容量市場の全体像と入札戦略——オークション設計を理解して初めて「稼げる」市場になる
2020年度に始まった容量市場では、2024年度(実需給2028年度)のメインオークションの全国合計容量拠出金が一般送配電事業者・小売電気事業者合計で約**1兆8,521億円**規模に達している [DOC:18d50bc3-cad8-43f1-9cc4-d3995d14b30e]。この市場は単なる補助金制度ではなく、入札設計・電源区分の選択・リクワイアメント管理が収支に直結する「本物の市場」である。仕組みを正確に理解しないまま参加すれば、経済的ペナルティがそのまま収益を吹き飛ばしかねない。
容量市場とは何か——kWhではなくkWを売る市場
容量市場とは、電力量(kWh)ではなく将来の供給力(kW)そのものを取引する市場である 1。発電事業者は「実需給年度に一定の供給力を提供できる能力」を売り、その対価として「容量確保契約金額」を受け取る。買い側は電力広域的運営推進機関(OCCTO)が運営する仕組みで、最終的な費用は小売電気事業者および一般送配電事業者が容量拠出金として負担し、消費者の電気料金に転嫁される。
この市場が設けられた背景は、卸電力市場の価格だけでは発電設備への投資を誘因するには不十分であるという問題意識にある。電源投資には数十年単位の長期的ビジョンが必要である一方、市場価格は短期的な燃料費や需給状況に左右されるため、収入の予見可能性が低い 2。容量市場はその「kWの価値」を金銭化することで、電源維持・投資を制度的に担保しようとするものだ。
オークションの構造——4種類のオークションと価格決定の仕組み
メインオークション(最重要)
メインオークションは実需給年度の4年前に開催され、毎年1回実施される 3。年間の目標調達量は約1億8千万kW規模に設定されており 4、シングルプライスオークション方式(全国一価・均衡点で全落札者が同一価格を受け取る方式)を基本とする 5。
約定処理の流れは以下のとおりである 5:
- 全国の需要曲線(目標調達量×指標価格のNeCoNE想定)と供給曲線(応札価格の安い順)を作成
- 全国交点で約定量・約定価格を決定
- エリア別の供給信頼度を計算し、不足エリアと過剰エリアを識別
- 不足エリアには安い電源を追加し、過剰エリアは高い電源から削減(これが「市場分断」)
- 分断が生じたエリアにはエリアプライス(全国約定価格と異なる価格)を設定
この市場分断の結果、北海道・九州のような連系線に制約があるエリアでは全国水準を大幅に上回るプライスが形成される。2023年度メインオークション(実需給2027年度)では、北海道エリアプライスが13,287円/kWと全国の東京エリア(9,555円/kW)の約1.4倍に達した 6。市場分断発生時には、隣接エリアのエリアプライスの1.5倍が価格上限となる 5。
追加オークション(実需給1年前の補完調達)
メインオークション後に供給信頼度が不足すると判断された場合に開催される補完的なオークションである 7。2025年度向け追加オークション(2024年度実施)では、約定総容量は133万kW、約定総額は105億円 8、2026年度向けでは約定総容量830万kW、約定総額582億円にのぼった 9。追加オークションは規模は小さいが、供給不足エリアでは全国水準を大きく上回る高価格での約定が期待できる。
長期脱炭素電源オークション(20年間の安定収入)
容量市場の「特別版」として2023年度に開始されたオークション。脱炭素電源の新規投資を促進することを目的とし、マルチプライス方式(自分の入札価格が落札価格になる=収入が個社ごとに異なる)を採用しており、落札電源は原則20年間の容量収入を確保できる 2。第3回オークション(2025年度応札)では、脱炭素電源で426.1万kW、LNG専焼火力で303.8万kWが約定している 10。
なお、落札事業者は卸・相対市場等の他市場収益の約90%をOCCTOに還付する義務があり、これが「実質的な収益」を左右する重要な設計上の特徴となっている(開始済み・監視強化中) 11。
電源区分と入札戦略の核心
電源区分の選択が収益を左右する
容量市場への参加時、電源は以下の区分から選択する必要がある 6:
| 区分 | 主な対象 | 特徴 |
|---|---|---|
| 安定電源 | 火力・原子力・一般水力など | 年間を通じた供給力提供が求められる |
| 変動電源(単独) | 太陽光・風力など | 調整係数が適用され評価容量が変動 |
| 変動電源(アグリゲート) | DRアグリゲート | 複数リソースの束での参加 |
| 発動指令電源 | DR・自家発等 | 1MW未満の単体を1MW超に束ねて参加。指令があった場合のみ供給力を提供 |
蓄電池は安定電源・発動指令電源のいずれかを選択でき、安定電源選択時の調整係数は揚水(水質)と同様の扱いとなる 12。また、1地点複数応札の仕組みにより、安定電源として契約容量を超えた供給力を提供可能な場合は、その超過分を発動指令電源として同一地点から追加応札することも認められている 12。
メインオークションの入札戦略
メインオークションはシングルプライス方式のため、約定価格を予想したうえでその価格に近い水準に入札する「真の評価値での入札」が理論的に合理的な戦略となる。
ただし、いくつかの実務的な考慮事項がある:
①応札価格と期待容量の整合性:応札容量(期待容量)は設備容量から補機需要等を差し引いた値であり、これを過大に申告しリクワイアメントを達成できないと経済的ペナルティが発生する。応札容量の精度が収益管理の基礎となる。
②エリアプライスの読み方:自社電源の所在エリアで市場分断が発生しそうかを見極めることが重要である。北海道・九州など連系線制約が強いエリアでは、全国水準を大きく上回る高値が継続して形成されており(北海道は複数年にわたり全国の1.4〜1.5倍)、こうしたエリアへの投資判断や入札価格の設定において有利なポジションにある。
③発動指令電源の調整係数:発動指令電源の導入上限はH3需要の5%に設定されており 13、この上限を超える見込みがある場合は調整係数が事後的に算定されて実質的な契約容量が圧縮される 1。DRアグリゲーターは発動指令電源の市場全体での競合状況を把握したうえで入札量を設定する必要がある。
リクワイアメントとペナルティ——契約後の義務管理
落札後は容量確保契約が成立し、実需給年度を通じてリクワイアメントを遵守する義務が生じる。主要な義務として、安定電源・変動電源については年間8,640コマ(180日相当)を上限とする計画停止管理が求められる 14。
経済的ペナルティは、市場退出の時期によって異なる:確認期限日までの退出は「契約容量×契約単価×5%」、確認期限日以降では「×10%」となる 12。2024年度の実需給においては、容量拠出金の総額約1.55兆円に対して経済的ペナルティの回収総額が約484億円に達しており 15、リクワイアメント未達は市場全体でも相当規模で発生している。
年度途中に運開する新設電源(期中運開電源)については、2026年3月の検討会で「運開前の期間はリクワイアメント対象外とし、ペナルティレート・月間上限額を運開月に応じて設定する」方向での制度見直しが審議されている(提案・審議中)14。また、新設電源の運開遅延に対するペナルティとして、市場退出表明期限後の遅延では容量確保契約金額の110%相当のペナルティを新設する方向での検討も行われている(提案・審議中)16。
制度の現在地と今後——2025年度包括的検証が示す変化の予兆
2025年7月に「2025年度包括的検証」が開始された(開始済み)4。この検証は①制度主旨の再確認(中長期的な供給力確保・投資予見性)、②現在の仕組みの再確認(需要曲線指標価格の適切性・リクワイアメント強度)、③市場運営の効率化という3つの観点から実施され、英国の「Call for evidence」を参考にした関係者からの幅広い意見収集が行われている。2021年以降エリアプライスの上昇傾向が続いており、需要曲線・指標価格の見直し可能性を含む議論の結果が今後の収益水準に直結する。
長期脱炭素電源オークションについては、次回(第4回)に向けてCCS付き火力の対象追加・長期エネルギー貯蔵システム(LDES)の組み込みが検討されており(継続検討中)17、第7次エネルギー基本計画の内容を反映した制度設計が進行中である 17。
発電事業者・既存電源を持つ事業者
現在の市場の本質的な問いは「自社電源のエリアプライスプレミアムを適切に収益に換算できているか」である。
約定価格の水準自体はシングルプライスオークションである以上、全国水準に支配される。しかし、北海道・九州等のボトルネックエリアでは市場分断によって高いエリアプライスが安定的に形成されており、同じ設備でもエリアによって年間収益が数倍異なる可能性がある。自社電源のエリア特性を正確に評価し、これを電源維持・投資撤退判断に反映することが重要だ。
また、2025年度包括的検証で需要曲線・指標価格(Net CONE)の妥当性が再検討される可能性がある。現状は「エリアプライス上昇傾向」にある一方、制度設計が変われば水準が調整される可能性もある。2028年度以降の設備維持計画を立てるにあたっては、現行の価格水準が既定事実ではないことを前提に、複数シナリオで収益計算を行うべき局面に入っている。
リクワイアメント管理については、年次精算での経済的ペナルティが全市場合計で484億円(2024年実績)という規模感を把握し、自社の計画停止コマ管理・実効性テスト対応を適切に行うことが、約定した収益を守るうえで不可欠な実務課題となっている。
新規参入・DRアグリゲーター事業者
長期脱炭素電源オークションは「マルチプライスで20年間収益を確定できる」という特徴から、投資回収計算が比較的立てやすい制度設計になっている。落札率は第2回で蓄電池が20%、揚水が42%、原子力が73%と電源種別で大きく異なっており 17、競合状況が電源種別で異なることを示している。マルチプライス方式では自社の真のコストに基づく入札が正当な戦略であり、過剰な値下げは収益を毀損する。他市場収益の約90%還付義務を踏まえ、「容量収入+他市場収益からの純収益」の合計で事業計画を構築することが必要となる。
DRアグリゲーターにとっては、発動指令電源の導入上限(H3需要の5%)と実効性テストの達成率が収益の天井を決める。実効性達成率に基づく優先約定の評価基準導入が検討されており 18、参加実績の積み上げそのものが将来の競争力となる。まず小規模でも参加してリクワイアメント管理のノウハウを内製化することが、この市場での中長期的なポジション確立につながる。
参考文献
- 1.容量市場の2025年度包括的検証について, 電力広域的運営推進委員会, https://www.occto.or.jp/iinkai/youryou/kentoukai/2025/files/youryou_kentoukai_66_03.pdf
- 2.長期脱炭素電源オークション約定結果(応札年度:2024年度)および次回オークションに向けて, 電力広域的運営推進委員会, https://www.occto.or.jp/iinkai/youryou/kentoukai/2025/files/youryou_kentoukai_64_03.pdf
- 3.[容量市場 追加オークション約定結果 (対象実需給年度:2026年度)], 電力広域的運営推進委員会, https://www.occto.or.jp/iinkai/youryou/kentoukai/2025/files/youryou_kentoukai_67_03.pdf
- 4.発動指令電源の扱いについて, 電力広域的運営推進委員会, https://www.occto.or.jp/iinkai/youryou/kentoukai/2024/files/youryou_kentoukai_56_04.pdf
- 5.長期脱炭素電源オークション約定結果(応札年度:2025年度)および次回オークションに向けて, 電力広域的運営推進委員会, https://www.occto.or.jp/assets/iinkai/youryou_kentoukai/73/youryou_kentoukai_73_03.pdf
- 6.新設電源の運開遅延における扱いについて, 電力広域的運営推進委員会, https://www.occto.or.jp/assets/iinkai/youryou_kentoukai/73/youryou_kentoukai_73_05.pdf
- 7.2024年度追加オークションの募集要綱の概要およびスケジュールについて(対象実需年度:2025年度), 電力広域的運営推進委員会, https://www.occto.or.jp/iinkai/youryou/kentoukai/2023/files/youryou_kentoukai_51_03.pdf
- 8.メインオークションの開催に向けた状況の報告 (オークション応札までの手順等), 電力広域的運営推進委員会, https://www.occto.or.jp/iinkai/youryou/kentoukai/2023/files/youryou_kentoukai_47_03.pdf
- 9.約定処理の概要について, 電力広域的運営推進委員会, https://www.occto.or.jp/assets/iinkai/youryou/kentoukai/2019/files/youryou_kentoukai_23_05.pdf
- 10.容量市場メインオークション約定結果 (対象実需年度:2026年度), 電力広域的運営推進委員会, https://www.occto.or.jp/iinkai/youryou/kentoukai/2022/files/youryou_kentoukai_43_03.pdf
- 11.容量市場メインオークション約定結果 (対象実需給年度:2027年度), 電力広域的運営推進委員会, https://www.occto.or.jp/iinkai/youryou/kentoukai/2023/files/youryou_kentoukai_53_03.pdf
- 12.長期脱炭素電源オークションにおける他市場収益の監視の在り方に関する検討会 とりまとめ, 電力・ガス取引監視等委員会, https://www.egc.meti.go.jp/activity/emsc_systemsurveillance/pdf/015_05_01.pdf
- 13.2024年度以降のメインオークションに向けて(調整力設備量の確認、発動指令電源の扱い), 電力広域的運営推進委員会, https://www.occto.or.jp/iinkai/youryou/kentoukai/2024/files/youryou_kentoukai_55_04.pdf
- 14.長期脱炭素電源オークションの開始に向けて:オークションの概要と進め方など, 電力広域的運営推進委員会, https://www.occto.or.jp/iinkai/youryou/kentoukai/2023/files/youryou_kentoukai_46_04.pdf
- 15.年度途中に運用する電源のリクワイアメント等の扱いについて, 電力広域的運営推進委員会, https://www.occto.or.jp/assets/iinkai/youryou_kentoukai/72/youryou_kentoukai_72_06.pdf
- 16.追加オークションについて, 電力広域的運営推進委員会, https://www.occto.or.jp/iinkai/youryou/kentoukai/2021/files/youryou_kentoukai_36_05.pdf
- 17.容量市場 追加オークション約定結果 (対象実需年度:2025年度), 電力広域的運営推進委員会, https://www.occto.or.jp/iinkai/youryou/kentoukai/2024/files/youryou_kentoukai_57_03.pdf
- 18.容量拠出金の年次精算について, 電力広域的運営推進委員会, https://www.occto.or.jp/assets/iinkai/youryou_kentoukai/70/youryou_kentoukai_70_05.pdf
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