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JEPX価格を動かす真の変数——燃料費から「連系線」と「供出規律」へ

日本の卸電力価格は、2022年度の全国平均20.4円/kWhというピークを経て、直近では10〜12円台に落ち着いている12。しかし「平均価格が落ち着いた」ことは「価格リスクが縮小した」ことを意味しない。価格形成の主変数が燃料費から連系線の分断構造と供出規律の運用へ移っており、実務が直面するコスト変動の性格そのものが変わりつつある。
25 件参照

この記事でわかること

  • 全国平均価格は2022年ピークの20.4円から10〜12円台まで落ち着いたが、東京-中部間の市場分断率は年平均32.9〜45.0%で高止まりし、価格リスクは縮小していない
  • 限界費用供出義務の対象事業者は2026年4月から11社に拡大(中部電力が新規追加)、JERAの未供出事案は2026年度末まで監視が継続する
  • kWhとΔkWを同時に約定する「同時市場」の検討が始まっており、価格算定の枠組み自体が2026〜2027年度に書き換わる可能性がある

トピックの定義:JEPXスポット市場とは何か

卸電力市場(JEPX)の価格形成の中心は、翌日受渡の48コマを対象とするブラインド・シングルプライスオークション(スポット市場)であり、全国の売買曲線の交点として「システムプライス」が、連系線容量が制約となる場合はエリアごとに「エリアプライス」が決まる仕組みである。JEPXは2003年に設立され、日本の電力市場は相対契約・卸売市場・取引所の三層構造をとる1。スポット市場の取引量は2016年度から2023年度で約10倍、参加者数は約2.5倍に増加し2、現在は総需要の約40%が取引所を経由する規模に達している3。

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核心①:価格の実体は「全国平均」ではなく「エリア分断」にある

直近の四半期実績を並べると、平均価格の安定と分断リスクの併存が明確に読み取れる(すべて開始済みの実績値)。

期平均システムプライススポット約定量市場分断率
2025年1〜3月12.51円/kWh727億kWh32.2%4
2025年7〜9月12.12円/kWh788億kWh33.4%5
2025年10〜12月10.94円/kWh680億kWh東西43.0%6

分断は例外事象ではなく構造である。東京-中部間の年平均分断率は直近5年で32.9〜45.0%、北陸-関西間も35.4%(2025年3月〜2026年2月)に達し、連系線区分に基づく市場画定は本則で4区分から5区分へ改められた7。2025年10〜12月期の東エリアで30円/kWh以上の日が17日発生した背景として、中部-関西間・中部-北陸間の分断率上昇により安価な電力が関西以西に滞留したことが指摘されている6。分断率の変動要因は燃料価格ではなく、他エリアの需要減や原子力稼働の増減といった潮流要因である点も確認されている(2023年夏に中部-関西間が18.5%→43.0%へ上昇)8。

さらに、2025年7〜9月期に30円/kWh以上を記録した33日のうち約半数が北海道エリアに集中し、その背景には連系線運用容量の低下(90万kW→60万kW)と安価電源の停止があった5。これは分析だが、需要地のエリアと連系線の作業・容量計画を織り込まない調達計画は、全国平均価格が下がる局面でも損益が悪化しうるということを示している。

核心②:JEPX価格は「競争均衡」ではなく「供出規律とその執行」に支えられている

スポット価格は、市場支配力を持つ事業者が余剰電力の全量を限界費用で売り入札することを前提に設計されている。適正な電力取引についての指針(適取ガイドライン、2022年11月14日改定)がこの規律を定め9、発電容量シェア20%(経過措置区分は50%)等の基準で対象事業者が毎年判定される。2026年4月1日から2027年3月31日を対象とする判定では中部電力が新たに加わり対象は11社となった(2026年3月30日決定、同年4月適用。2026-08-10時点で後続資料での実施確認なし、開始済みの可能性が高い)7。ここでいう余剰電力全量は「自社供給力−自社想定需要−予備力入札制約」と定義され、段差・揚水・燃料・予備電源などの入札制約の合理性が個別に判定される10。

この規律が機能しないと価格は上振れする。JERAは入札ツールの不備を認識しながら対処せず、2019年4月〜2023年10月に累計54億kWhを未供出とし、約定価格を押し上げて約15億6千万円の利益が生じたと分析された。監視等委員会は2024年12月27日〜2025年12月26日を集中改善期間として再発防止策の実施状況を監視し(開始済み・期間終了)、その後も2026年度末まで定期報告を受ける方針である(継続検討中)11。歴史的にも、2020年度冬季の251円/kWh、2022年度の100円/kWhといった高騰局面では売り入札量の減少が主因とされ、需給曲線の公表や入札可能量諸元の開示など情報公開強化が段階的に進められてきた12。したがって価格見通しの前提には、燃料価格や気温だけでなく「誰に限界費用供出義務がかかり、それが執行されているか」という制度変数を置く必要があると考えられる。

なお、スポット価格はインバランス料金の算定基礎でもあり、市場価格の異常が精算単価に増幅して波及した事例(2020年6月21日、システムプライス0.01円/kWhに対しインバランス料金20.0〜44.7円/kWh)がある13。補正インバランス料金についてはC値300円/kWh、D値50円/kWh、累積価格閾値200円/kWhといった水準が議論されている(継続検討中)14。

核心③:ヘッジ手段の拡大と、価格算定ルール自体の書き換え

第一の変化はヘッジ市場の急成長である。先物市場の約定量は2025年10〜12月期に471.1億kWh(前年同期比2倍)、取引参加者は119社に達し、EEXが464.9億kWh、TOCOMが6.2億kWhを占め、2025年12月からEEXに中部エリア商品が追加された(開始済み)6。一方で時間前市場は17.6億kWhにとどまり、スポットの約2.6%程度という薄さが続く6。ベースロード市場は2019年7月創設で、2023年度第4回オークションでは東日本12.20円/kWh、西日本9.56円/kWhで約定した15。内外無差別な卸売のコミットメント評価も制度化され、ベースロード市場の制度的供出量控除上限を70%へ引き上げる方針が示されている16。

第二の変化はより本質的で、価格算定の枠組み自体が変わる可能性である。同時市場はkWhとΔkWを同時に取引し、JEPXと需給調整市場(EPRX)を代替する市場として構想されている17。2025年10月15日に第二次中間取りまとめが公表され(決定済み)、2026年4月以降の第1フェーズで詳細業務設計と運営主体の検討、第2フェーズで要件定義と導入可否の最終判断を行う段階的ロードマップが示された18。2026年4月・6月の検討会では、前日市場の開催時刻、時間前市場(前日夕方1回+当日2回の3回開催を軸に検討)、直前市場、最低価格・上限価格を含む価格規律、アップリフト等が論点セットとして整理され、2026年7月以降に順次検討する工程が示されている(開始済み・継続検討中)1920。

隣接する需給調整市場では、全商品の前日取引化が2026年3月14日から実施され、複合市場の平均約定単価が東京で4.91円→2.31円、中部で3.49円→1.89円へ低下した(開始済み)21。kWh市場とΔkW市場の価格が相互に影響し合う構造は、すでに現実の実績として現れている。

Key Points·読者別ポイント

小売電気事業者の調達・リスク管理担当者へ。 いま押さえるべき現状は、平均価格の低下(2025年10〜12月期11.53円/kWh、前年同期比約14%低下)と、分断・高騰の局所化が同時進行しているという二面性である6。これが重要なのは、需要ポートフォリオがどのエリアに偏っているかで実質調達単価が大きく変わり、全国平均やシステムプライス基準のヘッジでは残差リスク(ベーシスリスク)が消えないためである。先物の流動性は2年で急拡大したが、商品が対応するエリアは限定的で、中部エリアの追加は2025年12月である6。したがって判断軸は「どの程度ヘッジするか」ではなく「エリア別・時間帯別の露出をどの手段(先物・ベースロード市場・相対卸)でどこまで埋められるか」の分解に置くべきである。加えて、高騰日の入札可能量が供給力の7〜9%台まで細るという構造6を踏まえれば、スポット依存度そのものが供給力の薄さに対するレバレッジになっている点を認識すべきである。域外みなし小売電気事業者のエリア占有率が全国5.7%まで上昇し、公表統計の様式も見直された22ことは、競合構造の見え方が変わることを意味する。

発電事業者・アグリゲーターの市場戦略担当者へ。 認識すべき現状は、収益設計の前提となる価格規律が市場ごとに異なり、かつ流動的だという点である。スポット・時間前・先渡・ベースロード市場では発電側課金を応札価格に織り込むことが可能とされ23、他方でシェア20%超の対象事業者には限界費用供出が強く求められ、入札制約の合理性まで踏み込んで審査される710。これが重要なのは、レベニュースタッキングの前提であるkWh市場とΔkW市場の価格差が、制度変更で急速に縮む実例が既に出ているためである(前日取引化後の複合市場単価の半減)21。同時市場では自己計画電源の入札必須化、電源差替の会計上の扱い、価格規律における上限・最低価格の設定が論点として残されている2024。よって、投資判断では「現行スポット価格の統計的分布」を延長するのではなく、第2フェーズでの導入可否判断(2026〜2027年度)というシナリオ分岐を明示的に置き、いずれの制度でも成立する収益構造を優先するのが合理的だと考えられる。誤入札や不適切なシステム設定が事後処分の対象行為として明文化される方向にあること23、JERA事案で監視が2026年度末まで続くこと11も踏まえ、入札オペレーションの内部統制は市場戦略と同格のテーマとして扱うべきである。

参考文献

  1. 3.
    容量市場の2025年度包括的検証について
    電力広域的運営推進委員会2025/07/25PDF
  2. 6.
    需給調整市場の運用等について
    電力・ガス取引監視等委員会2026/03/30PDF
  3. 8.
    日本卸電力取引所のご紹介
    電力・ガス取引監視等委員会2017/12/26PDF
  4. 9.
    スポット市場価格の動向等について
    電力・ガス取引監視等委員会2021/11/26PDF
  5. 11.
    インバランス料金制度の詳細設計等について
    電力・ガス取引監視等委員会2025/03/31PDF
  6. 16.
    ベースロード市場に関する検討について
    電力・ガス取引監視等委員会2024/03/28PDF
  7. 20.
    スポット市場における不適切入札の振り返り
    電力・ガス取引監視等委員会2025/12/26PDF
  8. 22.
    電力取引報に係る公表資料の変更について
    電力・ガス取引監視等委員会2026/04/06PDF

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