旧一電は今も市場の8割を握る——電力自由化10年目の「競争の実態」
この記事でわかること
- 2016年4月の電気小売全面自由化から10年が経過した。需要家の認知は高まり、スイッチング率も全国平均で50%を超えた。しかし数字の内訳を掘り起こすと、依然として旧一電が各エリアで圧倒的なシェアを保持しており、制度的な競争促進策も限界に差し掛かっていることがわかる。
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「旧一般電気事業者」とは何か
電気事業法の改正(2016年)以前に、各地域で独占的に電力小売を担ってきた10社(北海道・東北・東京・中部・北陸・関西・中国・四国・九州・沖縄各電力)を指す。現在もこれらはみなし小売電気事業者として指定され、旧供給区域内での低圧需要家向け規制料金(経過措置料金)を維持している 1。これが市場シェアを読み解く際の基本的な分類軸となる。
シェアの実態:「2割の新電力」の裏側
最新の審議会資料によれば、2025年12月時点の新電力シェア(総需要に占める割合)は約22.1%で、スイッチング率は51.4%に達している 2。2025年9月時点でも約22.6%(特高・高圧:約19.0%、低圧:約28.7%)と推移している 3。
これだけを見れば「競争が進んでいる」と思えるが、逆から読めば旧一電が依然として市場の約8割を保持していることを意味する。しかも地域格差が大きく、東北・北陸・九州・四国エリアでは旧一電が85〜94%のシェアを占める 4。
区分別のシェア推移が示す構造
| 時点 | 総需要 | 特高・高圧 | 低圧 |
|---|---|---|---|
| 2016年4月 | 5.2% | 8.2% | 0.1% |
| 2021年4月 | 19.9% | 19.9% | 20.6% |
| 2022年4月 | 19.9% | 17.7% | 23.6% |
| 2023年4月 | 16.0% | 11.4% | 23.0% |
| 2025年6月 | 21.3% | 19.1% | 26.6% |
注目すべきは2022〜23年のV字型の落ち込みである。2021年の電力市場価格高騰を受けた新電力の倒産・撤退が特高・高圧向けシェアを一時11%台まで押し下げた。その後回復しているが、高圧分野では旧一電の「取り戻し」圧力が依然として続いていると考えられる。
規制が「競争の地図」を塗り替えていない理由
電力自由化の進捗を測るうえで、経過措置料金の「指定解除基準」は核心的な指標となる。現行の解除基準は以下の3条件を総合判断するものだ。
- 消費者の状況(認知度・スイッチングの動向)
- 競争圧力の存在(シェア5%以上の有力な独立競争者が2者以上存在すること)
- 競争の持続的確保(旧一電による内外無差別な卸売の状況)
2025年3月時点での確認結果は、いずれの区域においても解除基準を満たしていない というものだ 4。消費者の認知度は約90%に達しているが 6、「シェア5%以上の競争者が2者以上」という競争圧力の要件がクリアされていない。東京エリアでは東京ガス(12.1%)が有力な競争者として存在しているが、それは1者のみにとどまる。他のエリアはさらに競争者が希薄だ(継続検討中)。
これは単に「競争が足りない」ということを超えた構造問題を示唆する。旧一電グループ会社による域外進出も全国平均で約5.7%(2025年12月)にすぎず 7、域外みなし小売電気事業者の実態を把握するために電力取引報の公表様式が2025年4月から変更されたばかりだ(開始済み) 8。これ自体、従来の「新電力シェア」という指標だけでは競争状況を正確に把握できなくなってきたことの証左である。
競争促進策の現在地:グロス・ビディング終了と「内外無差別」の継続
競争促進策の代表格だったグロス・ビディング(旧一電が社内取引分も取引所経由で行う仕組み)は、2017年に導入されたが、市場流動性の向上・価格変動抑制・透明性向上の効果が一定程度見られたとの評価を受けつつも、2023年10月から休止(開始済み)し、正式廃止の方向で検討が進んでいる 9。
代わりに維持・強化されているのが「内外無差別な卸売」のコミットメントだ。旧一電およびJERAに対し、グループ内外の小売事業者に対して差別なく電力を卸売ることを求め、年2回フォローアップが実施されている(開始済み)。2025年6月の評価結果では、関西・中国・四国・九州の各エリアで内外無差別が担保されているとの評価(◎または○)が出ている 10。ただしこれはコミットメント遵守の確認であり、市場集中度そのものを改善する効果には限界がある、と考えられる。
また、小売市場重点モニタリングとして、旧一電およびエリア内シェア5%以上の事業者を対象に、公共入札での不当廉売(電源可変費を下回る落札)を確認するヒアリングも半期ごとに継続している(開始済み)。2023年度の公共入札成立件数は1,972件に上っているが、電源可変費を下回る事例は報告されていない 11。
「シェア論」の盲点:域外進出という新変数
2025年以降、競争状況の把握をさらに複雑にしているのが、旧一電による域外進出の拡大だ。従来の「新電力シェア=競争の代理変数」という図式が崩れつつある。東京エリアでは域外みなし・関連会社の占有率が8.2%(2025年12月)に達しており、中国エリアでは10.6%と際立って高い 7。この傾向は、エリアの境界を超えた旧一電同士の競争が始まりつつあることを示している。
ただし域外進出の総量は2023年時点で全国平均約3.5%にとどまっており 12、主な障害は「自エリア外での知名度の低さ」と「人的リソースの制約」とされている。新電力にとっては、旧一電の域外展開が本格化する前に差別化を確立できるかどうかが問われる局面と言える。
新電力事業者の方へ
現状をまず正確に認識する必要がある。新電力シェアは2023年の落ち込みから回復し約22%に戻ったが、それはエネルギー危機後の一時的な旧一電回帰と、その反動による回復という色彩が強い。構造的には各エリアで旧一電が8割前後を保持し、しかも経過措置料金が維持される以上、規制価格という「床」が市場の価格形成に作用し続けることを忘れてはならない。
なぜそれが重要かというと、内外無差別な卸売のコミットメントが評価される一方で、旧一電グループの小売部門との電源調達力の差は依然として存在する。自社保有電源や長期相対契約の厚みが違う。先物市場の取引参加者が119社(2025年12月)に達する 2 という変化は好材料だが、電源ポートフォリオのリスクヘッジをどう設計するかが持続的な事業の核心だ。
どう考えるべきか。「域外みなし小売事業者の台頭」は、従来のエリア内新電力にとって新たな競争軸となる。東京・中国エリアへの他エリア旧一電の参入が目立つなかで、新電力が選ばれ続けるには、サービス差別化・価格以外の価値(再エネ証書・デマンドレスポンスなど)の提供が不可欠になる。経過措置料金が存続する現状では価格競争だけでは限界があり、顧客のロックイン戦略を見直す好機でもある。
大口需要家(調達担当者)の方へ
エリアによって競争環境の「濃淡」が大きいという現実を、調達判断の前提に置くべきだ。東京エリアでは東京ガスが12%超のシェアを持ち、実質的な複数者競争が存在するが、東北・北陸・四国エリアでは旧一電が85〜93%台を占め、有力な対抗馬がほぼいない 4。複数事業者の相見積もりが取りやすいかどうか自体が、エリアによって大きく異なる。
なぜそれが重要かというと、競争者が少ないエリアでは公共入札での価格競争が薄く、旧一電の価格設定に対して対抗的な価格圧力がかかりにくい。小売市場重点モニタリングで不当廉売は確認されていないとはいえ、それは「合理的水準では入れている」ことの確認に過ぎず、高圧需要家が享受できる割引余地が「狭い競争環境」によって制約されている可能性がある。
どう考えるべきか。自社施設のエリアを確認し、競争者が事実上1者しかいないエリアでは、旧一電との長期契約における価格交渉力を補完する手段——PPA(電力購入契約)やアグリゲーターの活用——を積極的に検討する価値がある。先物市場の活性化が進んでいることも踏まえれば、固定価格型の長期契約と変動型の組み合わせによるリスク分散が現実的な選択肢となってきている。
参考文献
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