DR(デマンドレスポンス)とは何か──需要側で電力の需給を調整する仕組みと参加者の役割
この記事でわかること
- DRの定義と、節電量が発電と同じように取引対象になる制度上の位置づけ
- 需要家・アグリゲーター・小売電気事業者・送配電の役割分担と、ネガワット調整金が必要になる理由
- 下げDR/上げDR、経済DRと調整力としてのDRという主要な区分の違い
DRは「電気の使い方を変えること」を供給力として扱う仕組み
DR(デマンドレスポンス)は、電力の需給状況に応じて需要家(電気を使う工場・ビル・家庭)が電気の使い方を変え、その変化を電力システムの調整に活用する仕組みです。発電所の出力を動かして需要に合わせるのが従来の考え方でしたが、DRでは需要の側を動かします。
制度上の要点は、需要を抑制して生じた「節電電力量」が発電電力量と同様に扱われる点にあります。電気事業法の改正により、ネガワット(節電電力量)は特定卸供給として位置づけられ、発電した電気と同じく卸取引の対象になりました1。この扱いによって、需要抑制を事業として売買することが可能になっています。
なお「ネガワット取引」はDRを取引の形にしたときの呼び方であり、DRという行為そのものと、それを商品として売買する枠組みは区別して理解する必要があります。制度整備は2016年の制度設計専門会合での議論を経て、直接協議スキームから順次実施されてきました1。
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DRが必要とされる理由は需給ひっ迫時の調整力確保と再エネ変動への対応
DRが求められる背景は、発電所を新たに動かさずに需給バランスを確保できる手段だという点にあります。気象条件によって需給が厳しくなる局面では、DRは重要な調整力として機能し、季節の端境期に生じる需給ひっ迫でもその役割が増しているとされています2。
国内のDRリソース量は拡大してきました。容量市場の発動指令電源等として登録された量は2017年度の96万kWから2024年度に415万kW、2025年度に566万kWへと増えています2。ただし、需要抑制を実際に活用する事業者は、特定卸供給事業者81社のうち18社(約22%)にとどまるとの整理もあり、登録量と実際の活用には差がある状況が示されています2。
海外との比較では、ピーク需要に対するDR契約量の比率は米国CAISOで5%、ISO-NEで10%、英国で23%、フランスで12%と整理されていました3。日本のDR制度は、こうした先行例を参照しながら設計が進められてきました。
需要家・アグリゲーター・小売電気事業者がそれぞれ担う役割
DRの取引には複数の主体が関わります。中心となるのは、需要家と、需要家をまとめて指令を出すアグリゲーター(複数の需要家や機器の調整力を束ねて取引する事業者)です。
典型的な流れは、小売電気事業者が電気を調達し、需要家がアグリゲーターの指示に基づいて需要抑制を実施し、小売電気事業者は抑制分を除いた電気を供給する、という順序で整理されています3。
ここで生じるのが費用と便益の不一致です。小売電気事業者は調達済みの電気を売れなくなる一方、需要抑制の価値はアグリゲーター側に帰属します。これを調整するために支払われるのがネガワット調整金であり、小売電気事業者の損失を補填するものではなく、費用と便益の不一致を調整するものだと位置づけられています3。DRのコスト構造は、需要家への報酬、アグリゲーターの報酬、ネガワット調整金の三つに大別されます2。
アグリゲーターには規律も課されます。需要家に対して需要抑制の指令を適時適切に出せること、安定供給に向けた管理体制、需要家保護のための情報管理体制、小売電気事業者との適正取引のための措置が要件として整理されています1。
DR量の評価はベースラインで行い、需給調整市場では計測方法が課題となる
DRは「使わなかった電気」を売るため、実際に何kW削減したのかを直接測ることができません。そこで、DRを行わなかった場合の需要見込みであるベースラインを推計し、実績との差でDR量を評価します。
標準的な算出方法は「High 4 of 5(当日調整あり)」で、DR実施日が平日の場合、当日を除く直近5日間のうちDR時間帯の平均需要が多い4日間を用い、DR実施の5時間前から2時間前までのデータで当日補正を行います4。ただし高頻度でDRを行うと参照できる非実施日が不足し、ベースラインが低く算出される課題が指摘され、需要実績にDR量を足し戻す方法が検討されています4。
需給調整市場(送配電事業者が調整力を調達する市場)に参加する場合は、計測の枠組みも論点になります。受電点ではなく機器単位で供出量を把握する機器個別計測の導入が進められ、低圧機器は2026年度から、高圧は2027年度からの参入が予定として整理されています5。特別高圧や1,000kW以上のリソースについては、ガイドライン整備とシステム改修を要し、2027年度以降の導入が見込まれています5。市場参加にはアグリゲーターが需要家リストを提出し、事前審査を通過する必要があります6。
| 比較項目 | 基本的な意味 | 押さえるポイント |
|---|---|---|
| 下げDRと上げDR | 需要を減らすのが下げDR、増やすのが上げDR | 同じ機器でも運転状態によって対応できる向きが変わります7 |
| 経済DRと調整力としてのDR | 前者は調達コスト削減が目的、後者は需給調整市場等への供出が目的 | 後者は事前審査や計測要件を伴う点が前者との基本的な違いです6 |
| ネガワットとネガポジリソース | ネガワットは需要抑制のみ、ネガポジは抑制と発電・放電の双方 | 系統用蓄電池や揚水発電がネガポジリソースの例として整理されています8 |
| 受電点計測と機器個別計測 | 前者は需要場所全体、後者は個別機器の計量値を用いる | 機器個別計測は低圧2026年度、高圧2027年度からの参入が予定されています5 |
| ネガワット調整金 | 小売電気事業者とアグリゲーターの間で支払われる調整金 | 損失補填ではなく費用と便益の不一致を調整する性質を意味します3 |
下げDR・上げDR、経済DRと調整力DRという主要な区分
DRは動かす方向と目的で区分されます。方向としては、需要を減らす下げDRと、需要を増やす上げDRがあります。目的としては、電力の調達コストや市場価格に応じて実施する経済DRと、需給調整市場や容量市場を通じて調整力・供給力として提供するDRに分かれます。経済DRの類型では、単価の高い発電所からの調達を減らして収益を確保する小売電気事業者中心の形と、アグリゲーターが実施を担う形が整理されています2。
家庭側の機器も対象です。ヒートポンプ給湯機、ハイブリッド給湯機、家庭用蓄電池、家庭用燃料電池、EV充電器・充放電器が、DRに対応するための要件(DRready要件)の検討対象となっています9。要件は通信接続機能、外部制御機能、セキュリティの三つで構成されます10。EVでは、充電タイミングのシフト、家や建物への給電(V2H/V2B)、系統への逆潮流(V2G)という三通りのDRパターンが整理されています11。
家庭用燃料電池では運転状態ごとにDRの向きが異なり、定格出力で運転中は下げDR、停止中は上げDRに対応しやすいといった整理が行われています7。
家庭機器のDRready対応機は、2029年度の市場導入を目標に要件策定が進んでおり、関連ガイドライン案は2026年11月頃の提供が想定されています79。セキュリティ面では機器のラベリング制度(JC-STAR)の水準参照が要件案に含まれる一方、エントリーレベルでは重要インフラ向けとして不十分との指摘もあり、混在環境向けのガイドライン整備が続いています12。次に理解を深める論点としては、ベースライン算定方法の見直しと、機器個別計測の適用範囲の拡大が挙げられます。
参考文献
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