ネガポジ運用とは何か 需給調整市場での意味と参入の仕組みを整理する
この記事でわかること
- ネガワット・ポジワット・ネガポジという3つの供出形態の違いと、それぞれが何を売っているのか
- ネガポジ運用に関わる主体(リソース保有者、アグリゲーター、送配電事業者)の役割分担
- 需給調整市場の商品区分ごとに参入時期や指令方式が分かれてきた経緯と現在の位置づけ
ネガワットとポジワットを一体で扱うのがネガポジ運用
電力の需給調整では、需要と供給を常に一致させる必要があります。バランスを取る手段は大きく2つあり、需要側の消費を抑える方向と、供給側の出力を増やす方向です。
前者は「ネガワット」と呼ばれ、工場の生産調整や給湯機・EV充電の停止といった需要抑制によって、結果的に供給力を生み出したのと同じ効果を得るものです。後者は「ポジワット」と呼ばれ、発電機や蓄電池の放電など、実際に電気を系統へ送り出す行為を指します。
ネガポジ運用は、この2つを1つのリソースで併せ持ち、上げ方向にも下げ方向にも供出できる状態を前提とした運用形態です。需給調整市場では、リソース単体で最低入札量を満たす場合、従来はネガワット型かポジワット型のいずれかで市場参入する扱いが基本でしたが、双方を担える設備をネガポジ型として扱う方針が第34回需給調整市場検討小委員会で整理されました1。
なお、需要側の調整を制度上どう位置づけるかという議論はDR(ディマンド・リスポンス、需要反応)全般に共通しており、DRは市場取引、コーポレートPPA、バランシンググループ運用といった複数の領域にまたがって使われる概念です2。ネガポジ運用は、そのうち需給調整市場での供出形態に関する整理にあたります。
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上下双方向の供出を認める狙いは応札量の確保と競争の活性化
ネガポジ型の参入を認める目的は明快です。系統用蓄電池や揚水発電機は、充電(ポンプ運転)で需要として振る舞い、放電(発電)で供給として振る舞う設備です。片方向の供出しか認めないと、設備が持つ調整能力の半分しか市場に出てこないことになります。
第34回需給調整市場検討小委員会では、単体ネガポジリソースの例として系統用蓄電池と揚水発電機が挙げられ、これらをネガポジ型として参入可能とすることで、応札量の増加と市場競争の活性化が期待されると整理されています1。
背景には、再生可能エネルギーの拡大に伴い調整力の必要量が増えているという事情があります。変動性再エネ(太陽光・風力)は天候によって供出量が変動するため、蓄電池と組み合わせて安定的に供出する構成が調整力として有力視されています3。上下双方向に動ける設備を市場へ引き込むことは、脱炭素型の調整力を確保する取り組みの一部でもあります。
また、再エネが余剰となる時間帯には、揚水発電機のポンプ遮断によって電源脱落に備える運用が行われてきましたが、市場の商品要件との整合が課題として議論されてきました4。需要としても供給としても振る舞う設備をどう市場に位置づけるかは、制度全体に共通する論点です。
リソース保有者、アグリゲーター、送配電事業者が役割を分担する
ネガポジ運用に関わる主体は、大きく3つに分かれます。
- リソース保有者:系統用蓄電池、揚水発電機、自家発電機、家庭用蓄電池、EV充放電器などを持つ事業者や需要家。実際に上下方向の調整を行う主体です。
- アグリゲーター:分散したリソースを束ねて供給力・調整力として市場に供出する事業者。蓄電池、自家発電機、EV、再エネなどを集約し、市場取引に活用する事業が展開されています5。
- 一般送配電事業者・広域機関:需給調整市場を運営し、調整力を調達して指令を出す側。約定したリソースへ指令を送り、実績を評価します。
単体で最低入札量を満たさないリソースは、アグリゲーターが複数まとめることで市場参入する形が取られます1。逆に、大型の系統用蓄電池や揚水発電機のように単体で要件を満たす設備が、ネガポジ型参入の直接の検討対象となりました。
小売電気事業者も間接的に関係します。需要家が需要を抑制すると、その需要家へ電気を売っている小売電気事業者の販売量が減るため、費用と便益の不一致を調整する「ネガワット調整金」という仕組みが設けられています6。エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス(ERAB)のガイドラインでは、この精算方法についても整理が進められています7。
応札は上下2本、指令は1本として扱われる
ネガポジ型の具体的な取引の流れは、応札と指令で扱いが異なります。第34回需給調整市場検討小委員会の整理では、ネガワットとポジワットを同時に応札すること(2応札)が認められ、指令は1応札として扱われるとされています1。上げ方向と下げ方向を別々に価格提示しつつ、実際の運用では一体の設備として指令を受ける形です。応札は応動時間内での応札に限定されます。
指令方式にも2種類があります。「実出力指令」は指定された出力そのものを指示する方式、「出力変化量指令」は基準値からの変化幅を指示する方式です。後者は基準値の登録が必要となるため、システム対応の関係で参入可能時期が分かれ、実出力指令は2023年度から、出力変化量指令は基準値が必要な場合に2024年度からという段取りで整理されました1。
この基準値の考え方は、需要側リソースにおける「ベースライン」と近い役割を持ちます。ベースラインとは、DRを実施しなかった場合に想定される需要量のことで、標準的にはHigh 4 of 5(DR実施日を除く直近5日間のうち需要の多い4日間の平均に、当日の実績で補正を加える方法)が用いられます8。上下双方向のリソースでは、どの水準を出発点として評価するかが精算の前提となります。
| 比較項目 | 基本的な意味 | 押さえるポイント |
|---|---|---|
| ネガワット型 | 需要抑制のみで供出する形態 | 工場の生産調整や機器停止が中心。ベースラインからの削減量で実績を評価します |
| ポジワット型 | 発電・放電のみで供出する形態 | 発電機や蓄電池の出力が実績となり、需要側の想定値を置く必要がありません |
| ネガポジ型 | 同一リソースで上下双方向を供出する形態 | 上げ下げを2応札で提示し、指令は1応札として扱われます1 |
| 実出力指令 | 指定された出力値そのものを指示 | 基準値の登録が不要で、単体ネガポジリソースでは2023年度から参入可能とされました |
| 出力変化量指令 | 基準値からの変化幅を指示 | 基準値の登録が前提となり、参入可能時期が実出力指令より後ろ倒しになりました |
| 単体参入とアグリゲーション | 最低入札量を満たすかどうか | 満たさない場合は複数リソースを束ねて参入する形が取られます |
商品区分と供出形態の違いを整理する
需給調整市場には応動速度の異なる複数の商品があり、一次調整力から三次調整力②まで区分されています。取引価値も商品によって異なり、容量市場や経済DRがkWhやkWを取引するのに対し、需給調整市場はΔkW(調整可能な出力幅)を取引します9。評価間隔も一次調整力の1秒から三次調整力②の30分まで幅があり、リソースに求められる制御性能が変わります。
ネガポジ型の参入時期も商品ごとに段階を追って整理され、簡易指令システム経由の三次調整力②は2023年度、一次・二次①などは2024年度という形で進められました1。需給調整市場自体は2024年4月に一次・二次①・二次②の取引が加わり全商品の取引が始まっています10。
現在の市場は、前日取引の約定単価がエリアごとに大きく異なり、月次でも変動する状況が電力・ガス取引監視等委員会で継続的に報告されています11。DRリソース量自体は2017年度の96万kWから2026年度に600万kW規模へと拡大が見込まれてきました6。
理解を次に進めるうえでは、機器側の対応状況が論点になります。家庭用蓄電池では通信接続・外部制御・セキュリティの3要件が整理され、DRready対応機器の市場投入は2029年度が目標とされています12。EV充放電器についても、充放電可能量の取得など段階的な機能追加が検討されています9。上下双方向で動けるリソースをどこまで実用的に束ねられるかは、制度と機器仕様の両面で進行中の課題です。
参考文献
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