DRは「節電」から「市場商品」へ変わったか
この記事でわかること
- デマンドレスポンス(DR)は、単なる電力使用の抑制策ではなく、需要側リソースを市場・制度に接続して調整力として売買する仕組みへと変わってきた。DRとは、需要家側の負荷制御や蓄電池・EV・分散電源の充放電を通じて、電力需給に応答する仕組みである。 その収益源も、経済DR、需給調整市場向けDR、容量市場といった複数の制度・市場をまたぐ形に拡張している。 中心的な問いは1つである。**DRは「節電策」から、計測・精算条件を満たした需要
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制度化は何を変えたのか
まず結論から言えば、DRを市場商品へ近づけた変化は、制度と市場が接続されたことである。前提となるのが、ERABガイドラインと需給調整市場の進展だ。
ERABガイドラインは、需給調整市場の活用を促進するために改定が進められており、2026年度からは低圧小規模リソースの活用に関する方針と機器個別計測の開始が決定済みである。3 一方で、需給調整市場は2024年4月に全商品で開始済みであり、一次・二次・三次を含む調整力の市場調達が実際に動き始めている。4
この制度化の意味は明確だ。DRは「導入すれば自然に売れる」ものではなく、市場要件に合う計測・アセスメント・精算設計を備えたリソースだけが取引可能になる段階に入ったということである。32 つまり、変化の本質は制度の有無ではなく、制度適合性が商品性の条件になった点にある。
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なぜ「節電」ではなく「商品」になったのか
前章の制度化は、DRの価値の評価方法を変えた。理由は、市場で売れるかどうかが、行為そのものではなく計測可能性と精算可能性で決まるようになったからである。
その象徴が、2025年上期時点でも需給調整市場で応札不足が続いているという事実だ。全商品の募集量に対して応札量・約定量の未達が生じている。5 これは、需要があるのに供出が足りないことを示す一方で、単にリソースが存在するだけでは市場に出せないことも示している。供給不足の原因は、量の不足だけではなく、要件を満たして取引可能な形に整えられたリソースが限られることにある。
このため、DRの競争力はリソース保有量よりも、計測方式、制御応答、ベースライン設計、入札運用の精度へ移る。32 「節電」であれば削減量そのものが主役だったが、「市場商品」であれば、削減や充放電を取引可能な形で証明し、清算できることが主役になる。
その変化はどの経路で事業に効くのか
では、この変化は蓄電池・VPPやトレーディング実務にどう作用するのか。前章の理由は、主に3つの経路で事業に影響する。
第一に、機器個別計測が供出実績の不確実性を下げる。受電点全体ではなく機器単位で測ることで、蓄電池やEV充放電器のような可制御リソースは他負荷の影響を受けにくくなり、供出実績をより正確に評価できる。3 これは、ベースライン誤差や精算トラブルを減らし、案件の再現性を高める方向に働く。
第二に、単一市場依存から複数ユースケースの積み上げへ収益構造が変わる。EV充電器・充放電器のユースケース整理では、容量市場、需給調整市場、経済DR、再エネ出力制御低減、系統混雑緩和などが列挙されており、複数市場での収益機会が前提になっている。2 その結果、蓄電池・VPPは単発の高単価案件ではなく、案件群を束ねて稼働率を高めるポートフォリオ型の事業に近づく。
第三に、前日取引化が運用収益を左右する。需給調整市場の前日取引(三次調整力②)では、2025年夏時点でも平均約定単価は多くのエリアで1円未満だが、最高約定単価は中部・関西で200円、九州で197円、東北で195円が観測されている。6 したがって、平時の単価は低くても、需給逼迫や商品制約が出た局面では価格変動が大きくなり、アグリゲーターやトレーディング事業者の運用精度が収益を左右する。6
事業影響は収益機会の拡大だけではない
前章の作用経路は収益機会を広げるが、同時にコストと制度対応の比重も高める。ここで見るべきは、DRが「売上の出る制度」になった一方で、「利益の残る事業」になる条件はなお厳しいという点である。
DRのコストは、顧客報酬、アグリゲーター報酬、ネガワット調整金に大きく分かれる。1 なかでもネガワット調整金は、小売電気事業者とアグリゲーター間の費用と便益の不一致を埋めるものであり、ERABガイドライン改定でも精算方法の整理が進められている。3 ここが曖昧なままでは、売上が立っても利益が残りにくい。
さらに、制度運用の側でも価格規律が強まる。B種電源協議の廃止が2026年度以降に予定されているため、事前の価格協議に頼る余地は縮小する。7 その分、制度設計・監視専門会合で示されているように、不合理な入札価格設定や不適切なシステム設定まで事後措置の対象に追記する方向が示されており、事後監視と価格規律の重要性は増していく。7
加えて、アセスメント緩和やペナルティ見直しは継続的に検討されている。8 これは改善余地があることを示す一方で、制度が未成熟である限り、ルール変更リスクも残ることを意味する。したがって、蓄電池・VPP事業者にとっての主要リスクは機器性能だけではなく、制度対応の不備がペナルティや供出停止につながることである。トレーディング事業者にとっても、価格変動の取り込み以上に、制度変更に合わせて約款・精算・システムを更新できるかが競争力になる。
何を判断基準に見るべきか
ここまでの因果関係を踏まえると、実務上の判断は「DR市場に参加するか」では足りない。前章の事業影響を受けて、どの制度条件が利益を左右するかを見極める必要がある。
判断の起点になるのは、機器個別計測とベースライン標準化の進捗である。2026年度の開始済み項目が現場に落ちるほど、蓄電池・EV・低圧リソースの採算性は改善しやすい。3
次に重要なのは、需給調整市場の応札不足と価格スパイクである。応札不足が続けばリソース保有者には収益機会が残る一方、調達側には制度見直し圧力がかかる。5 また、前日取引で平均単価が低くても最高約定単価が大きく跳ねる局面がある以上、価格水準だけでなく価格変動の出方を見る必要がある。6
さらに、ERABガイドライン改定とネガワット調整金の運用も判断材料になる。ここが固まるほど、小売とアグリゲーターの責任分担と利益配分は明確になる。3 加えて、インバランス料金単価の見直しは、DRの市場活用を後押しする可能性がある。1
蓄電池・VPP事業者
- 判断基準:容量や制御性能より先に、計測方式とベースライン設計が収益化のボトルネックになっていないか。
- 監視指標:機器個別計測の実装進捗、アセスメント条件、精算方法の明確化。3
小売電気事業者・トレーディング事業者
事業開発・制度対応担当
参考文献
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