地域間連系線と市場分断とは。JEPXのエリア価格が分かれる仕組みと電力価格への影響
この記事でわかること
- 地域間連系線と市場分断の定義、および全国一律のシステムプライスとエリアプライスの関係
- エリア価格が分かれる仕組みと、系統混雑が価格差を生む流れ
- 分断率が市場画定や連系線増強の検討にどう使われているかという制度上の位置づけ
地域間連系線と市場分断が指すもの
日本の電力系統は、北海道・東北・東京・中部・北陸・関西・中国・四国・九州という9つのエリアに分かれ、各エリアの系統は地域間連系線と呼ばれる送電設備で相互に結ばれています。連系線には送電できる電力の上限(運用容量)があり、たとえば北海道本州間連系設備は90万kWから120万kWへの増強が進められています1。
卸電力の取引は日本卸電力取引所(JEPX)が運営するスポット市場が中心で、1日を30分単位に区切った48商品を、全国市場として売り札と買い札を突き合わせる方式で値決めします2。この全国一本の価格を「システムプライス」と呼びます。
しかし、安い電気があるエリアから高いエリアへ送ろうとしても、連系線の容量を超えると送れません。この状態を系統混雑、そして混雑によって価格がエリアごとに分かれることを市場分断と言います。分断が起きると、エリアごとの価格である「エリアプライス」が計算されます。エリアプライスは価格高騰時の分析でも中心的な指標として扱われており、2021年11月22日には80円/kWhに達したコマが複数確認されています3。
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エリア価格を分けて計算する目的
エリアごとに価格を分ける理由は、送電設備の物理的な制約を価格に反映させ、実際に届けられる電気だけが約定するようにすることです。仮に全国一律の価格だけで取引を成立させると、連系線の容量を超える電気の受け渡しが約定してしまい、実需給の段階で実行できません。
もう一つの意義は、価格差が電源不足や送電容量不足の所在を示す情報になる点です。エリア間で価格が大きく分かれ続けている区間は、送電容量が需要と電源の配置に対して不足していることを意味します。実際、広域系統整備の検討では、再生可能エネルギーの送電促進や事故時のレジリエンス強化といった観点から連系線増強の必要性が整理され、費用と便益を比べる評価が行われています45。
さらに、市場分断の状況は競争環境の把握にも使われます。分断が頻発する区間があると、その両側は事実上別の市場として機能するため、事業者の市場での影響力を評価する際に分断の頻度が指標として参照されています6。
連系線と市場分断に関わる主体
市場分断の仕組みには、市場運営、系統運用、制度設計・監視の三つの役割が関わります。
- 日本卸電力取引所(JEPX):スポット市場と時間前市場を運営し、入札を集約してシステムプライスとエリアプライスを算定します。スポット市場の入札は前日10時に締め切られ、締切後に約定結果が公表されます2。
- 電力広域的運営推進機関と一般送配電事業者:連系線の容量を管理し、広域系統整備委員会での計画策定プロセスを通じて増強の必要性、ルート、工事費、工期を検討します7。
- 電力・ガス取引監視等委員会:スポット市場の入札行動を監視し、市場支配力を持つ可能性が高い事業者を分断状況も踏まえて判定します6。
加えて、連系線の容量は卸取引だけでなく、周波数を維持するための調整力を他エリアから調達する広域調達にも使われます。このため、調整力向けにどれだけ連系線容量を確保するかは、スポット市場のエリア間取引の制約との兼ね合いで上限を設けて決められています8。
混雑から価格差が生じるまでの流れ
エリア価格が分かれる過程は、次の順序で理解できます。
- 各エリアの発電事業者と小売電気事業者が、30分単位のコマごとに売り札と買い札をJEPXへ提出します。
- まず連系線の制約を考えずに全国で需給を突き合わせ、システムプライスを求めます。
- その結果として必要になるエリア間の電力の流れが、連系線の容量に収まるかを確認します。
- 収まらないコマでは、送電側のエリアと受電側のエリアを分けてそれぞれ需給を突き合わせます。電気が余っている送電側は安く、電気を求める受電側は高くなり、同じ時刻でもエリアごとに異なる価格が成立します。
実際の分断は潮流の向きの変化に強く左右されます。中部関西間および中部北陸間の連系線では、2022年から2023年にかけて分断率が大幅に上昇し、その背景として中部エリアへの潮流量の増加、スポット市場での中部エリアの買い越し量の増加と関西エリアの買い越し減少が確認されています9。エリアの需要と電源の構成が変われば、分断の起きやすい区間も変わります。
| 比較項目 | 基本的な意味 | 押さえるポイント |
|---|---|---|
| システムプライス | 連系線の制約を考えずに全国一本で算定した卸価格 | 分断が起きていないコマではエリアプライスと一致します |
| エリアプライス | 分断時にエリアごとに分けて算定した卸価格 | 送電側は安く受電側は高くなり、同時刻でも差が生じます |
| 系統混雑 | エリア間で送りたい電力が連系線の運用容量を超える状態 | 市場分断の直接の原因で、潮流の向きと需給の偏りに左右されます |
| 分断率 | 対象コマのうち分断したコマの割合 | 区間差が大きく、市場画定や増強検討の判断材料として用いられます |
| 連系線増強 | 費用便益評価などを経て進める送電設備の容量拡大 | 混雑の緩和には長い工期を要し、効果は運開後に現れます |
分断率で見る区間ごとの違いと現在の制度上の位置づけ
分断がどの程度起きているかは「分断率」(対象コマのうち分断したコマの割合)で表され、区間ごとの差が大きいことが特徴です。2021年3月から2026年2月までの年平均分断率では、東京・中部間が33.5%から45.0%と一貫して高い一方、関西・中国間は1.9%から7.6%と低い水準にとどまっています10。北陸・関西間は8.0%から48.4%まで年による振れが大きく、中国・四国間も直近期間で9.8%へ上昇しています10。
この分断率は、市場の範囲をどう区切るかという制度運用に直接使われています。適正な電力取引についての指針は2023年3月に改定され、本則では年平均分断率が10%を超える年が3年以上続く場合に分断として扱うこととされました。改定前は北海道・東日本・西日本・九州の4区分に固定されていましたが、改定後の判定により市場は5区分となり、経過措置では9区分として画定されています10。
物理的な対応としては連系線の増強が進んでいます。中部関西間連系線は概算工事費が約600億円程度と見込まれ費用便益比が概ね1を超えることが確認され5、関門連系線については直流海底ケーブルを基本とする2GW双極の増強が検討されてきました11。中国九州間連系設備は2030年度末を目途とする運開が目指されています4。次に理解を深める論点としては、連系線容量が調整力の広域調達にどう配分されるか8、そして系統制約を織り込んだ同時市場の検討12が挙げられます。
参考文献
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