「誰が払うのか」で変わる再エネ接続の現実:系統増強の費用負担ルール全解説
この記事でわかること
- 系統増強費用は「特定負担」と「一般負担」に分かれ、一般負担分は託送料金を通じて全需要家に広く配分される仕組みになっている
- 発電側課金が2024年4月に導入され、これまで小売が全額負担してきた送配電コストの一部が発電事業者にも転嫁される構造に転換した
- 東北東京間連系線の工事費は計画1,172億円から実績1,537億円へ31%増加しており、資材費高騰や自然災害が広域系統投資のコストを押し上げている
費用負担の基本構造:特定負担と一般負担
系統増強費用の負担方式は、大きく特定負担(接続希望者が直接負担)と一般負担(全ての系統利用者が託送料金を通じて負担)に区分される 1。
- 特定負担は、特定の電源が直接の利益を受ける増強工事(例:自電源の連系のためにのみ必要な設備)に課される。発電事業者にとっては「接続負担金」として直接の初期投資となる。
- 一般負担は、基幹系統の送電設備にかかる費用など、広域的な便益が認められる整備に適用される。一般送配電事業者が費用を立て替え、最終的に託送料金(電気料金に含まれる)として回収される 1。
一般負担の上限設定は、電源導入の促進と託送料金上昇のトレードオフを抱えており 1、制度設計上の核心的な論点であり続けている。
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コネクト&マネージ:「増強なし接続」の普及
従来の接続ルールでは、系統の空き容量がなければ増強工事が完了するまで接続できず、多大なコストと時間がかかった。これを抜本的に変えたのがコネクト&マネージの取り組みである。
(開始済み)N-1電制(送電線事故時にリレーで自動的に電源出力を制限する仕組み)は、2018年10月に新規特高電源への先行適用を開始し、2022年7月から既設を含む全ての特別高圧電源へ本格適用された 2。これにより、接続時点での系統増強工事なしに運用容量を拡大できるようになった。N-1電制先行適用期(2018年10月〜)の費用負担は特定負担であったが、本格適用(2022年7月〜)からは一般負担へ転換された 3。
(開始済み)ノンファーム型接続は、系統の空き容量にかかわらず接続を認め、混雑時には出力制御を前提とする仕組みで、2021年1月に基幹系統へ、2023年4月にローカル系統(高圧以上)へと適用が拡大された 2。ローカル系統でのノンファーム型接続が広がると、混雑が常態化する区間が生まれる。その緩和のための系統増強リクエストを発電事業者が申請できる仕組みが整備されており、基本的に増強を希望する発電事業者の負担を原則としつつ、一般送配電事業者の受益分を控除する考え方が採られている 4。
広域系統整備計画と全国調整スキーム
大規模な地域間連系線の増強は「広域系統整備計画」として電力広域的運営推進機関(OCCTO)が策定し、多段階の費用負担区分が適用される。中国九州間連系設備(概算工事費 約4,412億円、工期11〜13年6カ月)を事例に整理すると、費用は以下の4区分に分類される 5:
| 区分 | 対象費用 | 回収方法 |
|---|---|---|
| I | 特定の者が利益を受ける整備費用 | 当該者から直接回収 |
| II | 全国調整スキーム対象費用×再エネ寄与率 | 系統設置交付金(再エネ賦課金原資)で回収 |
| III | 全国調整スキーム対象費用からIIを控除した残額 | 広域系統整備交付金・特定会社負担で回収 |
| IV | I〜IIIを控除した残額 | 地域内(例:九州)の一般送配電事業者負担 |
中国九州間連系設備の事例では、費用便益評価に基づき再エネ寄与率が69.9%と算定され、再エネ由来の効果分(約2,811億円)は系統設置交付金(再エネ賦課金)で回収、その他電源由来の効果分(約1,208億円)は広域系統整備交付金等で回収される 5。費用便益評価は燃料費・CO2削減便益、アデカシー(供給信頼度)向上、送電ロス変化の三つの便益項目を基に行われ、割引率4%、評価期間22年の設定で計算される 5。
(継続検討中)費用便益評価の精緻化自体も審議が続いており、再エネ導入量や燃料価格の前提によって便益額が変動することから、評価手法の多シナリオ検討が進められている 6。
進行中の主要プロジェクトのコスト状況を確認すると、東北東京間連系線(計画工事費1,172億円→実績1,537億円、+31%増)では資材費高騰・自然災害・設計変更が増額要因となっており 7、工事完了は2027年11月の予定 8(2026-08-02時点で後続資料での完了確認なし、工事中)。広域系統整備計画のコスト検証ガイドラインは2026年2月に第98回広域系統整備委員会で改訂が議論され、年度内(2026年3月目途)の公表が予定されている 9。
発電側課金:費用負担の「新しい軸」
(開始済み)発電側課金は2024年4月に導入された制度で、これまで小売電気事業者が全額負担してきた送配電設備の費用を発電事業者にも一部負担させるものである 10。
課金方法は2種類で構成される 11:
- kW課金(固定料金):需要側の託送契約kWを上回る逆潮kW分に対して月額課金。全国平均の試算値は約75.13円/kW・月(税抜)
- kWh課金(従量料金):発電電力量に応じた課金。全国平均試算値は約0.26円/kWh。揚水発電・蓄電池はkWh課金が免除
割引制度として、基幹系統への影響に応じた割引A(A-1〜A-3の三段階)と、特別高圧系統への影響を考慮した割引B(B-1〜B-2)が設けられており、対象地域・割引単価は5年ごとに見直される 12。
この制度が持つ意味は大きい。これまで再エネ系統増強費用は「当該エリアの需要家」が負担していたが、発電側課金導入後は他エリアの需要家にも負担が広がる構造に転換した 10。スポット市場・容量市場・需給調整市場のいずれにおいても、応札価格へのkWh課金/kW課金分の転嫁が整理されており 10、相対取引については転嫁ガイドラインも策定済みである 11。
(継続検討中)2025年8月の調査では、一部事業者で発電側課金の未払いが生じていることが指摘されており 13、制度の実効性確保が課題として継続中である。
今後のスケジュールと残課題
| 動向 | ステータス |
|---|---|
| 発電側課金 制度導入(2024年4月) | 開始済み |
| N-1電制 本格適用(2022年7月〜) | 開始済み |
| ローカル系統ノンファーム型接続(2023年4月〜) | 開始済み |
| 中国九州間連系設備 広域系統整備計画策定(2025年10月目途) | (2026-08-02時点で後続資料での確認なし、策定済みの可能性あり) |
| 広域系統整備コスト検証ガイドライン公表(2026年年度末目途) | 決定済み |
| 東北東京間連系線 工事完了(2027年11月予定) | 決定済み・工事中 |
| 中部関西間連系線 工事完了(2030年6月予定) | 決定済み・工事中 |
| 中国九州間連系設備 運用開始(2030年代初め想定) | 決定済み |
再エネ発電事業者の視点
系統増強の費用負担構造で今最も重要なのは、「接続時に特定負担でいくら払うか」という直接コストだけでなく、接続後のキャッシュフローを圧迫する発電側課金をどう評価するかという問いである。kW課金は設備容量に比例する固定費であり、出力制御が多い地域・時間帯でも発生する。ローカル系統でノンファーム型接続を選択した場合、出力制御が常態化しても発電側課金は課される。スポット市場や容量市場への応札価格への転嫁が整理されているとはいえ、実際の転嫁が円滑に進むかどうかは個別の契約交渉に依存する。2025年調査で一部未払いが確認されている現状は、転嫁が当然には進まないことを示唆している 13。事業計画の段階で、接続地点の割引区分(割引Aか割引Bか、またその段階)を確認し、実効課金単価を試算したうえで投資収益率に織り込むことが求められる。
電力小売・統合型エネルギー事業者の視点
発電側課金の導入は、発電コストの価格形成ロジックを変えた制度的転換点である。これまで「送配電費用は全て小売が負担」という前提で設計されていた相対契約の構造が、発電側への一部転嫁を織り込んだものへとシフトしつつある。特に、固定価格での長期相対契約を多数抱える事業者は、転嫁ガイドラインの内容を踏まえた契約条件の見直しを検討すべき局面にある。また、広域系統整備計画の工事費上振れ(東北東京間連系線で+31%の実績)が今後も続けば、これは託送料金の上昇を通じて小売コストに影響し、次の規制期間(レベニューキャップ制度の5年ごとの見直し)での料金設定の前提条件を変えうることを念頭に置く必要がある 14。系統増強投資の動向とそのコスト管理状況(コスト検証ガイドラインの運用状況 9)は、中長期の事業コスト見通しを左右する情報として継続的にモニタリングする意義がある。
参考文献
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