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インバランス精算制度の仕組みとリスク:「見えにくいコスト」を制する者が電力市場を制す

--- 電力の小売自由化以降、「インバランス料金」は電気事業者の収支に直結するにもかかわらず、制度の複雑さゆえに実務現場では十分に把握されていないケースが少なくない。2026年度には補正インバランス料金の水準が大幅に引き上げられる制度改正が施行されており、その影響を正確に理解しておくことが求められる。

最新資料 2025/11/2111 件参照

インバランス精算制度とは何か

インバランス精算制度とは、電力事業者が「需給計画」と「実際の需給実績」との間に生じた乖離(インバランス)を、一般送配電事業者(以下、一送)との間で事後的に金銭精算する仕組みである。

2016年の小売全面自由化に伴い、計画値同時同量制度が導入された。これにより、発電事業者・小売電気事業者はバランスグループ(BG)を形成し、1日を48コマ(30分単位)に分割したうえで、実需給の1時間前までに自社グループの発電量と需要量を一致させた計画を提出する義務を負う 1

実需給において計画と実績にずれが生じると(インバランス)、一送が調整力を発動してそのずれを吸収する。この調整に要したコストと便益を反映した単価が「インバランス料金単価」であり、インバランスを発生させた事業者がその単価で事後精算を行う 1

料金の二層構造:通常料金と補正料金

インバランス料金は2022年4月以降、以下の二層構造をとっている(開始済み)。

通常インバランス料金

平常時のインバランス料金は、「調整力の限界的なkWh価格」 を基礎に算定される。具体的には、一送が需給調整市場で調達した調整力のうち、その時間帯に実際に発動した電源の限界的なコスト(最も高い価格の調整力)が料金単価に反映される 2

需給に余裕があれば料金は低く、需給が引き締まれば料金は高騰する。2025年5月10日には、需給自体に問題はなかったにもかかわらず、北海道エリアの蓄電池が最高166.21円/kWhで調整力を登録したことにより、その影響が広域ブロック経由で東北・東京・中部・北陸・関西エリアへ波及し、インバランス料金が111〜158円/kWhに急騰する事案が発生した 2。これは「需給は問題なかったが料金だけ高騰する」という、制度の複雑さに起因するリスクの典型例である。

需給ひっ迫時補正インバランス料金(C値・D値)

需給が著しく引き締まったとき(広域予備率が閾値を下回ったとき)には、「需給ひっ迫時補正インバランス料金」 が適用される。この料金は通常料金と比較して高い方の金額が採用されることで、需給ひっ迫時に系統利用者が適切な計画遵守行動を取るよう強力な価格シグナルを与える設計になっている。

補正インバランス料金の計算式の中心にあるのが、C値D値の二つのパラメータである 3

  • C値:緊急的に供給力を1kWh追加確保するためのコスト。需給ひっ迫時の価格シグナルの強度を決定する。
  • D値:容量市場等で確保済みの電源I'(発動指令電源)のコスト。「すでに準備された供給力」の対価に相当する。

C値・D値の暫定措置と今後の見直し

補正インバランス料金のC値は、制度設計上の原則値が600円/kWhであったが、2022年度から2025年度まで200円/kWhという暫定措置が適用されてきた。これは電力市場の価格高騰が続くなか、小売電気事業者への影響を和らげる目的があったとされる 4

D値については45円/kWh(エリア最高価格の全国平均、2019年時点)が長く継続してきた 3

2024年9月から約10か月をかけた制度設計・監視専門会合での集中審議の結果、以下の改正が決定された(開始済みの可能性あり、2026年6月4日時点で後続資料による開始確認なし):

パラメータ現行(暫定措置)2026年度以降(改正案)
C値200円/kWh300円/kWh
D値45円/kWh50円/kWh

加えて、新たに累積価格閾値制度が設けられた 5

  • スポット市場価格が200円/kWh以上となる累積コマ数が、直前7日間で30コマに達した場合
  • 翌日から補正インバランス料金の上限価格を100円/kWhに引き下げる(セーフティネット発動)
  • 直前7日間で100円/kWh以上のコマがゼロになった時点で解除

この累積閾値制度は、価格高騰が連日続く局面での事業者保護を意図している。また、時間前市場のエリア別情報公表も2026年4月から実施予定とされており(2026年6月4日時点で後続資料による開始確認なし、開始済みの可能性あり)、不確実性の低減に寄与するとされる 5

インバランス収支の赤字問題:制度の構造的矛盾

一送のインバランス収支は、近年慢性的な赤字に陥っている。2022年度は10社合計で144億円の赤字、2023年度は94億円の赤字が見込まれていた 3。この赤字は最終的に託送料金等を通じて系統利用者全体に転嫁されうる構造である 6

赤字発生のメカニズムは単純ではない。インバランス料金単価と実際の調整力調達コストの乖離、余剰インバランス(過剰発電)の買取コストの増大、再エネの急拡大に伴うインバランス量の増加などが複合的に影響している。C値を低位に据え置いた暫定措置も、需給ひっ迫時の収入を抑制し赤字拡大を助長する一因とみられてきた 7

なお、インバランス料金単価の誤算定も実務上の重大リスクとして繰り返し顕在化している。2022年4月〜2023年9月の期間だけで46件の誤算定が発生し(月平均3.1件)、その後対策が進んで2024年10月〜2025年9月には16件(月平均1.3件)まで減少しているが、依然として継続発生している 8。誤算定が発生すると適切な価格シグナルが失われるだけでなく、精算の遡及修正により事業者の会計・税務処理にも影響が及ぶ 1

今後の展望:監視強化と制度の継続的見直し

制度改正の内容が確定した後も、以下の課題が継続検討事項として残っている(継続検討中)。

  • 蓄電池の高額価格登録問題:2025年5月の高騰事案を受け、広域需給調整システム(KJC)の改修方針が検討されている。広域ブロックの特定方法にエリア内確保分の調整力を考慮するよう改修を求める方向である 2
  • C値・D値の継続監視:制度運用開始後のインバランス発生状況を監視し、必要に応じて再度見直すことが明示されている 5
  • 誤算定問題の継続監視:「一送会合」は2025年11月に終了したが、各社の取り組みに対する監視は続く 8

英国(約900円/kWh)、テキサス州(約1,000円/kWh)、アイルランド(約450円/kWh)などの海外事例と比較すると、改正後の300円/kWhは依然として低い水準にある 9。国内の市場成熟度や小売事業者の体力を考慮した段階的な引き上げが選択されたと考えられるが、将来的なさらなる引き上げの余地は残っている。

Key Points·読者別ポイント

小売電気事業者の担当者へ

現在のインバランス管理において最も直視すべきは、「通常料金」と「補正料金」の二種類のリスクが構造的に異なるという点である。補正インバランス料金は需給ひっ迫時に発動し、C値に連動して計画未達コストが跳ね上がる設計だ。2026年度からのC値300円/kWhへの引き上げ(200円から1.5倍)は、需給ひっ迫時の精算コストが直接増大することを意味する 10

一方で、累積価格閾値制度によりセーフティネットが設けられた点は評価できる。しかし「7日間・30コマ・200円/kWh」という発動要件は、単発の高騰局面では発動しない。価格が断続的に高止まりする局面を想定した電源調達戦略(スポット・時間前・先物の組み合わせ)を組み立てることが問われる。

「小売事業者の経営悪化の根本原因はC値ではなく、リスク回避手段の不足にある」という指摘は審議会の場でも繰り返されている 11。今回のC値引き上げを受動的なコスト増加として捉えるのではなく、需給計画の精度向上とリスクヘッジ手段の整備を再点検する契機として活用することが、事業の持続性を高める観点から重要である。

発電事業者・DR事業者の担当者へ

インバランス料金のC値引き上げは、需給ひっ迫時に系統に供給力を提供した場合の便益も比例して増大することを意味する。すなわち、需給ひっ迫局面での「上振れ発電」や「DR実施」の収益性が高まるという側面がある。DR事業者へのインセンティブが強化されることは審議会でも期待事項として明示されている 11

ただし、調整力の価格登録には注意が必要だ。2025年5月の事案が示すように、需給調整市場で高額な価格を登録することで広域ブロック全体のインバランス料金に影響を及ぼし、監視委員会の厳格な監視対象となることが明確になっている 2。価格設定の「機会費用の正当な反映」と「不合理な高額登録」の境界を意識しながら、調整力市場への参加戦略を構築することが不可欠である。

参考文献

  1. 1.インバランス料金制度の詳細設計等について:第3回 制度設計・監視専門会合 事務局提出資料, 電力・ガス取引監視等委員会, https://www.egc.meti.go.jp/activity/emsc_systemsurveillance/pdf/003_05_00.pdf
  2. 2.インバランス料金制度について, 電力・ガス取引監視等委員会, https://www.egc.meti.go.jp/activity/emsc_systemsurveillance/pdf/002_03_00.pdf
  3. 3.インバランス料金制度の詳細設計等について, 電力・ガス取引監視等委員会, https://www.egc.meti.go.jp/activity/emsc_systemsurveillance/pdf/007_03_01.pdf
  4. 4.インバランス料金制度の見直しについて (補正料金算定インデックスの見直し), 電力・ガス取引監視等委員会, https://www.egc.meti.go.jp/activity/emsc_system/pdf/084_08_00.pdf
  5. 5.[インバランス料金制度の見直しについて(補正インバランス料金のC及びDの値)], 電力・ガス取引監視等委員会, https://www.egc.meti.go.jp/activity/emsc_system/pdf/089_06_00.pdf
  6. 6.インバランス料金制度について ~小売電気事業者の視点から~, 電力・ガス取引監視等委員会, https://www.egc.meti.go.jp/activity/emsc_systemsurveillance/pdf/002_03_04.pdf
  7. 7.インバランス料金制度の詳細設計等について, 電力・ガス取引監視等委員会, https://www.egc.meti.go.jp/activity/emsc_systemsurveillance/pdf/010_03_01.pdf
  8. 8.新たなインバランス料金制度を踏まえた収支管理のあり方について, 電力・ガス取引監視等委員会, https://www.egc.meti.go.jp/activity/emsc_system/pdf/049_03_00.pdf
  9. 9.インバランス料金単価の誤算定等に係る報告について, 電力・ガス取引監視等委員会, https://www.egc.meti.go.jp/activity/emsc_systemsurveillance/pdf/015_10_00.pdf
  10. 10.インバランス料金等について, 電力・ガス取引監視等委員会, https://www.egc.meti.go.jp/activity/emsc_system/pdf/093_04_00.pdf
  11. 11.インバランス料金の状況等について, 電力・ガス取引監視等委員会, https://www.egc.meti.go.jp/activity/emsc_systemsurveillance/pdf/011_04_00.pdf

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