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需給調整市場の前日取引化・30分化で何が変わったか——2026年度の応札不足と収益機会の現在地

2026年3月14日受渡分から全商品が前日取引・30分ブロックへ移行した1。先行した三次②では募集量が約25%減・応札量が約52%増2。ただし2026年度も応札不足は残り3、上限価格は15.00円/ΔkW・30分へ引下げ4単価より稼働コマ数で稼ぐ設計への転換が必要である。

この記事でわかること

  • 前日取引化・30分化後の需給調整市場で、自社リソースの応札戦略を「高単価狙い」から「約定コマ数最大化」へ切り替えるべきか
  • 上限価格引下げと募集量算定見直し(3σ→1σ)を織り込んだ場合、蓄電池・揚水・火力余力のΔkW収益見通しをどう修正すべきか
  • 応札不足が残る商品・エリア・時間帯を特定し、どこに設備投資と運用体制を振り向けるか

需給調整市場は2024年度に全商品運開し、2026年3月から前日・30分取引に移行した

まず現在地を確定させる。需給調整市場は2021年度に三次調整力②の運用が始まり1、2024年4月から一次・二次①・二次②を含む全商品の取引が始まっている2。商品は応動速度と対応する変動成分で区分され、一次は時間内変動の極短周期成分+電源脱落、二次①は短周期成分+電源脱落、二次②は需要計画と実績需要の誤差、三次①は継続する量の誤差+電源脱落、三次②は需要・再エネ予測誤差に対応する設計である34

この構造に対して2026年度から二つの大きな運用変更が加わった。第一に、一次〜三次①の複合市場商品のブロック時間を3時間から30分へ見直し、第二に取引を前日化した。取引規程改定とMMS改修を経て、2026年3月14日受渡分から前日化・入札時間単位30分・継続時間30分が適用されている3。2026年6月10日〜30日に実施された実態調査でも「全商品の前日取引化」「入札単位時間の30分化」を前提に2026年2月と4月の応札状況が比較されており、実運用へ移ったことを確認できる5

この変更が狙うのは、応札量の増加と効率的な調達によるコスト低減である3。つまり制度側の意図は「調達コストを下げること」であり、供出側から見れば単価前提の下方修正を織り込む必要があると考えられる。

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三次調整力②の先行事例が示す変化——募集量25%減・応札量52%増という構造転換

前日・30分化が何をもたらすかは、先行して30分化された三次調整力②で定量的に確認できる。三次②は2025年3月14日受渡分から取引単位時間を3時間ブロックから30分へ短縮し、その結果、募集量は約25%削減、応札量は約52%増加した67。余剰率が上昇し、競争原理が働く環境が整ったと評価され、落札単価は安定して推移している8

この二つの数字が示す意味は明確である。ブロックが短くなると、3時間すべてで要件を満たせなかったリソース(充放電時間に制約のある蓄電池、起動停止パターンが固定される揚水など)が部分的に参加できるようになり供給側が厚くなる。同時に、ピークに合わせて3時間分を積み上げていた募集量が実需に近づき需要側が薄くなる。供給増と需要減が同時に起きるため、単価は上がりにくい。

実際、前日取引の平均約定単価は多くのエリアで1円/ΔkW30分を下回る水準で推移している。2026年2月の平均約定単価は北海道2.02円、東京0.95円、中国0.36円、四国0.30円であり、3月(1〜13日)は東京0.39円まで低下している9。一方で最高約定単価は東京・中部・関西・九州で200円に達しており9、平均と最高の乖離が極端に大きい。収益の大半が少数の高騰コマに依存する構造であり、この構造は発電事業者・蓄電池事業者にとって「平均単価×約定量」でのモデル化を極めて危険にすると考えられる。

上限価格15.00円と募集量3σ→1σ——ΔkW収益の上限と分母が同時に切り下がる

前章の単価低下圧力は、市場運用の変更によってさらに強化される。2026年度以降の需給調整市場では、複合商品の前日取引・30分ブロック化に加えて、上限価格が2025年度の19.51円/ΔkW・30分から2026年度は15.00円/ΔkW・30分へ引き下げられ、募集量の算定が3σから1σへ変更(減要因)、さらに市場外調整力控除が終了することが整理されている10

これは供出側の収益構造に三方向から効く。

  • 上限価格の引下げは、高騰コマの上振れ余地を削る
  • 募集量算定の3σから1σへの変更は、約定量の分母を縮小させる
  • 市場外調整力控除の終了は募集量の増加要因となるため、最終的な影響はエリア・時間帯で異なる

実際に応札量が募集量を上回る事例は増加しており、特に募集量の少ない夜間帯で顕著である10。北海道エリアでは揚水随意契約によって募集量の削減が進み、恒常的に応札量が募集量を上回る状況にあるとされ、国の補助金や長期脱炭素電源の参入により揚水随意契約の必要性が薄れる可能性も示唆されている10

新規参入電源については、初期段階で固定費負担が高く容量市場に参入できないリスクが指摘されている。蓄電池は運用が速い一方、初期2〜3年は容量市場に参入できず応札単価が高くなる傾向があり、中期的には減価償却の進行で既存電源並みの単価水準へ低下することが予想されている10。蓄電池事業者にとっては、上限価格15.00円という天井の下で初期数年の高単価前提が成立しにくくなる点が、投資判断上の最も重い制約になると考えられる。

なお価格規律そのものも見直し対象である。ΔkW市場では固定費回収状況と限界費用の高低に応じて逸失利益・機会費用ベースの規律が設けられ、未回収固定費の取扱いが本来退出すべき電源の固定費まで充当し得るとの問題提起がなされており、現在も検討が続いている11。B種電源の固定費回収状況は制度設計・監視専門会合で継続的に報告されており9、固定費回収を前提に高値応札してきた電源は前提の再確認が必要である。

それでも応札不足は残る——不足の所在が収益機会の所在である

単価が下がる一方で、応札不足という構造課題は解消していない。全商品の募集量に対して応札量・約定量の未達が生じており、2025年度も応札不足が続いた2。一次調整力については多くのエリアで未達が続いていることが課題として明示されている9。2026年6月の実態調査でも、前日取引化による新たな問題は確認されていないものの、2026年度の取引状況は依然として応札不足が課題として残るとされている5

同調査では、応札量の増加要因が入札時間単位の30分化、減少要因がスポット市場後の取引であると整理されている5。前日化はスポット約定後に調整力を出すかどうかを決める順序になるため、スポットで売り切った電源は調整力に回す余力を失う。30分化のプラスと前日化のマイナスが打ち消し合っている構図であり、リソース種別ごとにどちらが優勢かを自社データで見極める必要がある。

応札見送りの理由としては、中東情勢による石油調達環境の悪化、燃料価格高騰による上限価格超過の可能性、募集量を超過し約定可能性が無いことが挙げられている5。「上限価格を超えるので出せない」と「募集量が小さすぎて当たらないので出さない」が併存している点が重要である。前者は燃料費の高い火力の問題であり、後者は募集量縮小の副作用である。

不足への対応としては、異常時対応調整力の考慮、市場外調整力の控除、揚水の随意契約が実施されてきた2。未達時には市場外調達を優先し電源II余力を確認する方針が整理され、2024年度からは余力活用契約が開始、追加起動は緊急時に限定されている12。公募調達で不足が生じた場合は再募集または短期契約の実施が望ましく、必要に応じて個別協議内容の公表が推奨されている13。B種電源協議では、協議が整った事業者は5社・19件(電源14件、蓄電池VPP5件)と報告されている13

供給側の裾野拡大としては、変動性再エネの調整機能活用が検討されている。FIP電源は調整力として活用可能と位置づけられ、変動性再エネ+蓄電池の組合せは蓄電池によって安定供出が可能で精緻な制御ができるとされる一方、天候による供出量変動と制度の複雑さが参入障壁として指摘されており、参加方法の検討が続いている1415。再エネ余剰時の電源脱落対応では、揚水ポンプを調整力として応札可能にする制度見直しも、引き続き論点として残る4

ここから導かれる示唆は一つである。単価上昇を待つのではなく、不足が残る商品・エリア・時間帯を特定し、30分単位で当てられるリソース構成に寄せることが、前日・30分化後の収益改善の主経路になると考えられる。

判断項目確認条件判断への示唆
ΔkW応札単価の設定方針自社限界費用+機会費用が上限価格15.00円/ΔkW・30分(2026年度)に収まるか10収まらない商品・時間帯は応札見送りが合理的となり、kWh収益やスポット売りへの振替を前提に計画を組み直す
収益モデルの前提(単価か稼働コマ数か)平均約定単価が1円/ΔkW30分前後で推移し、最高値のみ200円に達する分布か9平均単価×約定量のモデルは成立しない。約定コマ数の最大化と高騰コマ捕捉を分けて評価する
30分化後の応札量拡大の可否3時間ブロックでは要件未達だったリソースが30分継続なら要件を満たすか3三次②同様に応札量増(約52%増の先行実績)が見込めるなら、部分参加を前提に運用計画を再設計する6
投資先商品の選定対象エリアで一次調整力の未達が継続しているか9未達商品は約定確率が相対的に高い。一方で募集量の少ない夜間帯は応札超過が顕著なため時間帯別に切り分ける10
蓄電池新設案件の初期数年の収益前提初期2〜3年は容量市場に参入できず応札単価が高くなる傾向を織り込んでいるか10上限価格引下げ下では高単価前提が成立しにくい。減価償却進行後の単価低下も併せた複数年シナリオが必要
揚水・市場外調達への依存度対象エリアで揚水随意契約が継続しているか、解除検討が進んでいるか10随意契約解除は公募募集量の増加要因となり得るため、募集量前提の上方修正機会として監視する

応札戦略の見直しに使う判断表と、2026年度下期に確認すべき指標

以上を踏まえ、自社の応札戦略と投資判断で確認すべき条件を整理する。平均単価は1円未満の水準にありながら最高値は200円に達し、上限価格は15.00円へ切り下がる。この非対称な分布の中で意思決定するには、単価水準そのものではなく「どのコマで当たるか」「上限価格に触れないか」を条件として扱う必要がある。

まず行うこと

  1. 自社の応札・約定データを比較する。 2026年2月と4月以降を商品別・時間帯別に突き合わせ、30分化による約定コマ数増とスポット後取引による余力減の純効果を定量化する
  2. 応札可能な価格帯を洗い直す。 燃料費・機会費用を更新し、上限価格15.00円/ΔkW・30分で応札不能となる商品と時間帯を特定してポートフォリオを組み替える
  3. 不足領域への追加投入を判断する。 一次調整力の未達が続くエリア・時間帯を対象に、蓄電池やDR等の追加投入と事前審査・応動実績評価の準備状況を点検する

監視する指標

  • 需給の充足度: 商品別・エリア別の募集量/応札量/約定量と充足率の推移
  • 価格の裾野と高騰頻度: 前日取引の平均・最高・最低約定単価の分布、とくに200円に達するコマの頻度
  • 募集量の実績: 3σから1σへの移行と市場外調整力控除終了後に、実績募集量がどう変わったか
  • 揚水随意契約の扱い: 継続・解除の検討状況と、それに伴う公募募集量の変動
  • 新規リソースの参加条件: 揚水ポンプの応札可否と、変動性再エネ+蓄電池の参加方法に関する検討進捗

参考文献

  1. 2.
    需給調整市場の運用等について
    電力・ガス取引監視等委員会2025/08/29PDF
  2. 3.
    需給調整市場に係る実態調査結果等について
    電力広域的運営推進委員会2026/07/31PDF
  3. 4.
    需給調整市場の運用等について
    電力・ガス取引監視等委員会2026/03/30PDF
  4. 7.
    需給調整市場の運用について
    電力・ガス取引監視等委員会2023/08/22PDF
  5. 12.
    揚水随意契約にかかる事業者意見
    電力・ガス取引監視等委員会2026/02/20PDF
  6. 14.
  7. 15.
    需給調整市場(三次調整力②)の運用状況について
    電力・ガス取引監視等委員会2021/12/21PDF

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