容量市場とは何か:将来の供給力を取引する仕組みと参加者・オークションの区分
この記事でわかること
- 容量市場が「kWh(電力量)ではなくkW(供給力)」を取引する市場である理由と目的
- 運営主体、発電事業者、小売電気事業者・一般送配電事業者がそれぞれ担う役割と費用負担の流れ
- メインオークション・追加オークション・長期脱炭素電源オークションの区分と、それぞれの位置づけの違い
容量市場は「将来の供給力(kW)」を売買する市場
容量市場は、実際に発電した電力量(kWh)を売買する卸電力市場とは異なり、将来の一定期間に「発電できる能力」を確保しておくことに対して対価を支払う市場です1。
初めて制度に触れる際につまずきやすい用語を整理します。
- 実需給年度:確保した供給力を実際に提供する年度。オークションは通常その数年前に実施されます。2023年度に実施されたメインオークションの対象実需給年度は2027年度でした1。
- 期待容量:設備容量から、発電所内で使う電力(補機等の構内需要)や外気温による出力低下分を差し引いた供給力1。
- 容量確保契約:オークションで約定した事業者が、供給力を維持する義務を負い、対価(容量確保契約金額)を受け取る契約です2。
発電した電気を売る収入とは別に、供給力を保持していること自体に収入が生じる点が、卸電力市場との基本的な違いです。
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制度の目的は電源投資の予見性と供給力の確保
容量市場の導入目的は、発電事業者へ容量確保契約金額を支払うことで適切な時期の電源投資を促すこと、そして卸電力市場価格の安定化を通じて小売電気事業者と需要家に利益をもたらすことにあります3。
電力需給がひっ迫した局面では、地震による発電所停止や気温による需要増加が重なり、中長期的な供給力不足への対応が課題として整理されてきました2。発電設備は建設に長い期間を要するため、卸電力市場の収入見通しだけでは投資回収の予見性が確保しにくく、供給力を先に確保する仕組みが必要とされています2。
2025年度に実施された包括的検証では、容量市場が全国的な中長期の供給力確保に一定程度寄与していることが確認された一方で、制度導入後に現れた課題への対応が必要とされました4。検証は「制度主旨の再確認」「現在の仕組みの再確認」「市場運営の効率化」の3つの観点で行われています5。
運営主体・供給側・費用負担側の三者で成り立つ
容量市場は、市場を運営する機関、供給力を提供する事業者、費用を負担する事業者という三者の関係で成り立ちます。
- 電力広域的運営推進機関(広域機関、OCCTO):オークションを実施し、約定結果を公表し、容量確保契約を締結する運営主体です3。制度の見直しは資源エネルギー庁との共同事務局による検討会で議論されます4。
- 発電事業者・需要側リソースの提供者:火力・揚水・蓄電池などの電源や、需要を抑制する仕組みを供給力として応札します6。
- 小売電気事業者・一般送配電事業者:確保された供給力の費用を「容量拠出金」として負担します3。
容量拠出金の支払いは2024年度から始まっています7。負担額は各エリアの需要規模に応じて算定され、実需給2029年度の試算では東京エリアで小売電気事業者がメインオークション分7,701.9億円、長期脱炭素電源オークション分360.2億円とされています6。費用負担が小売側に生じるため、旧一般電気事業者に対しては卸売の内外無差別な実施や公平な取引条件の設定が求められています7。
オークションで価格と量が決まり、契約後は供給力維持の義務が生じる
取引は、必要な供給力量を示す需要曲線と、事業者の応札を積み上げた供給曲線が交わる点で価格と量が決まる方式です1。価格は全国一律ではなく、送電の制約に応じてエリアごとの価格(エリアプライス)が算定されます3。
2023年度実施のメインオークション(実需給2027年度)では、約定総容量が1億6,745万kW、経過措置を反映した約定総額が1兆3,140億円となり、エリアプライスは北海道13,287円/kW、東京9,555円/kW、関西7,638円/kWでした1。
約定後の運用では、供給力を確実に提供させるための仕組みが置かれています。発電設備の停止時期を調整する容量停止計画の調整業務は実需給の2年度前に行われ、実需給2026年度分では九州を除く全ブロックが供給信頼度の基準を上回りました8。また、供給力を提供できない場合には経済的ペナルティが課される規定があります2。小売事業者の事業環境の急変を緩和する経過措置も設けられ、約定価格が指標価格の50%以下の場合は控除額を100%とする扱いが定められています2。
| 比較項目 | 基本的な意味 | 押さえるポイント |
|---|---|---|
| 卸電力市場との違い | 卸電力市場は発電された電力量(kWh)を売買する | 容量市場は将来の供給力(kW)を売買し、発電しなくても供給力保持に対価が生じる1 |
| メインオークションと追加オークション | メインが供給力の大部分を確保し、追加が実需給に近づいた時点の調整を担う | 追加は不足時の調達と余剰時のリリースに分かれる3 |
| メインオークションと長期脱炭素電源オークション | メインは既存電源を含む供給力確保、長期は脱炭素電源等の新規投資促進が主眼 | 長期は落札後に他市場収益の約9割を還付する仕組みを伴う9 |
| 容量確保契約金額と容量拠出金 | 前者は供給側が受け取る対価、後者は小売電気事業者・一般送配電事業者が負担する費用 | 拠出金の支払いは2024年度から始まっている7 |
| 安定電源と発動指令電源 | 安定電源は常時の供給力、発動指令電源は指令に応じて需要抑制等で供給力を提供 | 発動指令電源には募集上限と実効性テストが設けられている10 |
メインオークション・追加オークション・長期脱炭素電源オークションの区分と現在の状況
容量市場の取引には複数の区分があります。中心となるのは実需給の4年前に大部分の供給力を確保するメインオークションで、その後に需給見通しの変化を反映して量を調整するのが追加オークションです。追加オークションは、供給力が不足する場合の調達オークションと、余剰となる場合のリリースオークションに分かれます3。2025年度に実施された追加オークション(実需給2026年度)の約定総容量は830万kW、約定総額は582億円でした3。
電源の区分としては、安定電源、変動電源単独、変動電源アグリゲート、発動指令電源の4つが用いられます1。うち発動指令電源は需要抑制などを組み合わせて指令に応じて供給力を提供するもので、募集量の上限は当初の4%から5%へ拡充された経緯があります2。実需給2025年度では応札上限475万kWに対し約定容量475万kW、実効性テストを反映した契約容量は296万kWでした10。
2023年度からは、脱炭素電源への新規投資を促し長期の予見可能性を高める長期脱炭素電源オークションも実施されています6。応札年度2025年度の第3回では脱炭素電源426.1万kW(4,748億円/年)、LNG専焼火力303.8万kW(1,444億円/年)が約定しました6。落札事業者は他市場で得た収益の約9割を広域機関へ還付する義務があり、その監視方法を整理した検討会のとりまとめが2025年7月31日に公表されています9。
現在の議論では、老朽火力の廃止に伴う供給力確保の重要性や、追加オークションへの参加電源の不足、発動指令電源の応札上限引き上げが論点となっており、2030年代初頭の需給が厳しくなる見通しへの備えが検討されています11。理解をさらに深める論点としては、容量拠出金の算定方法と小売料金への反映、そして調整力を取引する需給調整市場との役割分担が挙げられます。
参考文献
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