場合は訴求不可、という方向で整理が進められました1。証書を切り離した後の電気を再エネとして売る「抜け殻」問題も、この議論の論点に含まれています1。国際的なイニシアチブであるRE100などとの整合性も意識されています2。

比較項目基本的な意味押さえるポイント
非化石価値化石燃料に由来しない電気であるという属性そのものの価値エネルギー供給構造高度化法に基づく小売電気事業者の非化石電源比率の算定に用いられ、再エネ指定・指定なしのいずれの証書も保有します2
ゼロエミ価値CO2排出係数の算定上、排出をゼロとして扱える価値再エネ指定・指定なしとも0kg-CO2/kWhとして扱われ、需要家のCO2排出量削減の手段になります2
環境表示価値需要家に対して再生可能エネルギー由来である旨を訴求できる価値再エネ指定証書のみが表示可能で、指定なし証書では再エネ表示ができないという区分です2
再エネ指定証書太陽光・風力・水力など再エネ電源に由来する証書組み合わせる電源によって「再エネ」「FIT電気」「実質再エネ」など表示の整理が分かれます1
指定なし証書原子力などを含む非化石電源全般に由来する証書非化石価値とゼロエミ価値は持ちますが、再エネとしての訴求はできません2
トラッキング証書に発電設備や電源種別などの属性情報を紐付ける仕組み需要家が調達した環境価値の由来を説明できるようになり、国際的な枠組みへの対応に関わります

トラッキングと表示ルールの整備が現在の運用の中心にある

トラッキングとは、証書に対して「どの発電設備が、いつ、どの電源種別で発電した電気に由来するか」という属性情報を紐付ける仕組みを指します。証書そのものは電気から分離された抽象的な価値であるため、発電所名・所在地・電源種別・発電時期といった情報を付与することで、需要家が自らの調達内容を第三者に説明できるようになります。RE100のような国際的な枠組みでは電源の特定が求められるため、トラッキング付き証書の需要が生じます。

表示の適正性は継続的な監視の対象です。電力・ガス取引監視等委員会は、小売電気事業者の表示に不適切な事例が確認されているとして、電源構成や非化石証書の使用状況に関する記載の整理・明確化を含む小売営業ガイドラインの改訂を議論しています4。改訂では、電源構成等情報の表示に関する整理表の追加や、問題となる行為と望ましい行為の分離記載が方向性として示されました4。制度の焦点は、証書を発行・取引する段階から、需要家に誤認を与えない形で価値を伝える段階へ移っているといえます。

環境価値の証明という考え方は電力以外にも広がっています。都市ガス分野では、合成メタン(e-methane)の環境価値をデジタル基盤上で移転する取り組みが行われ、2025年の大阪・関西万博では都市ガス業界初となるクリーンガス証書の移転が実施されました5。また、2026年度から本格稼働する排出量取引制度についても、取引参加者や不公正取引への対応を含む法的な論点整理が進められています6。非化石証書と排出量取引制度は別の枠組みですが、環境価値をどう市場で扱うかという共通の課題を持つ隣接領域として理解しておくと、制度全体の見取り図がつかみやすくなります。

参考文献

  1. 3.
    日本卸電力取引所の業務規程の変更認可について
    電力・ガス取引監視等委員会2021/10/20PDF
  2. 5.
    小売電気事業・ガス小売事業に係る対応について
    電力・ガス取引監視等委員会2023/12/26PDF

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