資料の目的・背景
本資料は、経済産業省および環境省が共同で作成した「GX実現に資する排出量取引制度の法的課題とその考え方についての報告書(案)」の概要を提示している。排出量取引制度に関する法的論点を抽出し、整理した内容が中心である。
これまでの検討と報告書(案)
本研究会では以下の内容について検討を行った:
- EU等の排出量取引制度及び国内のカーボン・クレジット(J-クレジット等)を法体系に適用した際の論点
- 学術的・実務的観点からの考察
報告書(案)の取りまとめが行われ、今後の意見聴取が求められている。また、2023年9月3日に設置された「カーボンプライシング専門ワーキンググループ」が、具体案に基づく論点整理を進める予定である。
研究会の開催日
| 回数 | 日付 | 内容 |
|---|
| 1 | 5月17日 | 排出量取引制度に係る憲法上の論点 |
| 2 | 6月5日 | 憲法上・行政法上の論点 |
| 3 | 7月22日 | 行政法上・民事法上の論点 |
| 4 | 8月21日 | 民事法上の論点と市場取引に係る法的在り方 |
排出量取引制度の法的課題の概要
報告書(案)における法的課題は以下に整理されている:
- 検討の前提
- 憲法上の論点
- 行政法上の論点
- 民事法上の論点
- 排出枠の市場取引に係る法的在り方に関する論点
- 会計上の論点
憲法上の論点
- 営業の自由(憲法22条1項)
- 制度設計には広範な立法裁量があり、規制の合理性が確保されれば侵害にはならない。
- 平等原則(憲法14条1項)
- 合理的な理由に基づく別異取扱いは平等原則に反しない。
- 財産権(憲法29条1項・2項)
- 市場安定化措置の設置による問題は生じない。事後的な制度変更は合理的な理由があり、予見可能性が担保されれば財産権を侵害しない。
- その他の課題
- 租税法との関係、条例による制度との関係に関する検討が必要。
行政法上の論点
- 排出枠賦課義務及び行政法上の位置付け
- 制度の複合的性格を踏まえ、必要な規制内容を検討する必要がある。
- 対象事業者に対する権利救済・権利保護手続
- 抗告訴訟の対象行為と不服申立の要否については整理が必要。
- 制度の実効性確保の在り方
- 不履行に対する課徴金等の負担を課す手法が考慮されている。
民事法上の論点
- 排出枠の民事法上の性質
- 排出枠は「財産権」として整理される方向性が検討されている。
- 取引に関する規律の在り方
- 権利帰属や移転の効力発生要件の明確化が必要である。
- 既存法令との関係
- 民法・民事執行法・破産法に関しての配慮が求められる。
排出枠の市場取引に係る法的在り方に関する論点
- 取引業者・仲介業者への規律
- 市場参加者の保護を踏まえた業規制が検討されている。
- 排出枠取引所への規律
- 不公正取引への対応
- 相場操縦やインサイダー取引への対応として法令上の規制が必要。
海外制度における取引市場の状況
EU(欧州連合)
- 口座開設: 制度対象者と非制度対象者が口座を開設可能。外国法人については加盟国による。
- 排出枠取引所: EEX、ICE、Nasdaq、Oslo 等が存在し、特にICEが85%の市場シェアを持つ。
- 取引参加者: 制度対象者、金融機関、ファンド等から成り、約4割が制度対象者である。
- 規制: 排出枠は金融商品として扱われ、取引業者に対する規制が存在。マーケットはMAR(Market Abuse Regulation)が適用される。
韓国(K-ETS)
- 口座開設: 制度対象者は口座開設を認められるが、非制度対象者及び外国法人は例外。
- 排出枠取引所: 現在は現物取引のみで、2025年にはデリバティブ市場の開設を検討中。
- 取引参加者: 制度対象者や指定金融機関等、現在20社以上。
- 規制: 資本市場法に基づいて規制され、不正取引行為の禁止等が適用される。
参考:GX-ETS
- 制度: GXリーグの参画企業が対象。
- 排出枠取引所: 東京証券取引所でのカーボンクレジット市場。
- 取引参加者: 口座を開設した者。
| 制度 | 口座開設が認められている者 | 排出枠取引所 | 取引所取引の参加者 | 取引業仲介業に関する規制 | 不公正取引への対応 |
|---|
| EU-ETS | 制度対象者、非制度対象者(国による) | EEX、ICE(デリバティブ)、Nasdaq、Oslo | 制度対象者、金融機関、ファンド等(約4割) | 金融商品としての規制 | MARにより不公正取引規制 |
| K-ETS | 制度対象者、非制度対象者(外国法人除く) | KRX(現状現物取引のみ、デリバティブは未開設) | 制度対象者、指定金融機関等(20社超) | 資本市場法に基づく規制 | 一部で資本市場法の規制適用 |
| 参考 GX-ETS│ GXリーグ参画企業 | カーボンクレジット市場(東京証券取引所) | 口座を開設している者 | 特になし | 特になし | |
会計上の論点
1. 実務対応報告第15号の適用可否
- 排出量取引の会計処理に関しては、企業会計基準委員会が実務対応報告第15号において整理している。今後の制度稼働に伴い改めて適用の検討が必要となる。
2. 実務対応報告第15号を適用する場合の具体的論点
- 排出枠に関する会計処理
- 無償で取得した場合は取引を認識しない。財産権としての性質を有する場合、資産の認識及び計上が必要となる。
- 排出量削減義務に関する会計処理
- 法的義務が課されない事を前提としているが、義務化された場合には負債の認識・測定に関わる新たな論点が生じる。
- その他の論点
- 温室効果ガス排出時や排出枠の償却時に関する会計処理についても法的整理が必要である。
実務対応報告第15号に基づく無償取得時の考え方
| 取得方式 | 事後清算による排出枠取得時 | 事前交付による排出枠取得時 |
|---|
| ① 事前交付時 | 仕訳なし | 仕訳なし |
| ② 第三者への売却時 | 仮受金等として計上 | 仮受金等として計上 |
| ③ 目標達成確認時 | 仕訳なし | 仕訳なし |
| ④ 無償取得枠及びボローイング枠の償却時 | 仕訳なし | 原則として販売費等に計上 |
| ⑤ 第三者への売却時(目標達成前) | 仮受金等として計上 | 仮受金等として計上 |
| ⑥ 複数年度の通算目標達成見込み時 | 仮受金を利益に振り替える | ─ |
(出所)企業会計基準委員会「実務対応報告第15号 排出量取引の会計処理に関する当面の取扱い」から一部抜粋
市場取引の発展に伴う排出枠の会計上の課題
- 実務対応報告第15号によると、排出クレジットは金融投資と事業投資に分けられる。今後の市場整備が予想されるが、その際の会計処理のあり方が問われる。
| 市場の整備状況 | 事業投資 | 金融投資 |
|---|
| 活発な市場では | 取得原価による | 取得原価及び時価による |
| 市場の整備が不十分な場合 | 規定による費用処理 | N/A |
まとめ
本報告書(案)は、排出量取引制度に関する法的課題を幅広く検討したものであり、今後の法整備や制度設計において重要な指針となる。公正かつ合理的な制度構築を目指し、各領域での意見集約が求められる。