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コラム|

長期脱炭素電源オークションは投資採算をどう変えるか

長期脱炭素電源オークションは、脱炭素電源に対して原則20年間の固定収入を与え、投資回収の見通しを立てやすくするための制度である1。ただしそれは単純な「長期契約」ではない。他市場収益の還付や可変費の監視が組み込まれており、収益の安定化と引き換えに、収益の取り方とコストの示し方まで制度管理に入る仕組みになっている23。 本稿の問いは一つであ
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この記事でわかること

  • 長期脱炭素電源オークションは、脱炭素電源に対して原則20年間の固定収入を与え、投資回収の見通しを立てやすくするための制度である。ただしそれは単純な「長期契約」ではない。他市場収益の還付や可変費の監視が組み込まれており、収益の安定化と引き換えに、収益の取り方とコストの示し方まで制度管理に入る仕組みになっている。 本稿の問いは一つであ
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変化:制度はすでに「投資前提」として織り込む段階にある

問いに答える前に、まず前提となる制度がどこまで実装されているかを確認する。

長期脱炭素電源オークション(長期AX)は、脱炭素電源の新設・リプレースや既設火力の脱炭素化改修を対象に、容量収入を長期に確保する仕組みである1。2023年度に開始され、初回に向けた制度設計が進められた後、2024年度募集要綱案の意見募集、2025年には約定結果の報告へと進んだ145

2025年5月時点で、2024年度オークションの約定容量は503.0万kW、約定総額は3,464億円/年と報告されている5。さらに2026年5月の報告では、第3回オークションで脱炭素電源426.1万kW、LNG専焼火力303.8万kWが約定したとされ、対象電源の広がりも確認できる6

制度ステータスを実務的に整理すると、長期AXそのものは開始済みガイドライン改定や他市場収益の監視強化は決定済み〜実装進行中次回以降の募集条件や詳細運用は継続検討中である137

つまり採算判断はもはや「制度があるか」ではなく、制度が実装されたうえで、その細部がどこまで動くかを見る段階に入っている。

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理由:なぜ収益は安定し、同時に自由度が下がるのか

制度が投資前提となった以上、次に問うべきは、その制度がなぜ採算の構造を変えるのかである。

理由は設計そのものにある。長期AXは、固定費相当の容量収入を長期に確保する一方、他市場収益の大部分を還付させる12。価格変動の大きい他市場収益への依存を抑えることで、投資回収を読みやすくする狙いである。

この安定化は、裏側で自由度の低下と一体になっている。2025年11月のガイドライン改定方向では、実際の他市場収益に基づく還付額の監視を強化する方針が示され、落札事業者が他市場収益を不当に低く、また可変費を不当に高く見せる行為を避ける狙いが明示された3。2025年7月の監視とりまとめでは、落札事業者は他市場収益の約9割を還付する扱いが整理されている7

安定は無償ではない、というのがこの制度の要点である。

作用経路:手元に残るのは「容量収入+残余」だけになる

還付と監視が同時に効くことで、事業者のキャッシュフローに至る経路は単純化される。

事業者が実際に手元へ残せる収入は、容量収入+残余の他市場収益であり、その残余は監視・照合の対象となる8。したがって、制度導入前のように売電や相対契約の組み方そのもので収益を大きく最適化する余地は縮小する。

発電事業者にとって重要なのは、PPAや相対取引、スポット・先渡し等をどう組むかそれ自体より、それらが監視ルール上どのように還付対象・算定対象となるかである9。インフラファイナンスでも、売電収入を強気に置くことより、還付後に残る純キャッシュフローをどれだけ保守的に見積もれるかが採算判断の核心になる。

事業影響:どの電源の採算に効きやすいのか

この収益構造の変化は、すべての電源に同じ強さで効くわけではない。作用経路を踏まえて、案件の相性を見る。

2023年時点の制度説明では、長期AXは脱炭素電源の新設・リプレースと、既設火力の脱炭素化改修を対象とし、安定電源と変動電源の両方を含みうる設計であった1。2026年の約定結果ではLNG専焼火力も一定規模で約定しており、制度が移行電源を含めて脱炭素投資を支える場として運用されていることも分かる6

ここから見える事業影響は明確である。この制度で有利になるのは、市場価格上昇の恩恵を大きく取れる電源ではなく、大きなCAPEXや改修費を、長期の容量収入を軸に回収しやすい電源である。他市場収益の大部分が還付される以上、市場での上振れよりも、建設・改修の実現性と制度適合性が価値を左右しやすい110

原子力、水力、蓄電池、火力改修などは、CAPEXの大きさ、工期、運転特性、上流コストの持ち方が異なる。それでも共通するのは、20年収入で回収可能かどうかが採算判断の軸になる点である。分岐点は技術の優劣ではなく、上流燃料費・安全対策費・系統制約・工期を織り込んだ後でも、還付後純収入で回収できるかにある。

補足:電源別要件の位置づけ

募集要綱案では、水素・アンモニア・バイオマスの上流コスト既設原子力の安全対策投資一般水力の最低入札容量蓄電池揚水の最低入札容量など、電源別の費用や要件が細かく反映されている10。実務上は、これら枝葉の要件を個別に追うより、その要件が案件の固定費回収可能性をどう変えるかに落とし込めばよい。

判断:何を監視すれば誤らないか

以上の作用と影響を踏まえると、判断のために追うべき変数は絞り込める。

第一に、還付ルールと監視の詳細化がどこまで進むかである。2025年11月の資料では、監視方法、費目、監視フローの明確化が改定対象とされており、収益認定の裁量余地はさらに狭まる可能性が高い3

第二に、募集要綱での対象電源・上限価格・最低入札容量の調整である。2024年度案では、水素・アンモニア・バイオマスの上流コストや既設原子力の安全対策投資が反映されており、制度は一律ではなく、個別電源のコスト構造を見て微修正されている4

第三に、約定実績の積み上がりが示す競争環境である。2024年度の約定容量503.0万kW、第3回オークションでの脱炭素電源426.1万kWとLNG専焼火力303.8万kWの約定は、制度が一定の調達実績を持つことを示す一方、案件間競争が厳しくなる可能性も示している56

要するに、上限価格の改定方向、還付率の運用、可変費認定の考え方、次回募集量が採算の前提をどこまで変えるか——これが、入札に参加するか見送るかという意思決定に直結する37

Key Points·読者別ポイント

発電事業者

  • 判断基準:還付後純収入で、工期遅延や可変費説明を含めても投資回収が成り立つか73
  • 監視指標:還付ルールの詳細、可変費認定の考え方、上限価格の改定方向、次回募集条件34

インフラファイナンス担当者

  • 判断基準:制度変更リスクを織り込んだうえで、返済原資となる純キャッシュフローが安定しているか56
  • 監視指標:監視ガイドライン改定、約定実績の積み上がり、募集量、還付率運用37

事業開発・審査担当者

  • 判断基準:制度適合性と建設・改修実現性を織り込んでも、20年収入で回収可能か110
  • 監視指標:対象電源要件、最低入札容量、上流コスト反映、安全対策投資の扱い10

結論:何を判断すべきか

長期脱炭素電源オークションは、脱炭素電源への投資回収を長期固定化する一方、他市場収益の大部分を還付させることで、収益の安定と規律を同時に実現する制度である1[DOC:83a3c197-864a-4def-9644-1fe414bd0b87

参考文献

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