policy scope

「予備率3%」の意味と限界——電力需給見通しと供給力評価の実像

「全エリアで予備率3%以上を確保」——電力需給検証の報告書には毎回この文言が登場する。しかしこの数字は「安心してよい」を意味するのではなく、「ぎりぎり安全圏」を示す最低ラインだ。しかも2026年6月の最新分析では、ベースケースにおいて東北・東京エリアで2029年度にH1予備率が3%を下回る見通しが示されている。現行の評価の仕組みを正確に理解しないまま自社の計画を組み立てると、想定外の制度対応に追われることになる。
15 件参照

この記事でわかること

  • 「全エリアで予備率3%以上を確保」——電力需給検証の報告書には毎回この文言が登場する。しかしこの数字は「安心してよい」を意味するのではなく、「ぎりぎり安全圏」を示す最低ラインだ。しかも2026年6月の最新分析では、ベースケースにおいて東北・東京エリアで2029年度にH1予備率が3%を下回る見通しが示されている。現行の評価の仕組みを正確に理解しないまま自社の計画を組み立てると、想定外の制度対応に追われることになる。
  • 関連する審議会資料の論点と、事業判断への影響を確認できます。
  • 一次資料への導線をたどりながら、社内共有に使える形で整理できます。

Policy Monitoring

このテーマを、資料公開から社内共有まで追跡する

Policy Scopeでは、関連審議会の新資料、AI要約、重要論点、一次資料リンクをまとめて確認できます。

電力需給検証とは何か

電力需給検証とは、夏季・冬季の厳気象条件下での最大電力需要に対して、国内10エリアの供給力が十分かどうかを定期的に評価・公表するプロセスである。電力広域的運営推進機関(OCCTO)が事務局を担い、調整力及び需給バランス評価等に関する委員会で年4回(夏季見通し・冬季見通し・夏季実績・冬季実績)審議される 1

評価の基本的な考え方は三点に集約される。①過去10年間で最も厳しい気象条件(猛暑H1、厳寒H1)での最大電力需要を想定する、②地域間連系線を活用して予備率を均平化する、③計画外停止率を考慮した実効的な供給力を算出する——これを満たした上で供給力が最大需要の103%以上(予備率3%以上)を確保できるかを確認する 2


「予備率3%」の背後にある二層の評価構造

現在の供給力評価は、確定論的な予備率評価確率論的なEUE(期待未供給電力量)評価の二層構造で成り立っている 3

予備率評価(確定論的)は、実需給近傍の需給検証で用いられる。夏季・冬季の厳気象時に予備率3%を確保できるか、シーズン前に発電機ごとの最新状況を反映してチェックする実務的な手法だ。

EUE評価(確率論的)は、供給計画(10年計画)の審査や容量市場の目標調達量算定に用いられる。年間8,760時間を通じた「期待される停電量」を計算し、これが目標停電量(年間EUE基準)を超えないかを確認する 4。現行の供給信頼度基準はkWh/kW・年単位で設定されており、2023年に算定誤りの訂正を経て現在の基準値に至っている 5

この二層構造の重要な含意は、「予備率が高くてもEUEが基準超過になる場合がある」という点だ。東京エリアは2025年度供給計画においてH3予備率(補完的確認)が全月で12%を超えながらも、EUE(年間停電量)が目標停電量を超過しており、現在120万kWの公募が実施されている 6


再エネ拡大が変えた「供給力」の定義

太陽光発電の大量導入は、供給力評価の手法そのものを変えた。かつては各電源の「ピーク時の出力」をそのまま供給力に計上していたが、太陽光は昼間しか発電しないため、夕方の点灯帯に移行した需給ひっ迫局面では実効供給力が大きく下がる。そこで2020年度から調整係数を用いた8,760時間ベースの評価が導入され、太陽光・風力・揚水などについて需要との相関を踏まえた実効的な供給力を算出するようになった 7

この方法は2024年度から正式適用されている(開始済み)8。実際、過去の検証データを見ると、夏季の太陽光実績は計上想定(1,942万kW)の2倍超となる4,183万kWを記録した一方、揚水は想定2,315万kWに対して実績1,543万kWと大幅に下振れするケースがあり、電源種ごとの特性差が如実に表れている 8

また、2026年3月の委員会で公表された2026年度夏季の予備率に算定誤りが発覚した。PV(太陽光)の追加供給力を控除せずに重複計上したことが原因で、需給検証ツールの改良とマニュアル整備を含む再発防止策が策定されている(継続検討中)9。これは評価手法の複雑化に伴う実務リスクを示す事例として注目に値する。


現在の需給状況と実績:「余裕あり」の構造的落とし穴

直近の実績を確認すると、2025年度夏季の全国最大需要は16,260万kWで予備率11.3%、2025年度冬季(2025年2月9日)は15,418万kWで予備率8.7%といずれも十分な余裕が確保されている(開始済み)10 11。2026年度夏季見通しも全エリアで3%以上が確保される見込みだ(開始済み)10

しかしこの余裕は中期的に急速に縮小すると考えられる。2026年度供給計画の取りまとめによれば、2025年度だけで602万kWの火力電源が休廃止となり、そのうち266万kWが今回新規に計上された分だ。2026年度は合計371万kWの休廃止が予定されている 12 6。電力需要は逆に2035年度に向けて年0.4%程度の増加傾向にあり、データセンターや半導体工場の新増設が需要を押し上げる見込みだ 6


中長期見通しの「2029年問題」

2026年6月の第119回委員会では、中長期の需給見通しに関する試算が示され、構造的な問題が浮き彫りになった(提案・審議中)13

ベースケース——2026年度供給計画と容量市場約定結果を組み合わせた前提——では、2029年度に東北・東京エリアでH1予備率が3%を下回る見通しとなっている。さらに、容量市場の目標調達量に対して補修計画(年間計画停止可能量)を考慮すると、予備率は1〜4%程度さらに悪化する見込みとされる。

リスクケースとして想定されているのは①経年45年超の火力電源の廃止、②非効率石炭火力の2029年度末廃止——の二つだ。いずれも脱炭素政策の進展に連動した現実的なシナリオであり、実際の廃止動向次第では需給逼迫が前倒しになる可能性がある 13

東京エリアはすでに現時点でEUEが目標停電量を超過しており、OCCTOは120万kWの公募を実施中だ。需要増と供給力縮小の交差点は思ったよりも近くに来ている 6


供給信頼度評価の今後の課題

供給信頼度評価制度それ自体も進化の途上にある。2025年11月の委員会では、再エネ大量導入や地内系統混雑の影響を従来のEUE評価に取り込む手法の検討が議論され、EUEと予備率評価の役割分担の再整理が課題として明示された(継続検討中)14。特に地内系統混雑(エリア内の送電制約)が現行のEUE評価に反映されていない点は、評価の精度を低下させる要因として繰り返し指摘されている 4

また、計画外停止率は3年周期で見直される運用となっており、今後の実績データの蓄積によって必要供給予備力が再算定される可能性がある。火力計画外停止率は過去に2.5%→4.3%へ見直された実績があり、容量市場の目標調達量に連動して影響が及ぶ点も注意が必要だ 15


Key Points·読者別ポイント

発電事業者・容量市場参加者にとっての含意

現時点の予備率が「十分」に見える一方で、EUEは複数エリアで目標超過が続いている。この二つの指標のギャップを正確に読み解くことが、今後の事業判断の起点となる。

重要なのは、容量市場の約定だけでは3%予備率が保証されないという事実だ。容量市場は年間EUEを基準として設計されており、補修計画による停止を加味すると予備率は1〜4%程度悪化する見込みとされている。発電事業者として既存電源の補修計画を適切に管理し、容量市場での約定電力を実際に供出できる体制を維持することが、制度的な義務だけでなく市場の信頼性確保の観点からも不可欠だ。

一方、休廃止を検討している老朽火力については、2029年に向けた逼迫シナリオを踏まえ、市場退出のタイミングが需給に与えるインパクトを慎重に見極める必要がある。経年45年超の火力廃止はリスクケースの主要シナリオとして電力安定供給ワーキンググループで議論されており、廃止届出の時期と容量市場約定の引継ぎ状況によっては、政府・OCCTOとの調整が求められる局面が生じうる。

小売電気事業者・需要家調達担当者にとっての含意

EUEが目標を超えるエリア(東京・九州など)では、容量市場の追加公募が実施される可能性がある。これは市場から供出される供給力の構成変化を意味し、スポット市場価格や相対契約の条件に織り込まれていく。特に東京エリアは数年にわたって目標停電量の超過傾向が指摘されており、調達ポートフォリオの多様化(長期相対・容量市場活用)と、需要応答リソースの開発・登録を通じた供給逼迫リスクへのヘッジを、中期的な戦略として検討するタイミングに入っていると考えられる。

参考文献

  1. 3.
    電力需給検証報告書(案)について
    電力広域的運営推進委員会2025/05/16PDF
  2. 5.
    今後の供給信頼度評価の課題整理について
    電力広域的運営推進委員会2025/11/26PDF
  3. 6.
    電力需給検証報告書(案)について
    電力広域的運営推進委員会2025/10/22PDF
  4. 7.
    中長期の厳気象H1需給時の需給見通しについて
    電力広域的運営推進委員会2026/06/02PDF
  5. 8.
    2026年度供給計画の取りまとめについて
    電力広域的運営推進委員会2026/03/16PDF
  6. 12.
    2025年度供給計画の取りまとめについて
    電力広域的運営推進委員会2025/03/19PDF
  7. 15.
    電力需給検証報告書(案)について
    電力広域的運営推進委員会2026/05/14PDF

本サービスで提供される審議会資料は、各府省庁が公開している情報を公共データ利用規約(PDL1.0)に基づいて利用しています。詳細はデータソースページをご確認ください。

Next Action

容量市場を監視テーマに設定しませんか?

制度変更や関連資料の新着を、出典付きで継続的に確認できます。

容量市場の監視を相談する

関連コラム