ベースロード市場とは何か。目的・取引の仕組み・JEPXスポット市場との違いを初心者向けに解説
この記事でわかること
- ベースロード市場が「ベースロード電源へのアクセス格差」を埋めるために設けられた市場であること
- 供出上限価格やオークションといった取引の基本的な仕組みと、年数回の入札スケジュール
- 1日単位で電気を売買するJEPXスポット市場との、商品・期間・目的の基本的な違い
ベースロード市場という言葉が指すもの
ベースロード電源とは、石炭火力、大型水力、原子力など、燃料費が比較的安く、季節や時間帯によらず一定の出力で運転を続けられる電源を指します1。1日を通して発生する需要の土台部分を賄うことから「ベースロード(基底負荷)」と呼ばれます。
ベースロード市場は、このベースロード電源から得られる電気を、一定期間にわたって一定量受け取る商品として売買する卸電力市場です。取引の単位が「1年間の受渡し」を基本とする点が、日々の需給を精算する市場との基本的な違いです。売り手は主に大手電力(旧一般電気事業者)などの発電側、買い手は小売電気事業者となります。
卸電力取引の場である日本卸電力取引所(JEPX)は2003年に設立され、2005年に取引を開始し、2016年の電力小売全面自由化を経て日本の電力取引の中核を担ってきました2。ベースロード市場は、その卸取引の枠組みの中で、長期・安定的な調達手段を補うために後から加えられた仕組みという位置づけになります。
Policy Monitoring
このテーマを、資料公開から社内共有まで追跡する
Policy Scopeでは、関連審議会の新資料、AI要約、重要論点、一次資料リンクをまとめて確認できます。
新電力の電源アクセス格差を埋めるという制度の目的
ベースロード市場が構想された背景には、電源の保有構造の偏りがあります。旧一般電気事業者は安価なベースロード電源を主に保有する一方、新規参入者はミドル電源などで代替せざるを得ず、コスト面で不利な状態に置かれていました1。加えて、大手電力によるベースロード電源の長期契約が、新電力のアクセスを妨げる要因とされていました。
そこで、電力システム改革の一環として、大手電力に保有するベースロード電源を市場へ供出することを制度的に求める仕組みが設けられました。目的は競争の活性化であり、新電力が安価な電源にアクセスする機会を確保することにあります13。
この必要性は、新電力の調達構造からも説明できます。2018年12月時点で新電力の調達のうちJEPXからの比率は72.1%、常時バックアップは10.4%であり4、2020年1〜3月期にはJEPXからの調達が84.5%に達しました5。日々価格が変動する市場への依存が高いほど、価格変動の影響を受けやすくなります。長期の固定的な調達手段を用意する意義は、この構造への対応にあります。
売り手・買い手・監視する側という三者の関わり方
ベースロード市場に関わる主体は、大きく三つに分かれます。
- 売り手:旧一般電気事業者を中心とする大手発電事業者。制度として一定量の供出が求められます3。2023年度の第4回オークションでは、大規模発電事業者による任意参加の枠組みも採用されています6。
- 買い手:新電力を含む小売電気事業者。ベースロード電源相当の電気を年間ベースで確保する手段として利用します。
- 監視する側:資源エネルギー庁と電力・ガス取引監視等委員会。「ベースロード市場ガイドライン」や適正な電力取引についての指針に基づき、供出価格や供出量の妥当性を確認します3。
監視が制度に組み込まれているのは、売り手が限られており、価格設定が競争環境に直接影響しうるためです。大手電力による価格設定が競争に影響を与える可能性があることから、監視体制の強化が課題として挙げられてきました3。
供出上限価格と供出量で成り立つ取引の仕組み
ベースロード市場の取引は、年に複数回開催されるオークション(入札)によって行われます。取引の実効性を担保するため、価格と量の両面にルールが置かれている点が特徴です。
価格面では、供出上限価格が設定されます。これは、ベースロード電源の発電平均コストから容量市場での収入を控除した水準として算定されるもので、売り手が過度に高い価格を提示して市場が機能しなくなることを防ぐ役割を持ちます1。発電平均コストは固定費・変動費・燃料費を受渡期間の発電量で割る形で計算されます。燃料価格の変動リスクをこの上限価格にどう織り込むかは、継続的な検討課題とされてきました6。
量の面では、総需要にエリア離脱率、ベースロード比率、調整係数を掛け合わせて全体の供出量を算定する考え方が示されており、新電力シェアが12%の場合の供出量は約560億kWhと試算されていました13。
商品としては、価格をあらかじめ固定する固定価格取引と、燃料費の変動を後から反映する事後調整付取引が併存してきました。2023年度は第1回・第2回で固定価格85%・事後調整付15%、第3回で固定価格42.5%・事後調整付15%、第4回は任意供出という構成でした6。約定価格は燃料市況の影響を受け、2023年度第4回では東日本12.20円/kWh、西日本9.56円/kWhと、いずれも前回から下落しています6。
| 比較項目 | 基本的な意味 | 押さえるポイント |
|---|---|---|
| 取引される商品 | ベースロード市場は年間の受渡しを前提とした電力量、スポット市場は30分単位の48商品 | 前者は調達の土台を固定し、後者は日々の過不足を合わせる用途となる |
| 取引の頻度 | ベースロード市場は年に複数回のオークション、スポット市場は毎日の前日取引 | ベースロード市場は入札機会が限られ、計画的な参加が前提となる |
| 価格の決まり方 | ベースロード市場は供出上限価格を上限とするオークション、スポット市場は需給に応じた変動 | 上限価格は発電平均コストから容量市場収入を控除して算定される1 |
| 売り手の位置づけ | ベースロード市場は大手電力に制度的な供出を求める、スポット市場は広く参加者が売買 | ベースロード市場では供出量・供出価格がガイドラインに基づき監視される3 |
| 制度の目的 | ベースロード市場は電源アクセス格差の解消、スポット市場は需給に応じた効率的な取引 | 両市場は代替ではなく、調達手段として組み合わせて用いられる |
JEPXスポット市場との違いと、周辺制度の中での現在地
初めて制度を調べる際に最も混同されやすいのが、JEPXスポット市場との関係です。スポット市場は1日を30分単位に区切った48商品を全国で毎日取引する市場で、最小入札単位は1MW、前日にブラインドオークション方式で約定します2。ここで形成される価格は需給に応じて大きく動き、2025年1〜3月期の平均システムプライスは12.51円/kWhと、前年同期の10.06円/kWhから上昇しました7。
ベースロード市場は年間の受渡しを前提に長期の調達手段を提供し、スポット市場は直前の需給に応じて電力量を過不足なく合わせる場である点が、両者の基本的な役割の違いです。両者は代替関係ではなく、長期の土台をベースロード市場や相対契約で押さえ、残る変動分をスポット市場や時間前市場で調整する、という組み合わせで用いられます。
スポット市場側でも、市場支配力を持つ事業者に対して限界費用に基づく売り入札を求める枠組みが整備されており、市場区分や対象事業者の判定基準は継続的に見直されています。2026年4月から2027年3月までの対象事業者には中部電力が新たに加わりました8。また、旧一般電気事業者による内外無差別な卸売の実施状況についても、2026年度上半期のフォローアップが予定されています9。
さらに周辺には、将来の供給力(kW)を取引する容量市場10、調整力を取引する需給調整市場、非化石価値取引市場が順次整備されてきました1。発電と調整力を一体的に扱う同時市場の設計議論も進んでおり11、ベースロード市場を理解した次には、これら各市場が電力調達のどの部分を担うのかを整理すると全体像がつかみやすくなります。
参考文献
本サービスで提供される審議会資料は、各府省庁が公開している情報を公共データ利用規約(PDL1.0)に基づいて利用しています。詳細はデータソースページをご確認ください。
Next Action
貴社事業への影響を整理しませんか?
関心テーマに合わせて、監視すべき政策論点を整理します。
監視テーマを相談する関連コラム
