アグリゲーターとは何か──分散型エネルギーリソースを束ねる事業者の役割と仕組み
この記事でわかること
- アグリゲーターの定義と、束ねる対象となる分散型エネルギーリソースの範囲
- 需要家・アグリゲーター・小売電気事業者・一般送配電事業者がどう関わり合うか
- 経済DR、容量市場、需給調整市場という提供先ごとの違いと求められる制御の細かさ
アグリゲーターは小さな電力設備を束ねて市場に出す事業者
アグリゲーター(aggregator=集約する者)は、需要家側にある小規模な電力設備を集めて制御し、まとまった電力の価値として取引する事業者です。集約の対象となる設備は分散型エネルギーリソース(DER)と呼ばれ、家庭用蓄電池、EV(電気自動車)の充電器・充放電器、家庭用燃料電池、産業用蓄電池、コージェネレーション(熱と電気を同時に作る自家発電設備)などが含まれます1。
こうした事業の総称は、政策文書では「エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス(ERAB)」と呼ばれ、経済産業省資源エネルギー庁がガイドラインを整備しています2。取引の対象となる価値は二つの方向に分かれます。電気の使用を減らして生み出す余力を「ネガワット」、蓄電池などから電気を出して供給力とするものを「ポジワット」と呼び、アグリゲーターは両方を束ねて小売電気事業者や送配電事業者に市場取引または相対取引で提供します3。
なお実務では、小売電気事業者がアグリゲーターを兼ねる形態が主流とされています3。専業の新規事業者だけが担う仕組みではありません。
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1台では市場に届かない設備を、制度上の取引単位に変える
アグリゲーターが必要とされる理由は、電力市場が求める規模と、需要家側設備の規模が大きく食い違う点にあります。容量市場(将来の供給力をあらかじめ確保する仕組み)では、単独参加は期待容量ベースで1,000kW以上が原則とされ、それを下回る小規模な電源や、安定して供給力を出せない電源は単独では応札できません。こうした設備は複数をアグリゲートし、「発動指令電源」や「変動電源(アグリゲート)」として参加する道が用意されています4。
調整力の分野でも同じ課題がありました。調整力公募では電源は原則ユニット単位の応札が求められ、複数を組み合わせた応札は認められていませんでしたが、蓄電池やコージェネレーションの普及により、複数設備からの逆潮流(設備から系統へ電気を流すこと)を束ねて調整力に使うニーズが拡大したとして、取扱いの見直しが議論されてきました1。
さらに近年は、再生可能エネルギーの大量連系による配電系統の混雑緩和という用途も加わっています。NEDOの実証事業では、一般送配電事業者・アグリゲーター・DERをつなぐシステムを構築し、栃木県那須塩原市で系統混雑の緩和効果が確認されました5。集約は市場参加のためだけでなく、送配電網の運用課題への対応手段としても位置づけられています。
需要家、小売電気事業者、一般送配電事業者との関係
アグリゲーターは単独で機能せず、複数の主体との契約と情報連携の上に成り立ちます。関わる主体と役割は次のとおりです。
- 需要家:蓄電池やEV充電器などの設備を所有し、アグリゲーターの遠隔制御を受けることに同意する主体。制御はクラウド、宅内のゲートウェイ端末、モバイル通信などの経路で行われ、メーカークラウドやHEMS(家庭のエネルギー管理システム)クラウド経由の接続形態があります3。
- 小売電気事業者:需要家に電気を供給している事業者。需要抑制が行われると販売量が変わるため、アグリゲーターとの間で情報共有や精算の取り決めが必要になります。この供給元小売電気事業者との連携方法の標準化は、ガイドライン改定の主要論点の一つでした2。
- 一般送配電事業者:需給調整市場や容量市場を通じて調整力・供給力を調達する側であり、ベースライン(需要抑制がなかった場合の想定需要)の通知先にもなります6。
ネガワット取引の業務フローは、需要抑制計画の作成と小売電気事業者への通知、ベースラインの設定と一般送配電事業者への通知、インバランス(計画と実績の差)の切り分け方法の協議といった手順で整理されています6。三者の間でどう契約を結ぶかについては、確定数量契約スキーム、直接協議スキーム、第三者仲介スキームという選択肢が示され、それぞれ契約関係の簡潔さや匿名性の確保のしやすさが異なります6。
セキュリティ面では、アグリゲーターはERABサイバーセキュリティガイドラインに準拠することが求められ、検討領域には送配電事業者や小売電気事業者も含まれます7。IoT製品側にはセキュリティ要件適合評価およびラベリング制度(JC-STAR)の基準充足が求められる方向が示されています8。
提供先ごとに異なる商品──経済DR、容量市場、需給調整市場
アグリゲーターが束ねたリソースの提供先は一つではありません。家庭用蓄電池を例にした整理では、小売電気事業者向けにkWh・kWを提供する「経済DR」、送配電事業者向けに供給力(kW)を提供する「容量市場(発動指令電源)」、同じく調整力(ΔkW)を提供する「需給調整市場」が主な商品として挙げられています3。EV充電器・充放電器のユースケース整理では、これらに加えて系統混雑緩和や再エネ出力制御の低減(余った電気を使う「上げDR」)も並び、複数のユースケースからの収入を積み重ねる構図が示されています7。
重要なのは、用途ごとに求められる制御の細かさが大きく異なる点です。経済DRや容量市場、再エネ出力制御低減は30分間隔の評価ですが、需給調整市場の三次調整力②は5分、一次調整力(オフライン)は1秒単位の応動が求められます7。家庭用蓄電池についても、経済DRと容量市場は30分間隔の充放電制御で足りるのに対し、二次②では5分間隔の指令値への追従が必要とされています3。ペナルティの有無も、契約に委ねられるものと市場ルールとして課されるものに分かれます7。
このため機器側にも要件が生じます。家庭用蓄電池では、太陽光併設時にネガワットを出しにくいことへの対応としての逆潮流対応、機器個別計測のための特定計量制度対応、一次調整力に対応するための周波数に基づく自端制御などが必要機能として整理されています3。EV充電器では、充電電力情報の取得と充電制御は実装済みでも、SOC(充電率)やプラグ接続情報の取得が未実装であるため対応可能な用途が限られるとされ、段階的な機能追加が提案されています7。
| 比較項目 | 基本的な意味 | 押さえるポイント |
|---|---|---|
| ネガワットとポジワット | 前者は電気の使用を減らして生む余力、後者は蓄電池などから電気を出して供給力とするもの | アグリゲーターは両方を束ねて取引の対象とします3 |
| 経済DRと需給調整市場 | 経済DRは小売電気事業者向けにkWh・kWを提供、需給調整市場は送配電事業者向けに調整力を提供 | 評価間隔は経済DRが30分、需給調整市場は5分や1秒単位まで細かくなります7 |
| 容量市場の単独参加とアグリゲート参加 | 単独は期待容量1,000kW以上が原則、下回る電源は集約して参加 | 発動指令電源や変動電源(アグリゲート)という区分が用意されています4 |
| 受電点計測と機器個別計測 | 前者は受電点から屋内分電盤までの計測、後者は受電点以外での計測 | 合意があればニーズに応じた計測が可能とされ、需給調整市場では2026年度からの導入として整備されています29 |
| 個別ベースラインと群管理ベースライン | 需要家ごとに想定需要を置くか、需要家の集団単位で置くか | 低圧需要家では群管理への期待が示され、誤差基準20%以下の考え方が整理されています210 |
低圧リソースと機器個別計測が広げる現在の適用範囲
アグリゲーションの制度的な枠組みは、対象リソースの小口化に合わせて更新が続いています。ERABガイドラインは2020年6月の改定以降、低圧リソースの活用や機器個別計測に対応する必要が生じ、2025年11月19日に改定内容が取りまとめられました。パブリックコメントには4件の意見が提出され、改定案を維持することが決定されています2。
改定の柱は計測とベースラインの扱いです。計測は受電点から屋内分電盤までを原則としつつ、受電点以外での計測方法(機器個別計測)が追加され、当事者の合意があればニーズに応じた計測が可能とされました2。ベースラインは需要家単位の個別管理が基本ですが、特に低圧需要家では群単位での設定への期待が示されています2。低圧ベースラインの議論では、群管理による作成が推奨され、誤差基準を20%以下とする考え方が示されました10。あわせて、アグリゲーターと供給元小売電気事業者の間の情報共有について、タイミング・手段・フォーマットの三つの観点から課題が整理され、業務フローの具体例を示して負担を軽減する方向が採られています11。
需給調整市場における機器個別計測は、システム改修を経て2026年度から導入されるものとして整備が進められ、特別高圧リソースや1,000kW以上のリソースに関する課題は引き続き検討対象とされています9。一方、需給調整市場そのものは2024年4月の全面運開後も応札不足が続き、2024年度上期には一次調整力で不足率が80%に達したことが報告されており、リソースの拡大が市場側の課題とも重なっています12。
理解を次に深める論点としては、上げDRの収益化のあり方3、要件が未確定とされている系統混雑緩和の商品設計7、そして容量市場でアグリゲーター情報を小規模電源側から探せるようにする一覧整備の運用4が挙げられます。
参考文献
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