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Net CONEが一夜で2倍──容量市場の入札戦略はもう昨年の延長線上にない

2026年度メインオークションの需要曲線原案では、指標価格(Net CONE)が20,911円/kW、上限価格が31,366.5円/kWと算定された 1。前年度(2025年度メインオークション)はNet CONE 10,075円/kW、上限価格 15,112.5円/kW であり 2、需要曲線の価格軸が実質的に倍になった。
29 件参照

この記事でわかること

  • 2026年度メインオークションの需要曲線原案で指標価格(Net CONE)が20,911円/kW、上限価格が31,366.5円/kWと、前年度の約2倍に引き上げられた
  • 発動指令電源は実効性テストで契約容量が475万kWから296万kWまで目減りする例があり、量を張るより実効性達成率を高める戦略が優位になりつつある
  • 容量拠出金は実需給2029年度試算で小売分だけで2兆円を超える見通しで、単年の負担額を所与とせず需要曲線の前提が毎年更新される変数として扱う必要がある

容量市場とは何を売買している市場か

容量市場は、電力量(kWh)ではなく将来の供給力(kW)を取引する市場であり、発電事業者等に容量確保契約金額を支払うことで、必要な供給力をあらかじめ確保する仕組みである 1。実需給年度の4年前に主たる調達を行うメインオークション、その後の需給見直しで不足が生じた場合の追加オークション(調達/リリース)、脱炭素電源の新規投資に20年間の収入を与える長期脱炭素電源オークション(マルチプライス方式)の3層で構成される 23(いずれも開始済み)。

入札戦略の観点で最初に押さえるべきは、メインオークションがシングルプライス方式で、市場分断時には隣接エリアのエリアプライスの1.5倍を上限としてエリア価格が再設定される点である 4(開始済み)。つまり自社の札は「約定するか否か」だけでなく、不足エリアではエリアプライスそのものを決めうる位置に置かれている。

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論点1:需要曲線という「与件」が書き換わった

メインオークションの需要曲線は、①目標調達量、②指標価格(Net CONE)、③上限価格(Net CONEの1.5倍)で規定され、オークション前に公表される 56。過去の推移は以下の通りである。

実施年度(対象実需給年度)Net CONE上限価格目標調達量
2022年度(2026年度)9,557円/kW 7-1億7,830万kW
2023年度(2027年度)9,769円/kW14,653.5円/kW1億8,447万kW 8
2024年度(2028年度)9,875円/kW14,812.5円/kW1億8,616万kW 9
2025年度(2029年度)10,075円/kW15,112.5円/kW1億8,997万kW 10
2026年度(2030年度・原案)20,911円/kW31,366.5円/kW1億9,691万kW 6

2019年時点のNet CONEは9,307円/kW年と算定されており 11、以後は物価補正的な小幅改定が続いてきた。その連続性が今回断ち切られた背景は、モデルプラントの前提見直しである。2025年12月の検討会では、国の審議会(第109回制度検討作業部会)の検討内容を参考にした仮算定として、Net CONE 1.01万円/kW→2.05万円/kW、モデルプラント(CCGT)の設備容量140万kW→60万kW、建設費12.0万円/kW→26.8万円/kWという数値が示されていた 5(当時は提案・審議中)。2026年6月の原案20,911円/kWは、この方向が実際に需要曲線へ反映された結果と読める。

この見直しに至る問題意識も資料に明示されている。包括的検証のCall for Evidenceでは、「Net CONEの物価補正が続いているが従来の実コストとの乖離が生じており価格設定の見直しが必要」「既設電源の維持が困難であり、Net CONE及びその倍数(=上限価格)の見直しが必要」といった発電事業者の意見が寄せられていた 5。指標価格は「実コストの代理変数」であり、それが2倍になったということは、制度側が新設・維持コストの水準認識を切り上げたことを意味すると考えられる。

なお2026年度メインオークションの需要曲線は「2026年7月末に公表予定」とされていた 6(2026-08-10時点で後続資料での確認なし、公表済みの可能性あり)。原案からの微修正は起こりうるため、応札の意思決定は公表版で再確認する必要がある。

論点2:需給がタイト化する局面では、自社の札が価格を作る

需要曲線の上方シフトは、需給の構造変化と同時に起きている。2026年度メインオークションの目標調達量は前年比+694万kWで、その大半は「追加設備量」の増(580万kW→1,228万kW、+648万kW)が占める 6。供給側の実態も厳しい。2026年度供給計画では、2026年度中に休廃止となる火力電源が371万kW(前年度計画では602万kW)、東京エリアは年間EUEが目標停電量を超過し120万kW規模の公募を実施中、2028年度以降は複数エリアで年間EUEが目標停電量を超過する見込みとされている 1213(開始済み・継続検討中)。さらに2026年6月の試算では、2029年度に東北・東京エリアでH1予備率が3%を下回る見通しが示され、経年45年超火力の廃止や非効率石炭の2029年度末廃止をリスクケースとして評価している 14(提案・審議中)。

こうした環境下でのオークション結果の変化はすでに数字に出ている。2024年度メインオークションは、複数の不足エリアが生じ、上限価格以下の電源が全て追加約定され、約定価格は第2回以降で全エリア最高となった。応札状況としてはNet CONEを上回る応札が増加し、非落札電源も増加している 5(開始済み)。エリアプライスの推移も、2021年度メインオークション(実需給2025年度)が北海道・九州5,242円/その他3,495円 15、2023年度(実需給2027年度)が北海道13,287円・東京9,555円・中部7,823円 1、2025年度実施の追加オークション(実需給2026年度)が全エリア8,213〜8,749円で約定総容量830万kW・約定総額582億円 16と、低位張り付きの局面を脱している。

ここが入札戦略上の分岐点である。目標調達量を下回る局面では需要曲線が急峻に立ち上がる設計であるため 17、不足エリアでは限界的な札が価格を決める。一方で、応札価格については価格決定手法の抜本見直しにより従来の逆数入札は廃止され、新たな経過措置と事前監視が導入されている 15(開始済み)。加えて過去のオークションでは、応札価格が指標価格の一定水準以下の場合に控除額が変わる「入札内容に応じた控除」など経過措置が置かれてきた 1819。上限価格が3万円台に上がったからといって、コスト根拠を欠く高値札を自由に置ける制度ではない点は前提として押さえるべきである。

論点3:勝敗を決めるのは「価格×量」ではなく「価格×量×履行リスク」

容量市場の収益は、約定して終わりではなく、実需給期間のリクワイアメント遵守を経て確定する。ここが2025年度包括的検証(2026年3月に検証報告書、2026年3月末頃公表予定 20/2026-08-10時点で後続資料での確認なし、公表済みの可能性あり)を受けて、いま最も動いている領域である。

  • ペナルティの実額は無視できない規模である:2024年度実需給の年次精算では、実需給期間中の経済的ペナルティ総額が約480億円、市場退出時のペナルティが約6.9億円、還元額合計は約484億円に達した 21(開始済み)。
  • 期中運開電源のリクワイアメント按分:計画停止の年間上限8,640コマ(180日相当)やペナルティ月間上限額を運開月に応じて設定する見直しが議論されている 22(提案・審議中)。
  • 運開遅延の扱い:市場退出表明期限までは一部退出を可能とし、期限後の遅延には容量確保契約金額の110%相当のペナルティを新設する方向で検討されている 23(提案・審議中)。新設案件で応札するなら、この論点の着地は投資判断そのものに関わる。
  • 市場退出:確認期限日までは契約単価×容量×5%、期限日以降は10%の経済的ペナルティが適用される 24(開始済み)。
  • 発動指令電源:導入上限は5%(H3需要比)とされ 25、上限超過時には実効性達成率に応じた優先約定が2025年度メインオークションから適用されている 26(開始済み)。実効性テストの影響は大きく、2025年度実需給では応札上限475万kWに対し約定475万kW、実効性テスト反映後の契約容量は296万kWまで減少した 27。
  • 区分選択の自由度:蓄電池は安定電源/発動指令電源のいずれかを選択でき、安定電源選択時の調整係数は揚水と同様に扱われる。また安定電源の契約容量を超える供給力があれば発動指令電源としても応札する「1地点複数応札」が認められている 24(開始済み)。

上限価格が倍になった局面では、期待収入の増加分がペナルティ・履行リスクの増加分を上回るかが判断軸になると考えられる。特に発動指令電源では、枠取り的な過大応札が実効性テストで削られ、優先約定順位にも跳ね返る構造になっている。

費用側で起きていること:拠出金は2兆円規模へ

容量拠出金は、エリア別のH3需要比率に応じて配分され、小売電気事業者の負担総額を12等分して毎月請求される 3(開始済み)。2024年度実需給の請求額実績は総額約1兆5,541億円(うち小売分約1兆4,205億円)21。試算ベースでは実需給2028年度が小売メイン16,935億円+長期脱炭素178億円+一送分1,586億円 28、実需給2029年度は小売メイン20,291億円+長期脱炭素1,023億円+一送分1,890億円と、単年で2兆円を超える水準に達している 3。長期脱炭素電源オークションも第3回で脱炭素電源426.1万kW(4,748億円/年)、LNG専焼火力303.8万kW(1,444億円/年)が約定しており 3、還付後ベースでも拠出金の押し上げ要因が積み上がる。

今後のスケジュールとステータス整理

事項ステータス
2025年度メインオークション(実需給2029年度、Net CONE 10,075円/上限15,112.5円)開始済み(拠出金試算に反映 3)
2026年度メインオークション需要曲線原案(Net CONE 20,911円/上限31,366.5円/目標1億9,691万kW)提案・審議中→7月末公表予定 6(2026-08-10時点で後続資料での確認なし、公表済みの可能性あり)
2025年度包括的検証 検証報告書決定済み(2026年3月末頃公表予定 20、同様に後続確認なし)
期中運開電源のリクワイアメント・ペナルティ按分提案・審議中 22
運開遅延時の110%ペナルティ新設提案・審議中 23
調整不調電源への容量確保契約金額の減額の平準化継続検討中 29
発動指令電源の実効性達成率による優先約定開始済み(2025年度メインオークションから)26

メインオークションの年間サイクルは、6〜7月に需要曲線原案・募集要綱案の意見募集、7月末に募集要綱公表、8月に事業者情報登録、10月中下旬に応札、12月〜翌1月頃に約定結果公表という流れが定着している 26。本稿執筆時点(2026年8月)は、2026年度メインオークションの登録・応札準備の直前期にあたる。

Key Points·読者別ポイント

発電事業者・アグリゲーター(応札価格と退出の判断者)

現状認識として押さえるべきは、需要曲線の価格軸が倍化した一方で、目標調達量も+694万kW増え、2028年度以降は複数エリアでEUEが目標停電量を超過する見通しにあることである 612。これが重要なのは、「上限価格が上がった」と「不足エリアが発生しやすい」が同時に成立すると、限界的な札が高い水準でエリアプライスを決める確率が上がるためである。2024年度メインオークションで既に、Net CONE超えの応札が増える一方で非落札も増えるという二極化が観測されている 5。

考え方としては、①自社設備の維持コスト・改修コストを新しいNet CONE(20,911円/kW)との相対で棚卸しし、旧Net CONE水準を前提に「この価格では出せない」と判断してきた案件を再評価する、②同時に、逆数入札廃止後の事前監視下にあること 15を踏まえ、価格根拠を説明可能な形で整備する、という二段構えが現実的だろう。加えて、期中運開・運開遅延・調整不調に関するペナルティの見直しが同時進行で議論されているため 222329、新設・大規模改修を伴う案件では「約定価格の上振れ」と「履行不能時の下振れ」を同一の損益モデルで扱う必要がある。DR・蓄電池については、安定電源/発動指令電源の区分選択と1地点複数応札 24、および実効性テストによる契約容量の目減り実績(475万kW→296万kW)27を踏まえ、量を張るより実効性達成率を高めて優先約定順位を確保する戦略が相対的に有利になると考えられる。

小売電気事業者(拠出金を織り込む価格企画・調達担当)

現状認識は、拠出金が実需給2024年度の実績約1兆5,541億円 21から、実需給2029年度試算で小売分だけで2兆円超 3へ増える軌道に乗っていること、そしてNet CONE倍化が反映される実需給2030年度分はさらに上振れる余地があることである。これが重要なのは、拠出金がH3需要比で按分され12等分請求される固定費的コストであり 3、販売量の増減とタイミングがずれた形で損益に効くためである。

考え方としては、①2030年度断面までの拠出金レンジを、Net CONEと目標調達量から複数シナリオで先に置いてしまう(上限価格31,366.5円/kWは理論上の天井であり、エリア別の不足発生が想定される北海道・東北・東京・九州のリスクを厚めに見る)、②その負担を長期契約・料金条項へどう配分するかを、需給ひっ迫リスク(2029年度に東北・東京でH1予備率3%割れの試算 14)とセットで設計する、という順序が実務的である。包括的検証のCall for Evidenceでは小売側から「Net CONEを電源別に設定して新設の経済性を促すべき」といった意見も出ており 5、指標価格の設計論は今後も動く継続検討事項である。単年の拠出金額を所与とせず、需要曲線の前提が毎年更新される変数であることを前提にした価格設計が求められる。

参考文献

  1. 6.
    需要曲線(Net CONE、上限価格等) の設定について
    電力広域的運営推進委員会2018/11/20PDF
  2. 8.
  3. 10.
    容量市場について
    電力広域的運営推進委員会2021/12/24PDF
  4. 11.
    発動指令電源の扱いについて
    電力広域的運営推進委員会2024/06/27PDF
  5. 14.
    新設電源の運開遅延における扱いについて
    電力広域的運営推進委員会2026/05/27PDF
  6. 16.
    約定処理の概要について
    電力広域的運営推進委員会2020/01/31PDF
  7. 18.
    中長期の厳気象H1需給時の需給見通しについて
    電力広域的運営推進委員会2026/06/02PDF
  8. 19.
  9. 20.
    2026年度供給計画の取りまとめについて
    電力広域的運営推進委員会2026/03/16PDF
  10. 25.
    2025年度供給計画の取りまとめについて
    電力広域的運営推進委員会2025/03/19PDF
  11. 26.
    発電側基本料金の容量市場での扱いについて
    電力広域的運営推進委員会2019/11/19PDF
  12. 29.
    容量拠出金の年次精算について
    電力広域的運営推進委員会2025/12/18PDF

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