policy scope

インバランス200円の壁が300円になる日──精算リスクの重心はどこへ動いたか

補正インバランス料金の上限(C値)を200円/kWhから300円/kWhへ引き上げる見直しは制度として確定しているが、その適用開始時期は2026年4月から2026年10月への変更案が審議会に示された段階にある12。
28 件参照

この記事でわかること

  • 2025年5月には需給に余裕がある平常時にも6エリア同時でインバランス料金が100円/kWh超に達しており、「ひっ迫時だけ高騰する」という従来の経験則が崩れている
  • 補正インバランス料金の上限(C値)を200円から300円に引き上げる見直しは決定済みだが、適用開始時期は2026年4月から10月への延期案が審議中で確定していない
  • 広域予備率の誤公表(0.26%→実際は9.26%)など算定インプット自体の誤りも起きており、価格シグナルに即応する事業者ほど誤ったシグナルに晒されるリスクがある

インバランス精算制度とは何か

インバランス精算制度とは、計画値同時同量制度の下で発電事業者・小売電気事業者が提出した30分コマ単位の計画と実績のズレ(インバランス)を、一般送配電事業者が調整力で埋め、その過不足を事後に金銭精算する仕組みである。

2016年度の小売全面自由化に伴い計画値同時同量制度が導入され、小売事業者と発電事業者は1日を48コマに分割した30分単位で需給計画を策定し、実需給の1時間前(ゲートクローズ)までに計画と調達を一致させる運用を行っている1。実需給断面で計画からズレが生じた場合、一般送配電事業者が調整力を用いてこれを解消し、ズレを発生させた事業者との間で事後精算を行う(開始済み)1。

重要なのは、インバランス料金が「ペナルティ」ではなく実需給断面における電気の価値を表す価格シグナルとして設計されている点である2。2022年4月に開始された現行制度では、インバランス料金単価は「調整力の限界的なkWh価格(通常インバランス料金)」と「需給ひっ迫時補正インバランス料金」のうち高い方が適用される二階建て構造となっている(開始済み)3。

なお2021年度以前は、スポット・時間前市場価格の加重平均に系統全体の需給状況に応じた調整項αを乗じる方式であったが、2020年にスポット価格0.01円/kWhの局面でαが200倍以上に振れ、インバランス料金が16〜44円/kWhに達する異常事象が繰り返し発生し、算定式そのものが見直された経緯がある45。「算定ロジックが価格を作ってしまう」リスクは、この制度に構造的に内在している。

Policy Monitoring

このテーマを、資料公開から社内共有まで追跡する

Policy Scopeでは、関連審議会の新資料、AI要約、重要論点、一次資料リンクをまとめて確認できます。

論点1:スパイクの発生源は「ひっ迫」から「限界価格形成」へ移った

実務者が最も注意すべき変化は、高値のインバランス料金が需給ひっ迫と無関係に発生し得ることが実証された点である。

2025年5月10日、北海道・東北・東京・中部・北陸・関西の6エリアで、第5コマ(2:00-2:30)等の3つの時間帯にインバランス料金が111.09円/kWh〜158.37円/kWhに達した3。当該時間帯の広域予備率には余裕があり、需給ひっ迫時補正インバランス料金は適用されていない。原因は、北海道エリアの蓄電池が最高166.21円/kWhという高値で調整力kWh価格を登録し、それが限界的なkWh価格としてインバランス料金の基準となったこと、そして広域ブロックが形成されていた時間帯であったため、その影響が北海道から他の5エリアへ波及したことである3。

同種の事象は以前にもあった。2024年1月7日には北海道エリアで蓄電池が限界的電源となり、インバランス料金単価が200円/kWhに達している。当該蓄電池事業者はインバランス料金単価の予測が困難であることからリスク回避のため上限値の200円/kWhを登録した、と説明している6。

これは分析として述べるが、「深夜帯・軽負荷期だからインバランスリスクは小さい」という経験則が成り立たなくなっていることを意味する。従来、小売事業者のインバランスリスク管理は夏冬のピーク時間帯に照準を合わせるのが自然だったが、蓄電池が限界電源となる局面は需要水準と相関しない。しかも広域ブロック経由で自エリア外の一事業者の価格登録が自社のインバランス単価を決める構造であり、自社の需給運用努力では制御できない。

監視当局はこれに対し、①不合理に高い価格で調整力kWh価格を登録している事業者への厳正な監視、②広域需給調整システム(KJC)の広域ブロック特定方法をインバランス料金の算定方法と整合させる改修、という二方向の対応方針を示している(提案・審議中)3。あわせて、蓄電池の限界費用の考え方については、劣化コストを限界費用に対する10%のマージンとして考慮することが適当との整理が示されている7。さらに2026年度以降の需給調整市場の監視強化として、不合理な入札価格設定や不適切なシステム設定が新たに処分対象として追加される方向が議論されている(提案・審議中)8。

論点2:上限200円→300円の見直しは決定済み、開始時期は宙吊り

何が決まったか

補正インバランス料金は、広域予備率(補正料金算定インデックス)が低下するほど料金が上昇する設計で、その傾きと上限を規定するのがC値とD値である。C値は「緊急的に供給力を1kWh追加確保するためのコスト」、D値は「確保済みの電源I'のコストを反映する値」と整理されている2。

制度上の原則はC値600円/kWhだが、2022年度以降は暫定措置として200円/kWhが適用されてきた。D値は2019年時点の電源I'の各エリア最高価格の全国平均である45円/kWhである910。この暫定措置の解除に向けた議論が2024年9月から制度設計・監視専門会合で継続され、以下が確定した(決定済み)。

項目現行(暫定措置)見直し後
C値200円/kWh300円/kWh(沖縄も同様)
D値45円/kWh50円/kWh(沖縄も同様)

1112

C値の候補としては600円・400円・300円が比較検討され、2024年度向け容量市場の落札電源価格を参考にした390円/kWhという試算も提示されたが2、小売競争環境への影響を懸念する委員意見や、需給調整市場の流動性確保の観点から300円程度が望ましいとする事業者意見(SBパワー等)を踏まえ、300円に着地した1314。D値50円は、余力活用電源の追加起動に係るコスト単価が47〜55円/kWhという実績に基づくものである10。参考までに、海外の補正インバランス料金上限は英国約900円/kWh、テキサス州約1,000円/kWh、アイルランド約450円/kWh程度とされ、日本の300円は国際的にはなお抑制的な水準である13。

セーフティネット:累積価格閾値制度

C値引き上げと同時に、高値が長期間継続した場合の小売事業者保護策として累積価格閾値制度が新設される(決定済み)。

  • 対象期間:対象日の直前7日間
  • 発動条件:スポット市場価格(システムプライス)が200円/kWh以上となった累積コマ数が30コマに到達
  • 効果:閾値到達の翌日から、補正インバランス料金の上限価格を100円/kWhに引き下げ
  • 解除:直前7日間で100円以上の累積コマ数がゼロになった時点

1211

なお審議過程では上限価格を200円/kWhとする案が先行していたが14、最終整理では100円/kWhとなっている点に注意が必要である。2021年1月のような市場高騰局面が再来した場合、この制度が事実上の損失上限を規定することになる。

開始時期をめぐる不確実性

ここが実務上最も注意すべき論点である。当初のスケジュールは、2025年5月パブリックコメント、2025年7月に電力・ガス取引監視等委員会での中間とりまとめ報告および経済産業大臣への建議、2026年4月から制度運用開始であった1211。

しかし2025年11月21日の第15回会合において、時間前市場のエリア別入札情報表示(当初2026年4月のJEPXシステム更新に合わせる予定だった)について旧一電等からシステム対応が困難との要望が出され、これを2026年10月1日以降に延期する意見が示された。あわせて、新電力側から「インバランス予測に資する情報公開が実現していない状態で上限引き上げを実施することへの懸念」「高需要期の対応が難しい」との指摘があり、インバランス料金制度の改正自体を2026年10月1日に実施する案が検討対象となった(提案・審議中)15。

2026年8月10日時点で、この延期案が正式決定されたことを示す後続資料は確認できていない。ただし参考情報として、2026年5月20日の北海道エリアにおける事象では、インバランス料金単価が200円/kWhであったことが報告されている16。この数値は現行の暫定措置(C値200円)の上限と一致しており、2026年5月時点で300円への引き上げが未適用であった可能性を示唆すると考えられるが、資料上で明示された確認ではない。実務者としては、自社の契約・ヘッジ設計において「300円適用開始日」を確定情報として扱わず、監視委員会の公表を個別に確認すべき段階にある。

論点3:公表されたインバランス単価は確定値ではない

制度リスクや市場リスクの陰に隠れがちだが、オペレーショナルリスクは依然として残存している。

インバランス料金単価の誤算定は、2022年4月の新制度開始以降、継続的に発生してきた。発生件数と影響コマ数は改善傾向にあるものの、ゼロにはなっていない17。

期間発生件数影響コマ数
2022年10月〜2023年9月46件(3.1件/月)43,447コマ
2023年10月〜2024年9月27件(1.8件/月)14,493コマ
2024年10月〜2025年9月16件(1.3件/月)7,866コマ

過去には中央給電指令所システムのデータ取込設定誤り等により、東北・中部・関西・九州・沖縄の5エリアで長期にわたる誤算定が発生し、全エリアで払い戻しまたは追加請求が必要となった事例がある1819。

さらに直近では、算定インプットである広域予備率そのものの誤公表が起きている。2026年5月20日16時コマにおいて、北海道エリアの広域予備率が0.26%と公表され、インバランス料金単価は200円/kWhとなったが、これは実際の需給状況と相違していた。原因は、融通指示を受けた連系線空容量の更新のみが反映された状態で自動演算が行われたことであり、更新後の再計算では広域予備率は9.26%であった。広域予備率は5月26日に修正され、インバランス料金単価についても修正作業と精算が進められている16。

分析として述べれば、この事例が示すのは「価格シグナルに即応する事業者ほど、誤ったシグナルに晒される」という非対称性である。広域予備率0.26%という公表値を見てDRを発動し、あるいは蓄電池を放電させた事業者は、後日その前提が誤りだったと知ることになる。制度が価格シグナルによる行動誘導を強めるほど(=C値を引き上げるほど)、この誤りのコストは増大する。誤算定件数の減少傾向と、C値引き上げによるシグナル強化のタイミングが重なっている点は、制度全体のリスク配分として留意すべきである。

制度の外側:収支・信用リスクという第二の層

インバランス精算は、当事者間の損益で完結しない。一般送配電事業者はインバランス料金収入と調整力コストの差額を管理しており、収支に過不足が生じた場合は託送収支に繰り入れて系統利用者に還元または回収する仕組みとなっている(開始済み)2021。

実績を見ると、10社合計で2022年度は144億円の赤字、2023年度は94億円の赤字、2024年度第1四半期はほぼ均衡と報告されている2。つまりインバランス制度の設計は、最終的に託送料金を通じて全需要家に波及する構造を持つ。C値・D値の水準論が「小売事業者の損益」だけでなく「制度全体のコスト回収」の問題として議論されてきた背景はここにある。

もう一つの層が信用リスクである。市場価格高騰局面では小売電気事業者の撤退・倒産が増加し、過去2年間の未納額は約450億円に達し、その多くがインバランス料金であったと報告されている22。これを受けて、小売電気事業者には登録申請時の事業計画書提出(インバランス発生を含むリスク管理の対応策・目標の記載)が義務付けられ(2023年4月1日施行・開始済み)、事業開始後も「リスク管理体制の運用状況」および「資金の概況」(月間電力販売額、月末現預金残高、インバランス支払額等)の定期報告が求められる枠組みが整備されている23。インバランスは、いまや損益項目であると同時に監督当局に報告される財務健全性指標でもある。

今後の展望

  • 時間前市場のエリア別情報公表:北海道/東北・東京/中部・北陸・関西/中国・四国/九州の5区分に分割して表示する方向で、2026年4月のJEPXシステム更新に合わせる案から2026年10月以降への延期案が示されている(提案・審議中)1512。インバランス回避のための時間前調達の精度に直結する。
  • 需給調整市場の全商品前日取引化:2026年3月14日から実施され、複合市場では東京エリアの平均約定単価が4.91円→2.31円、中部が3.49円→1.89円へ低下、調達率も改善傾向にあると報告されている(開始済み)24。調整力の限界kWh価格を通じてインバランス料金にも影響する変化である。
  • 同時市場:実需給に関する論点として「調整力kWh価格の算定方法」「インバランス料金の算定方法」が明示的に検討対象に位置づけられており(継続検討中)25、2026年6月時点で第1フェーズの技術研究段階にある26。中期的にはインバランス料金の決定ロジックそのものが再設計される可能性がある。
  • 系統用蓄電池のリアルタイム制御:混雑制御手法としてリアルタイム制御を全国展開した場合、インバランスの拡大や複雑化が懸念されると指摘されている(継続検討中)27。
Key Points·読者別ポイント

小売電気事業者・BG運用担当者

現状認識:あなたが管理すべきインバランスリスクは、「上限200円×ひっ迫コマ数」という単純なテール計算では捉えきれなくなっている。2025年5月の事例が示したのは、広域予備率に余裕がある平常時にも100円/kWh超が6エリア同時に発生し得るという事実である3。加えて、上限自体が200円から300円へ引き上げられることは決定済みで、残る不確実性は適用時期のみである1215。

なぜ重要か:この二つの変化は、社内のリスク量計測の前提を別方向から崩す。上限引き上げは「ひっ迫時テールの1.5倍化」という予測可能な変化だが、平常時の限界価格形成に起因するスパイクは、需要予測精度の向上や供給力の積み増しでは防げない。自社の運用努力と損益の相関が弱まる領域が増えているということである。

どう考えるべきか:三つの問いを分けて設計するのが実務的である。第一に「制御可能なインバランス」——需要予測誤差や電源計画外停止に起因する量的ズレは、時間前市場での調整能力とヘッジ比率で管理する。審議会のBGヒアリングでは、前週金曜に決定した約定方針が影響して初動が遅れたケースが不足インバランスの一因として挙げられており10、意思決定サイクルそのものが論点になる。第二に「制御不能なテール」——累積価格閾値制度(上限100円/kWh)が事実上の損失上限を規定する11ため、長期高騰シナリオの財務影響試算はこの発動条件(直前7日間で200円/kWh以上30コマ)を織り込んで行うべきである。第三に「時期の不確実性」——需要家との複数年契約や小売価格改定の前提として300円適用開始日を置く場合、それが未確定であることを社内で明示的に扱う必要がある。あわせて、インバランス支払額は「資金の概況」として当局への定期報告項目であり23、損益管理とは別に資金繰りベースでのモニタリングが求められている点も再確認したい。

蓄電池・DRを活用するアグリゲーター

現状認識:C値300円/kWhへの引き上げは、需給ひっ迫時にDRや蓄電池を発動するインセンティブを1.5倍にする。審議会でも、C値引き上げがDR事業者へのインセンティブとして機能することは複数の事業者から指摘されてきた1328。一方で、あなたが調整力kWh価格に登録する価格は、限界電源となった瞬間にエリア全体、場合によっては広域ブロック全体のインバランス料金を決定する3。

なぜ重要か:ここに非対称な立場が生じる。収益機会の拡大と、監視強化の対象になるリスクが同じ制度変更から同時に発生している。監視委員会は不合理に高い価格登録への厳正な監視を明言しており3、2026年度以降は不合理な入札価格設定が新たな処分対象として追加される方向にある8。

どう考えるべきか:価格登録の合理性を、事後的に説明可能な形で構造化しておくことが最大の防御になる。蓄電池の限界費用については、スポット市場や自社電源からの充電費用を基礎とし、劣化コストは10%のマージンとして考慮することが適当との整理が示されている7。「インバランス料金単価の予測が困難なのでリスク回避のため上限値を登録した」という説明6は、2024年時点では事情説明として通用したが、時間前市場のエリア別情報公表が実現し予測環境が改善した後には成立しにくくなると考えられる。逆に言えば、情報公表の拡充とC値引き上げは同時に進むべきセットであり、この点は新電力側が制度改正時期の後ろ倒しを求めた理由でもある15。また、DR発動判断の根拠となる広域予備率の公表値自体が事後修正され得る16以上、公表値のみに依存した自動発動ロジックを組む場合は、修正・再精算が発生した際の顧客との精算条件を契約上あらかじめ定めておくことが望ましい。

参考文献

  1. 4.
    需給調整市場の運用等について
    電力・ガス取引監視等委員会2026/03/30PDF
  2. 6.
    インバランス料金制度について
    電力・ガス取引監視等委員会2024/10/15PDF
  3. 7.
    系統用蓄電池の新規連系系における課題と対応
    電力広域的運営推進委員会2025/11/28PDF
  4. 11.
    インバランス料金制度の詳細設計等について
    電力・ガス取引監視等委員会2025/03/31PDF
  5. 14.
    インバランス料金制度の詳細設計等について
    電力・ガス取引監視等委員会2025/04/25PDF
  6. 18.
    小売電気事業者に関する今後の対応について
    電力・ガス取引監視等委員会2023/07/28PDF
  7. 19.
    インバランス料金制度の詳細設計等について
    電力・ガス取引監視等委員会2025/06/27PDF
  8. 21.
  9. 22.
  10. 23.
    インバランス料金等について
    電力・ガス取引監視等委員会2024/01/30PDF
  11. 24.
    小売電気事業者に関する今後の対応について
    電力・ガス取引監視等委員会2022/12/05PDF
  12. 26.
    インバランス料金の状況等について
    電力・ガス取引監視等委員会2025/07/25PDF

本サービスで提供される審議会資料は、各府省庁が公開している情報を公共データ利用規約(PDL1.0)に基づいて利用しています。詳細はデータソースページをご確認ください。

Next Action

需給調整市場の制度変更を週次で把握

関連審議会・制度資料の更新を、チームで共有できる形に整理します。

需給調整市場の監視を相談する

関連コラム