系統増強の仕組みと費用負担ルール:再エネ事業者が知るべき「誰が払うのか」の全体像
--- 2024年4月、「発電側課金」が正式に導入され、これまで小売事業者が全額負担していた送配電コストの一部が発電事業者にも請求されるようになった。同時期に、数千億円規模の地域間連系線増強が複数路線で進行しており、その費用回収の仕組みも並行して整備されている。「どの費用が自分に課金されるか」を理解しないままでは、事業採算の計算が狂いかねない。 **系統増強の費用負担ルールとは**、「誰がその増強から便益を受けるか」に応じて工事費と維持費の負担者を割り振るための制度設計の総称である。便益の所在によって、発電事業者個別負担・再エネ賦課金(系統設置交付金)・全国の託送料金(広域系統整備交付金)・地
系統増強はなぜ必要なのか
日本の電力系統は、もともと地域の大型火力・水力発電所から需要地に一方向で送電する設計だった。再生可能エネルギーが北海道・東北・九州など電力消費の少ない地域に大量立地したことで、「発電地と消費地のミスマッチ」が顕在化した。地域間連系線が不足すると、九州などで再エネ出力制御が頻発し、せっかく建てた発電設備の稼働率が下がる。燃料費とCO₂削減コストを広域で融通できれば社会全体のコストも下がる。これが系統増強の基本的な動機である 1。
費用負担の4層構造:「誰が受益するか」が分岐点
広域系統整備委員会が整理した費用負担区分は次のとおりである 2(開始済み)。
| 区分 | 対象費用の性格 | 回収方法 |
|---|---|---|
| 区分Ⅰ | 特定の者だけが利益を受ける整備・更新 | 当該特定者から直接回収 |
| 区分Ⅱ | 全国調整スキーム対象費 × 再エネ寄与率 | 系統設置交付金(再エネ賦課金)で回収 |
| 区分Ⅲ | 全国調整スキーム対象費 − 区分Ⅱ | 広域系統整備交付金・特定会社負担で回収 |
| 区分Ⅳ | 残余費用 | 地域電力会社負担・特定会社負担で回収 |
この表の核心は区分Ⅱ=「再エネ寄与率」の考え方にある。中国九州間連系設備(概算工事費4,412億円、概算運転維持費5,384億円、合計9,796億円)では、費用便益評価の結果、再エネ寄与率69.9%と算定され、その分(約2,811億円相当)が全国の再エネ賦課金で回収される 2。残り30.1%は広域系統整備交付金等で回収される設計だ。
全国調整スキームとは、特定地域の連系線増強コストを全国の託送料金や再エネ賦課金で広く薄く分担する仕組みである。受益は全国に及ぶと判断された費用は「全国負担」となり、電力広域的運営推進機関(OCCTO)が各一般送配電事業者に費用を割り振る 3。
現在進行中の地域間連系線増強プロジェクト
2026年6月時点での主要4路線の状況は以下のとおりである 4。
| 連系線 | 運用容量の変化 | 概算費用 | 完了予定 | ステータス |
|---|---|---|---|---|
| 東北東京間 | 573万kW → 1,028万kW(+455万kW) | 3,539億円 | 2027年11月 | 開始済み(工事進行中) |
| 東京中部間 | 210万kW → 300万kW(+90万kW) | 1,837億円 | 2028年12月 | 開始済み(工事進行中・一部工期延長) |
| 北海道本州間 | 90万kW → 120万kW(+30万kW) | 1,014億円 | 2027年度末 | 開始済み(工事進行中) |
| 中部関西間 | 300万kW → 600万kW(+300万kW) | 1,218億円 | 2030年6月 | 開始済み(工事進行中) |
| 中国九州間 | +100万kW程度(新設) | 9,796億円 | 2039年3月 | 決定済み(2025年10月に広域系統整備計画策定) |
さらに北海道本州間には日本海ルートの新設構想がある。工事費見込み1.5兆円〜1.8兆円、工期6〜10年と見込まれるが、実施案の提出期限が2026年12月に延長されており審議が継続中である 5(提案・審議中)。
発電側課金:2024年4月から始まった新しい負担
(開始済み)2024年4月から、発電事業者が直接送配電会社に支払う「発電側課金」が導入された 6。これは2018年から約6年かけて検討されてきた制度で、それまで小売事業者が全額負担していた託送料金の一部を発電側が分担するものだ。
課金の仕組み
- kW課金(固定料金):需要側の託送契約kWを超える逆潮流kW分に課金。地域別の試算では北海道が最も高く99.66円/kW・月(割引相当額付加単価込み)、沖縄が最も低い 7
- kWh課金(従量料金):メーター計測値に基づく発電量に課金。揚水発電・蓄電池はkWh課金免除
- 逆潮流10kW未満は課金対象外(一時的措置)
割引制度
電源が系統整備コストに与える影響に応じた割引が用意されている。
- 割引A(基幹系統影響):需要地に近く系統増強コストを削減する電源に割引。需要地立地電源は基幹系統の増強コストを軽減するため、基幹系統費用の負担をゼロにする「割引A-1」が設定されている
- 割引B(特別高圧系統影響):配電系統への影響に応じた割引
割引対象地域は5年ごとに見直しされる 8。
転嫁の実態
2026年2月時点のアンケート(164社対象)では、認知度98%、相対契約の見直し協議実施率69%と一定の浸透は確認された。ただし制度理解の向上と手続きの電子化に対する要望が複数の事業者から寄せられており、実務整備は継続中である 9。スポット市場・容量市場・需給調整市場など各市場での応札価格への転嫁方法は制度上整理されている 6。
ローカル系統でのノンファーム接続と混雑緩和の費用
基幹系統だけでなく、ローカル系統(配電系統)においても費用負担のロジックが整備されている。2023年4月から、空き容量のないローカル系統へのノンファーム型接続の受付が開始された(開始済み)10。
ノンファーム接続では、混雑時に出力を抑制することを条件に接続するため、系統増強なしで接続できる。しかし事業者が出力制御を避けたい場合に混雑緩和を求めることができ、そのプロセスも整備されている。混雑緩和のための系統増強費用は増強希望者の負担が基本とされ、一般送配電事業者が受益する分のみ控除される仕組みだ 11。
コスト検証体制:透明性を担保する仕組み
大規模な系統増強プロジェクトでは、工事費の増額リスクが常に存在する。東北東京間連系線では、東北NWの送電工事費が2020年時点の1,172億円から2024年時点に1,537億円へ+365億円(+31%)増加し、調達プロセスの検証が行われた 12。
これを受けて、OCCTOの「計画評価及び検証小委員会」が技術的評価・調達プロセス検証・設備維持運用費検証を担う体制が整備され、2026年2月にはコスト検証ガイドラインが改訂された(決定済み、施行準備中)13。費用が増額された場合には検証を経て託送料金申請に反映され、電力・ガス取引監視等委員会が金額を確認するフローが明確化されている 14。
今後のスケジュール・展望
- 2027年度末:東北東京間・東京中部間・北海道本州間の増強工事完了予定(決定済み)
- 2030年6月:中部関西間連系線の完了予定(決定済み)
- 2039年3月:中国九州間連系設備の完了予定(決定済み)
- 発電側課金の割引単価見直し:5年ごとの見直し周期に基づき、最初の見直しが2028〜2029年頃に想定される(継続検討中)
- 北海道本州間(日本海ルート):実施案提出期限2026年12月、実施主体決定後に広域系統整備計画を策定予定(提案・審議中)5
発電事業者(系統接続・プロジェクト収益の設計者)
発電側課金は「接続できれば終わり」ではなく、稼働する限り毎月発生するランニングコストである。kW課金は設備容量に比例して固定的に課され、kWh課金は発電するほど累積する。特に稼働率の高い大規模風力や基幹系統に直接連系する電源は、この両方の課金が重くなる傾向がある。
重要なのは割引制度の活用可否だ。需要地近傍(既に系統が充足しているエリア)への立地であれば割引A-1が適用され、基幹系統分の課金負担がゼロになる。一方、北海道・東北・九州など再エネの適地は送電ロス削減効果が低く割引Bのみが適用されるため、表面上の課金額は相対的に高くなる。立地選定と採算計算は発電側課金の割引後コストを織り込んで行う必要がある。
また、ノンファーム接続でローカル系統に接続した場合、出力制御を回避したいなら系統増強リクエストを提出できるが、そのコストは原則として自分が負担する。接続を急ぐことと増強コストの回避は、常にトレードオフになることを認識しておくべきだ。
電力小売・新電力事業者(PPA・相対契約の価格設計者)
発電側課金の導入後も「託送料金の総額(100)は変わらない」。変わるのは、その負担が発電側(10程度)と需要側(90程度)に分割されたことだ。問題は、この発電側の10が相対契約の価格交渉を通じて小売側に転嫁されるかどうかが当事者間の交渉に委ねられていることにある。
アンケートでは69%の事業者が相対契約の見直し協議を行ったが、逆に言えば31%は未了だ。長期PPAの売電単価が発電側課金の分だけ実質的に値上がりしているのに、受電価格が据え置かれている契約が残存している可能性がある。長期固定価格のPPAでは特に、課金制度の変化が「単価の実質的な目減り」として顕れる。既存契約の改定条項の有無と、今後の新規契約における転嫁条件の明示化は、実務上の最重要確認事項と考えられる。
参考文献
- 1.[ローカル系統へのノンファーム型接続導入後の混雑緩和スキームについて], 電力広域的運営推進委員会, https://www.occto.or.jp/assets/iinkai/kouikikeitouseibi/2022/files/seibi_66_01.pdf
- 2.発電側課金の導入について 中間とりまとめ 概要(改定案), 電力・ガス取引監視等委員会, https://www.egc.meti.go.jp/activity/emsc/pdf/567_03_02.pdf
- 3.広域系統整備計画の進捗状況について (2025年度第2四半期) (報告), 電力広域的運営推進委員会, https://www.occto.or.jp/assets/iinkai/kouikikeitouseibi/2025/files/seibi_94_04_01.pdf
- 4.本日の検証について, 電力・ガス取引監視等委員会, https://www.occto.or.jp/assets/iinkai/kouikikeitouseibi/cost/2024/files/cost_43_01_01.pdf
- 5.発電側課金における課金の扱いについて, 電力・ガス取引監視等委員会, https://www.egc.meti.go.jp/activity/emsc_system/pdf/091_04_00.pdf
- 6.発電側課金の導入について:中間とりまとめ 概要(改定案), 電力・ガス取引監視等委員会, https://www.egc.meti.go.jp/activity/emsc_systemsurveillance/pdf/008_05_02.pdf
- 7.「東北東京間連系線に係る広域系統整備計画」にはおける工事費増額の確認について: (B) 調達プロセスの確認, 電力・ガス取引監視等委員会, https://www.occto.or.jp/assets/iinkai/kouikikeitouseibi/cost/2024/files/cost_41_02_02.pdf
- 8.発電側課金のアンケート等について, 電力・ガス取引監視等委員会, https://www.egc.meti.go.jp/activity/emsc_systemsurveillance/pdf/018_07_00.pdf
- 9.北海道本州間連系設備(日本海ルート)に係る広域系統整備計画の予備評価について①, 電力広域的運営推進委員会, https://www.occto.or.jp/assets/iinkai/kouikikeitouseibi/101/seibi_101_02_01.pdf
- 10.広域系統整備計画のコスト検証等に関するガイドラインについて, 電力広域的運営推進委員会, https://www.occto.or.jp/assets/iinkai/kouikikeitouseibi/97/seibi_97_01_01.pdf
- 11.中国九州間連系設備に係る広域系統整備計画について, 電力広域的運営推進委員会, https://www.occto.or.jp/assets/iinkai/kouikikeitouseibi/2025/files/seibi_93_01_01.pdf
- 12.受益者・費用負担割合等について (中国九州間連系設備), 電力広域的運営推進委員会, https://www.occto.or.jp/assets/iinkai/kouikikeitouseibi/2025/files/seibi_91_01_01.pdf
- 13.ローカル系統へのノンファーム型接続導入後の混雑緩和スキームについて, 電力広域的運営推進委員会, https://www.occto.or.jp/assets/iinkai/kouikikeitouseibi/2022/files/seibi_65_01.pdf
- 14.広域系統整備計画のコスト検証等に関するガイドラインについて, 電力広域的運営推進委員会, https://www.occto.or.jp/assets/iinkai/kouikikeitouseibi/98/seibi_98_01_01.pdf
本サービスで提供される審議会資料は、各府省庁が公開している情報を公共データ利用規約(PDL1.0)に基づいて利用しています。詳細はデータソースページをご確認ください。
