同時市場とは何か。電力量(kWh)と調整力(ΔkW)を同時に約定する仕組みと検討の現在地
この記事でわかること
- 同時市場が「電力量と調整力を一つの約定処理でまとめて決める市場」であることの意味
- 電源起動・出力配分ロジック(SCUC)が何を計算し、既存市場と何が違うのか
- 2026年時点で検討がどの段階にあり、導入までにどの作業が残っているか
同時市場は電力量(kWh)と調整力(ΔkW)を一つの計算で約定する市場
同時市場とは、電気そのものの取引量である電力量(kWh)と、需給の変動に備えて待機させておく調整力(ΔkW)を、一つの約定処理でまとめて決める市場です1。
用語を整理します。kWhは実際に発電・消費される電気の量、ΔkWは「必要になったときに出力を上げ下げできる余力そのもの」を指し、需給調整市場ではこの余力が商品として取引されています2。現在は、kWhをJEPXで、ΔkWを需給調整市場で、それぞれ別の取引として売買しています。
同時市場では、この二つを分けずに扱います。入札された電源の価格情報に加えて、起動に要する時間や最低出力といった運転制約まで考慮した上で、どの電源をどれだけ起動し、そのうちどの分をkWhに、どの分をΔkWに割り当てるかを一度に計算します1。この計算を担う仕組みが電源起動・出力配分ロジック(SCUC)と呼ばれるもので、同時市場の中核に位置づけられています3。
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分離した市場では起きる非効率を、同時最適化で減らすことが目的
同時市場が検討される理由は、kWhとΔkWを別々に取引すると、電力システム全体として最適な電源の組み合わせにならない場合があるためです。
火力発電のような電源は、一度起動すれば最低出力以上を出し続ける必要があり、起動そのものにも費用がかかります。kWhの取引で落札できなかった電源が、後からΔkWのためだけに起動されるといった状況では、全体の費用が膨らみます。両者を同時に最適化すれば、一つの電源が持つkWhとΔkWの供給能力を無駄なく振り分けられます。
実際に、同時市場の導入によって調整力の必要量が低減し、コストの低減が期待されるという整理が検討会で示されています4。同時最適化では、想定需要(kWh)を基準にしながら、余力のある電源に上げΔkWを、出力を持つ電源に下げΔkWを割り当てるといった配分が一体で行われます5。
背景には再生可能エネルギーの拡大もあります。太陽光や風力の出力は天候で変動し、予測との差が調整力の必要量を押し上げます。変動性再エネ自身に調整機能を担わせる検討も並行して進められており6、需給調整に関わる制度全体が見直しの局面にあります。
発電・小売・送配電の三者と、市場を運営する主体が関わる
同時市場の関係者は、既存の卸電力市場・需給調整市場とおおむね重なります。役割は次のとおりです。
- 発電事業者:電源ごとに価格や運転パラメータ(起動時間、最低出力などの運転上の条件)を登録し、売り入札を行います7。
- 小売電気事業者:需要に対応する買い入札を行います。ただし同時市場では、小売が想定する需要と送配電事業者(TSO)が予測する需要のどちらを電源起動の基準とするかが論点になっています8。
- 送配電事業者(TSO):需要を予測し、必要な調整力量を算定するとともに、実需給断面で指令を出します。前日時点の検証では、TSO予測需要のほうが小売の需要想定より精度が高いことが確認されています8。
- 市場運営主体:入札受付から約定処理までを担う主体で、誰が担うかは検討課題として残されています1。
このほか、蓄電池や需要側リソースを束ねる分散型エネルギーリソース(DER)、揚水発電の扱いも、個別の論点セットとして詳細設計の対象になっています7。
前日・時間前・直前の三段階で市場を開き、実需給に近づけて調整力を確保する
同時市場は一度きりの取引ではなく、実需給に向けて複数回開催する構成が検討されています。前日市場、時間前市場、直前市場の三段階で、時間前市場は前日夕方に1回、当日2回の計3回開催する方向が示されています7。
複数回開く理由は、需要や再エネ出力の予測が実需給に近づくほど精度を増すためです。前日段階で確保した調整力のうち、その後不要になった分は順次リリースし、実需給に近いタイミングでの確保を目指す考え方が整理されています8。
調整力の中身も、対応する事象に応じて区分されています。検討会では、前日断面で送配電事業者が予測する不足インバランス想定分をΔkW-Ⅰ、ゲートクローズ(取引の締切時刻)後の最終的な需給変動対応をΔkW-Ⅱ、ゲートクローズ前の再エネ変動対応をΔkW-Ⅲとする整理が示されました8。あわせて、現行の需給調整市場が持つ一次調整力から三次調整力②までの5商品区分をそのまま維持すべきか、再エネ対応を含めて見直すかも検討対象です5。
なお、需給の変動には出力を上げる方向だけでなく下げる方向もあり、余剰インバランスに対応する下げΔkWの確保も同時最適化の対象として扱われます5。
| 比較項目 | 基本的な意味 | 押さえるポイント |
|---|---|---|
| 取引される商品 | 現行はkWhをJEPX、ΔkWを需給調整市場で別々に取引する | 同時市場は両者を一つの約定処理で扱い、JEPXと需給調整市場の代替と位置づけられています1 |
| 約定の考え方 | 価格に加え電源の起動時間や最低出力などの運転制約を考慮する | 電源起動・出力配分ロジック(SCUC)が起動する電源と配分を計算する点が、価格のみで突き合わせる方式との基本的な違いです3 |
| 調整力の確保タイミング | 前日・時間前・直前の複数断面で市場を開催する | 前日に確保した調整力のうち不要分は順次リリースし、実需給に近い断面での確保を志向します8 |
| 需要の基準 | 小売の需要想定とTSO予測需要が食い違う場合 | TSO予測需要の精度が高いことが確認され、これに合わせた電源起動を基本としつつ、小売調達需要が上回る場合はそちらで約定する整理が示されています8 |
| 導入の段階 | 第1〜第5フェーズの工程が設定されている | 2026年時点は第1フェーズの詳細業務設計と技術研究にあり、システム導入可否の最終判断は第2フェーズで行われます9 |
既存市場との違いと、2026年時点で第1フェーズにある検討状況
同時市場と現行制度の違いを、主要な観点で整理します。
検討の経緯としては、2023年8月に検討会が同時市場の在り方の議論を開始し、2024年11月に第一次中間取りまとめ、2025年10月15日に第二次中間取りまとめが公表されています19。導入の目的や主要な仕組みについて大きな異論はない一方、実務への影響の慎重な検証が求められている段階です1。
導入までの道筋は第1から第5のフェーズに分けられ、第1フェーズが詳細業務設計と運営主体の検討、第2フェーズが要件定義とシステム導入可否の最終判断、第3フェーズ以降がシステム開発と事業者連携、導入という構成です9。2026年6月時点では第1フェーズにあり、開催市場、入札登録、約定、価格規律・取引監視、アップリフト、運営主体などの論点セットごとに、事業者ヒアリングと技術検証を順に進める計画が示されています7。技術研究では、北米のPJM、CAISO、ERCOTがモデルケースとして選定されました10。
課題として明示されているのが、システムの技術的実現可能性です。運転制約まで織り込んだ約定処理は高度な計算を要し、実現が難しいとの指摘が一部事業者から出ています9。現行の需給調整市場でも、複合約定ロジックの複雑さから約定処理が週間取引スケジュールに収まらない可能性が議論された経緯があり11、計算時間は制度設計と不可分の論点です。理解を深めるには、需給調整市場の商品区分と調整力必要量の算定方法、そして北米市場の運用実態が次の手がかりになります。
参考文献
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