海外の電力及びガス規制機関に関する調査報告
資料の目的・背景
本資料は、海外の電力及びガス規制機関について調査し、日本の電力・ガス取引監視等委員会(以下、電取委)との比較を通じて、参考となる事例や示唆を抽出することを目的としている。また、今後の電取委の組織方針を策定するための基礎資料ともなる。
検討内容
検証の全体構成
- 目的: 電取委の中期方針や監視機能強化の方針を策定すること
- 内容:
- 電取委の状況及び活動実績の整理
- 海外規制機関の現状に関する評価
- 必要な議論を行い、論点事項を抽出
- 組織方針の策定やMVVの見直しを考慮
比較検証の対象国
- 調査対象: 日本、米国、英国、フランス、スウェーデン
- 方法: 文献調査及びヒアリング調査
海外規制機関と日本の比較
| 日本 | 米国連邦 | ペンシルベニア州 | 英国 | フランス | スウェーデン |
|---|
| 規制機関 | 電力ガス取引監視等委員会 (EGC) | 連邦エネルギー規制委員会 (FERC) | ペンシルベニア州公益事業委員会 (PA PUC) | ガス電力市場委員会 (GEMA) | エネルギー規制委員会 (CRE) | エネルギー市場監督局 (EI) |
| 政策当局 | 経済産業省 | 連邦エネルギー省 (DOE) | 環境保護局 (DEP) | エネルギー安全保障ネットゼロ省 (DESNZ) | 環境持続可能開発エネルギー省 (MEDDE) | 気候企業省 |
| 設立年 | 2015年 | 1977年 | 1937年 | 2000年 | 2000年 | 2005年 |
| 規制対象 | 電力ガス | 電力水力発電天然ガス石油 | 電力天然ガス通信上下水道旅客貨物輸送等 | 電力ガススマートメータ通信 | 電力天然ガス | 電力天然ガス |
| 備考 | 小売市場は監視対象外 | 各州の公益事業委員会が所管 | | | | |
組織の体制及び活動実績
日本と海外の組織規模
- 日本の電取委は約140名の職員を擁し、米国FERCは約1,500名、英国Ofgemは約2,150名の職員を配置している。
- 特に市場監視を担う部署において、米国FERC及び英国Ofgemは日本よりも多くの職員を配置している。
| 日本 (EGC) | 米国連邦 (FERC) | ペンシルベニア州 (PA PUC) | 英国 (Ofgem) | フランス (CRE) | スウェーデン (EI) |
|---|
| 職員数 | 約140名 | 約1,500名 | 約500名 | 約2,150名 | 約165名 | 約220名 |
| 市場監視を担う部門の職員数 | 64名 | 388名 | 45名 | 560名 | 97名 | 105名 |
職員の専門性の違い
海外では、電力規制機関における専門的な職員の採用が行われており、日本では採用していない職種が多い。特に、エコノミストやエネルギーアナリストなどの専門家が市場監視に関与している。
人材採用と専門性の向上
専門人材の採用方法
- 各国で中途採用の専門人材獲得が困難であり、特に英国では希少なサイバーセキュリティ専門家には給与を**20%**高く設定している。
- 公務員での仕事の利点として、ワークライフバランスや福利厚生が充実していることが挙げられる。
トレーニングプログラムの実施
- 若手を育成するためのトレーニングプログラムを充実させている国があり、高品質で多様な人材を特定・惹きつけるための人事体制を整備している。
予算の比較
海外の規制機関の予算
日本と比較すると、特に米国FERCや英国Ofgemの予算規模は非常に大きく、近年予算が増加傾向にある。
| 日本 (EGC) | 米国連邦 (FERC) | ペンシルベニア州 (PA PUC) | 英国 (Ofgem) | フランス (CRE) | スウェーデン (EI) |
|---|
| 年間予算額 | ー | 5億6,540万ドル | 8,527万ドル | 1億4,000万ポンド | 2,260万ユーロ | 223百万クローネ |
| 人件費 | 約240億円 | 3億5,048万ドル | 6,984万ドル | 1億ポンド | 1,590万ユーロ | ー |
近年の予算推移
- 米国FERCでは、送電線・パイプラインの建設増加による人件費及び情報技術費用の増加が予算増加の原因とされている。
- 英国Ofgemも、ガス危機対応及びサイバーセキュリティ対策のために予算が増加している。
結論
本資料により、海外の電力・ガス規制機関との比較を通じて、電取委の体制や活動の改善点が明らかにされ、今後の方針策定に資する情報が提供されている。
英国のCNIに向けた規制機関の役割拡大
背景
- 英国の規制機関Ofgemは、2023年10月に制定されたEnergy Act 2023に基づき、ネットゼロの達成義務を負うこととなった。この変更は、Ofgemが短期的な検討に偏った結果、先行投資や新技術導入に対する規制上の障壁が指摘されたことが背景にある。
Energy Act 2023によるOfgemの役割拡大
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FSO(Future System Operator)の設立
- 既存の電力系統運用者とガス系統計画者を統合し、FSOとして新たな運営体制を構築する。FSOは早ければ2024年中に設立される見込み。
-
CO2輸送・貯留の規制
- OfgemがCO2輸送・貯留の経済規制機関として指定され、収益上限の設定とネットワーク利用者への料金監督が求められる。
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熱ネットワークの規制
- Ofgemは熱ネットワークの消費者保護を目的とした規制を強化し、ライセンスを通じた監視が行われる。
-
エネルギー規約のガバナンス
- 業界に責任を持つ規約マネージャーを新設し、消費者の利益を促進するための契約更新を促進する役割が強化される。
予算に関する規制機関の独立性
- Ofgemは、設立当初から事業者にライセンス料を課しており、これにより予算の一部を賄っている。ライセンス料の設定は基本的にOfgemに委ねられ、政府からの独立性を担保している。他国においても同様の仕組みが存在する。
各国の予算確保方法の比較
| 規制機関名 | 予算の確保方法 |
|---|
| 米国連邦FERC | 規制対象企業に対して年会費と申請料で運営コストを全額回収。 |
| ペンシルベニア州PAPUC | 規制対象企業からの収入に基づき州から資金を得る。 |
| 英国Ofgem | ライセンス料及びエネルギー政策当局からの資金で運営コストを回収。 |
| フランスCRE | 国家予算で賄われる。 |
| スウェーデンEI | 気候企業省からの予算と手数料で回収。 |
規制機関の権能
制定権および許可の権限
- 規制機関は規則の制定、事業許可、料金規制に関する権限を有する。
各国の権能の比較
| 規制機関 | 規制制定 | 事業許可 | 料金規制 |
|---|
| 日本 (EGC) | あり | あり | あり |
| 米国連邦 (FERC) | あり | あり | あり |
| ペンシルベニア州 (PAPUC) | あり | あり | あり |
| 英国 (Ofgem) | あり | あり | あり |
| フランス (CRE) | あり | あり | あり |
| スウェーデン (EI) | あり | あり | あり |
調査権限と罰則権限
- 海外の規制機関は報告徴収や勧告権限、さらに罰則適用権限を持ち、犯罪調査権限もある。
| 規制機関 | 報告徴収 | 勧告 | 罰則適用 |
|---|
| 日本 (EGC) | あり | あり | なし |
| 米国連邦 (FERC) | あり | あり | あり |
| ペンシルベニア州 (PAPUC) | あり | あり | あり |
| 英国 (Ofgem) | あり | あり | あり |
| フランス (CRE) | あり | あり | あり |
| スウェーデン (EI) | あり | あり | なし |
省庁・規制機関との役割分担
- 各国の競争当局とエネルギー規制機関間の役割分担は異なる。英国の例では、権限が重複する案件については、協議により対応を決定する方法が採用されている。
各国の役割分担の比較
| 国名 | 役割分担の状況 |
|---|
| 日本EGC | 競争当局が調査を実施し、違反認定後に規制機関が勧告を行う。 |
| ペンシルベニア州PAPUC | エネルギー規制機関が調査処分を決定、消費者保護局が異議申立てを行う。 |
| 英国Ofgem | 競争当局とエネルギー規制機関の管轄権が重複し、管轄を事前に協議。 |
| フランスCRE | 競争当局が監視、規制機関は情報提供を行う。 |
| スウェーデンEI | 競争制限行為の監視を担当し、規制機関と協議。 |
デジタルツールの活用
ツールの開発と活用状況
- 各国では市場監視の効率や高度化のためにデジタルツールの活用が進んでおり、内部でのツール開発や外部ツールの導入が行われている。
各国のデジタルツール活用の比較
| 規制機関名 | ツールの開発状況 |
|---|
| 米国連邦FERC | 内部で独自の監視ツールを開発。AI活用の検討を始めた。 |
| 英国Ofgem | Bloombergのツールを使用して市場監視を行う。 |
| フランスCRE | Oracle社のOBIEEを使用し、取引データのレポーティングを行う。 |
| スウェーデンEI | NasdaqのSMARTSを使用し、特定の取引パターンを監視。 |
規制機関による広報
各国の広報活動
- 米国FERC: 公共参加局を設置し、一般市民への情報発信を強化。
- 英国Ofgem: SNSやウェブサイトで情報発信し、消費者の理解を促進。
- フランスCRE: YouTubeやSNSを活用して制度解説や採用情報の発信を行う。
各国の広報活動の比較
| 規制機関名 | 広報の取り組み |
|---|
| 米国FERC | 一般市民との関与を高めるための教育用資料を提供。 |
| 英国Ofgem | SNSやウェブサイトを通じ、理解しやすい内容を提供。 |
| フランスCRE | YouTubeで制度解説動画を投稿し、消費者向け教育を強化。 |
人員に関する示唆
市場監視を担う職員数
- 海外における市場監視職員数は、日本よりも多く、適切な増員が求められる。
職員の専門性
-
海外では以下の専門職が採用されている。
- エコノミストやアナリスト: 定量的分析スキルを有し、市場監視のための調査・分析に従事。
- エンジニア: 電気工学や土木工学の専門性を有し、技術的な観点から料金設定や事業認可に関与。
-
日本においても、以下の人材を採用することが望ましい。
- 定量的分析スキルを有する専門人材
- データ・デジタルの専門家: デジタルツール構築やデータ管理を内製するために必要。
専門人材の採用方法
- 以下の取り組みが考えられる。
- 給与水準の増加: 希少で競争率の高い人材を確保するため。
- 専門性を持つ学生の採用: 中途採用が難しい場合、学生の育成プログラムを実施。
- 人材プールの構築: 欠員に関わらず応募者を募る。
- 派遣社員の雇用: 一時的スキルを有する人材の確保手段。
人材交流による専門性の向上
- 海外では、エネルギー政策当局や他国の規制機関への出向が行われている。日本でも、規制機関の独立性を保ちながら人材交流を検討することが考えられる。
人員・組織の柔軟性
- 海外では、人員や部署設置に係る権限を保有し、専門性を確保しつつ事業対応を行っている。日本においても環境変化に対応した組織構築の柔軟性を検討する必要がある。
予算に関する示唆
予算の増加要因
-
海外の予算規模は日本よりも大きく、以下の理由で人件費や情報技術費用が増加している。
- 送電線やパイプラインの建設増加
- サイバーセキュリティ対策
- カーボンニュートラルへの役割拡大
-
日本でも同様の対応が必要で、柔軟に予算の拡大を図る必要がある。
予算の確保方法
- ライセンス料の課金: 被規制事業者にライセンス料を課すことにより、予算の独立性を担保する。
- 規制機関が自ら予算を確保する戦略を考える。
権能に関する示唆
規則制定・事業許可・料金規制・犯則調査の権限
- 多くの海外の規制機関はこれらの権限を保有しており、日本でも権限の変更が必要かどうかの検討が求められる。
管轄権の明確な切り分け
- 英国では、競争当局とエネルギー規制機関の管轄権が重複する場合、協議によって対応を決定している。日本は現時点で管轄権が明確に切り分けられているが、今後の管轄範囲の拡大に備えた対応策が必要。
デジタルツールの導入に関する示唆
監視ツールの導入
- 海外ではデジタルツールを活用し市場監視の効率化が進められている。日本においても監視のデジタル化による業務の効率化が求められている。
規制機関内部のツール開発体制
- 規制機関内部にデータ・デジタル分野の専門人材やツール開発を担当する部署の設置が望ましい。一時的に開発スキルを持った人材を派遣社員として雇用することも考えられる。
広報に関する示唆
広報機能の強化
- 海外では、需要家の関与を高めるために広報専用の部門が設置されている。日本でも広報部門を設置し、教育用資料の提供やSNSでの情報発信が求められる。