長期脱炭素電源オークションとは何か──目的、参加者、20年間の収入が決まる仕組みを解説
この記事でわかること
- 容量市場のなかで長期脱炭素電源オークションが担う役割と、通常のオークションとの位置づけの違い
- 落札した電源が20年間の収入を得る一方で、他市場収益の大半を還付する仕組み
- 発電方式ごとの応札状況と、費用が小売電気事業者などの容量拠出金を通じて配分される流れ
容量市場のなかで「長期」オークションが指すもの
最初に整理が必要なのは、容量市場という言葉です。容量市場とは、実際に流れる電力量(kWh)ではなく、将来の供給力(kW)そのものを取引する市場を指します1。発電設備は建設費など固定費の負担が大きいため、電気を売った収入だけでは投資回収の見通しが立ちにくく、あらかじめ容量確保契約金額を通じて必要な供給力を確保する仕組みが設けられました2。
この容量市場は複数のオークションで構成されます。中心となるのは4年後の供給力を確保するメインオークションで、2027年度を対象とした回では約定総容量1億6,745万kW、約定総額1兆3,140億円という規模でした3。需給の見通しが変化した場合には追加オークションも実施され、2026年度を対象とした回では約定総容量830万kW、約定総額582億円となっています4。
長期脱炭素電源オークションは、これらとは別に、容量市場の一部として脱炭素電源への新規投資を促進する目的で設けられた枠組みです2。名称にある「長期」は、契約期間が1年単位ではなく複数年にわたることを意味します。
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脱炭素電源への投資を長期の予見可能性で支える目的
制度の目的は、発電事業者への支払いを通じて電源投資を促進し、電気料金の安定化を図ることにあります1。脱炭素電源の建設は初期投資が大きく、回収に長い年数を要します。一方で卸電力市場の価格は年ごとに変動するため、投資判断の時点で将来収入を見通すことが難しいという課題がありました。
そこで長期脱炭素電源オークションは、脱炭素電源への新規投資を促進し、長期的な予見可能性を高めることを目的として設計されています1。落札された電源は原則として20年間の収入を得ることができ、その間の固定費相当を安定的に回収できる構造です2。
制度は2023年度に開始され、以降毎年度オークションが実施されています5。募集要綱や契約約款は毎回の検討を経て見直され、意見募集を挟んだうえで策定・公表される流れが取られてきました6。
応札する発電事業者と、費用を負担する小売電気事業者
関わる主体は大きく三つに分かれます。第一に、電源を建設・改修して応札する発電事業者です。第二に、オークションを運営し容量確保契約を結ぶ電力広域的運営推進機関(広域機関)で、資源エネルギー庁とともに制度の事務局を担っています1。第三に、落札に伴う費用を容量拠出金として負担する小売電気事業者と一般送配電事業者です。
容量拠出金の規模はエリアごとに試算されています。実需給2029年度の試算では、東京エリアの小売電気事業者の負担はメインオークション分が7,701.9億円、長期脱炭素電源オークション分が360.2億円とされました1。北海道エリアでは小売電気事業者の長期分が33.4億円です1。長期分は総額こそメインオークション分より小さいものの、需要側が広く負担する構造であることに変わりはありません。
さらに、落札事業者に対する監視を担う主体として電力・ガス取引監視等委員会(電取委)が加わります。同委員会は長期脱炭素電源オークションガイドラインに基づき、還付の前提となる収益や費用の計上を確認する役割を持ちます5。
マルチプライス方式での約定と、他市場収益の約9割還付
入札はマルチプライス方式で行われます2。これは、約定価格を全応札者に一律に適用するのではなく、それぞれの応札価格に基づいて支払いが決まる方式を指します。約定結果は、個別電源の応札価格が特定されない範囲で集計して公表されます2。
もう一つの柱が還付の仕組みです。落札した電源が卸電力市場や相対契約から得た収入(他市場収益)については、その約9割を広域機関に還付する義務が課されています7。制度検討の段階では、事業報酬部分は95%還付、メインオークション価格が高い場合の重複部分は85%還付という方向で議論が進められました6。固定費は制度で安定的に賄いつつ、市場から得た利益は需要側に戻すことで、支援が過大にならないよう調整する設計です。
還付額は他市場収入から可変費を差し引いて算定されるため、収入を低く、可変費を高く見せる誘因が生じ得ます。この点を踏まえ、電取委事務局は2025年5月から7月にかけて「他市場収益の監視の在り方に関する検討会」を開催し、2025年7月31日にとりまとめを行いました58。可変費として燃料費や購入電力料、非化石価値の販売に伴う事業税などが例示され、監視方法や監視フロー、異議申立てのプロセスが整理されています9。相対契約については、契約書を監視等委員会へ提出する規律も設けられました9。
| 比較項目 | 基本的な意味 | 押さえるポイント |
|---|---|---|
| 取引の対象 | 将来の供給力(kW)を取引し、電力量(kWh)そのものは対象外 | 容量市場全体に共通する性格で、長期脱炭素電源オークションもその一部に位置づけられます1 |
| 契約期間 | 落札電源は原則20年間の収入を得る | 年単位で供給力を確保するメインオークションとの基本的な違いです2 |
| 約定方式 | マルチプライス方式 | 応札価格に基づいて支払いが決まり、結果は個別電源が特定されない形で公表されます2 |
| 他市場収益の扱い | 約9割を広域機関へ還付 | 固定費は制度で賄い、市場収益は需要側へ戻す設計で、還付額の算定が監視対象となります7 |
| 募集区分 | 脱炭素電源とLNG専焼火力の二区分 | 第3回では脱炭素電源426.1万kW、LNG専焼火力303.8万kWが約定しました1 |
| 費用の負担 | 容量拠出金として小売電気事業者・一般送配電事業者が負担 | 実需給2029年度の東京エリアでは小売電気事業者の長期分が360.2億円と試算されています1 |
募集区分と電源種別ごとの応札状況、直近の約定結果
募集は大きく脱炭素電源とLNG専焼火力の二つの区分に分かれています。脱炭素電源には揚水、蓄電池、原子力、水素・アンモニア・バイオマスなどが含まれ、既設原子力の安全対策投資も募集対象電源等要件に加えられました6。一般水力や蓄電池・揚水には最低入札容量が設定されています6。LNG専焼火力は脱炭素電源ではないものの、供給力確保の観点から別枠で募集される区分です。
2024年度に応札が行われた第2回では、脱炭素電源の約定総容量が503.0万kW、約定総額3,464億円/年、他市場収益の推定還付額を控除した後は945億円/年でした2。発電方式別では原子力の落札率が73%、揚水が42%、蓄電池が20%と差が生じています2。
2025年度に応札が行われた第3回の結果は、2026年5月の容量市場の在り方等に関する検討会で報告されました。脱炭素電源は約定総容量426.1万kW、約定総額4,748億円/年(還付額控除後3,420億円/年)、LNG専焼火力は303.8万kW、1,444億円/年(同810億円/年)です1。全国の応札容量1,085.6万kWに対し落札容量は729.9万kWで、落札率は67%となりました1。蓄電池の落札率は第2回の20%から第3回では46%へ上昇しています21。
次回オークションの内容は、制度検討作業部会および電力安定供給ワーキンググループで検討が進められている段階です1。理解を深めるうえでは、募集区分ごとの上限価格の設定方法や、容量拠出金が小売電気事業者の料金にどう反映されるかが次の論点になります。
参考文献
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