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先物がスポットの7割に達した日──電力ヘッジの主戦場はどこか

2026年度向けの卸売では、四国エリアを除くすべての評価対象エリアで常時バックアップの休止が決まった(決定済み)1。同時に、電力先物の四半期約定量は2025年10〜12月期に471.1億kWhへ達し、同期のスポット市場約定量680億kWhの約7割の規模になっている 2。中長期の価格リスクをどこで処理するか、という問いの答えが実務上すでに移動している。
14 件参照

この記事でわかること

  • 電力先物の四半期約定量は2025年10〜12月期に471.1億kWhへ達し、同期のスポット市場約定量の約7割に相当する規模までヘッジの主戦場が移った
  • 上場エリアは長く東京・関西中心で、価格変動が大きい北海道など他エリアには対応する先物商品がなく、エリア間スプレッドがヘッジしきれない残存リスクとして残る
  • 2026年度向けに四国を除く全エリアで常時バックアップが休止され、新電力の中長期調達は「相対卸か先物か」の二択に実質収斂した

電力先物とは何か

電力先物とは、将来の一定期間・一定エリアの電力価格をあらかじめ約定しておく取引であり、現物の受渡を目的とするスポット市場とは別の市場として制度上整理されている。日本の電力を対象とする先物は、国内のTOCOM(東京商品取引所)と国外のEEX(European Energy Exchange)に上場されている(開始済み)2。商品はベースロード・日中ロード(TOCOM)、ベースロード・ピークロード(EEX)といった時間帯区分とエリアの組み合わせで構成される 3

重要なのは、先物価格が現物のスポット価格に紐づくために、現物市場での取引を使って先物価格を動かす「市場間相場操縦」が監視上の論点として整理されている点である 2。つまり先物は現物市場と切り離された金融商品ではなく、スポット価格形成の健全性と一体で評価すべき市場である。

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数字で見る現在地:ヘッジの主戦場はすでに先物にある

先物市場の拡大は直線的ではないが、水準は明確に変わった。

期間先物約定量前年同期比出典
2025年1〜3月期371.8億kWh2.2倍4
2025年4〜6月期393.0億kWh4.5倍5
2025年7〜9月期300.2億kWh1.5倍6
2025年10〜12月期471.1億kWh2.0倍7

2025年10〜12月期の内訳はTOCOMが約6.2億kWh(2.1倍)、EEXが約464.9億kWh(2.0倍)であり、取引参加者数は119社(2025年12月時点)に達している 7。取引の圧倒的多数がEEXに集中している構造は以前からの傾向で、2022年10月時点の参加者数はTOCOM158社・EEX48社と国内取引所の方が多かったにもかかわらず、取引高はEEXが上回っていた 2参加者数と取引高の乖離は、実際に大口のヘッジを回している主体が限られた層に集中していることを示唆すると考えられる。

対照的なのが、取引所の現物中長期市場である先渡市場である。2024年7〜9月期の先渡市場の約定実績は200MWh(関西エリアの24時間型・週間)にとどまり、これは前年6月以来の実績だったとされる。同期の売り入札量は45万MWh超あったにもかかわらず約定がほぼ成立していない 3中長期のヘッジ機能は、制度として用意された先渡市場ではなく、取引所外に上場された先物に事実上移管されたと評価できる。

この構図は、2018年の制度設計専門会合が「スポット市場の流動性は向上したが中長期市場の育成が課題」とし、Ofgemの流動性目標(ヘッジ支援、参照価格の提供、実効的な短期市場)を引きながら中期的な卸電力市場政策を論じていた時点からの、実務側の回答でもある 8

エリアの空白──ヘッジしたい場所ほど商品がない

先物を実務に組み込むとき、最大の制約はエリアカバレッジである。上場エリアは長く東京・関西が中心で、EEXでは2025年12月から中部エリアの商品が追加された(開始済み)7。裏を返せば、それ以外のエリアには直接対応する先物商品が存在しない。

一方、価格変動は全国一様ではない。2026年3月時点の整理では、東京-中部間の年平均市場分断率は45.0%、中部-北陸間28.3%、北海道-東北間29.0%と高水準にあり、市場分断が構造化している 9。2025年10〜12月期も東京-中部間・中部-関西間が40%台、北海道-本州間・東北-東京間が30%台で推移した 7。さらに2025年7〜9月期には、北海道エリアで30円/kWh以上の高騰が14日間・計69コマ発生し、その要因として供給力の減少(8月640MW、9月550MW)と北海道-本州間連系線の運用容量低下が挙げられている 6

つまり、エリアプライスの上振れリスクが最も大きいエリアほど、先物によるヘッジ手段が存在しない。東京・関西・中部の先物でシステムプライス相当のリスクをヘッジしても、分断が常態化しているエリアの需要を抱えていれば、エリア間スプレッドがそのまま残存リスクとして手元に残る。ヘッジ比率を「調達量の何%を先物で固定したか」だけで管理している事業者は、この残差を過小評価している可能性がある。

調達構造の転換:常時バックアップの休止と相対卸の複線化

先物の重要度が上がっている背景には、相対調達側の変化がある。2026年度向けの評価では、北海道・北陸・関西・中国・九州・沖縄で常時バックアップが休止となり、実施予定は四国エリアのみとされた(決定済み。2026-08-10時点で実施状況を確認する後続資料は見当たらず、開始済みの可能性が高い)10

代わりに、旧一電等の相対卸メニューは複線化している。JERAグローバルマーケッツは2026〜2028年度の3期間を対象に、東京・中部エリアのベース/ピーク商品を燃料フォーミュラ付きで販売(2025年10月28日販売開始)、関西電力はロードカーブ型の2部料金制商品、中国電力はベース・ミドル・通告型α/βの4メニュー、九州電力は相対交渉に加えて入札方式を導入している 10。各社の2026年度卸売予定量に社内・グループ内小売向け確保分は「なし」とされており、東京電力グループでは予定量の約10割、九州電力では約9割超が外部向けとされる 10

ここから読み取れる実務上の意味は明確である。「制度で保証された安価な卸(常時BU)」という前提が外れ、価格リスクの引き受け方そのものを事業者が設計する局面に入った。燃料フォーミュラ型の相対契約は燃料価格リスクを一定程度転嫁する仕組みだが、卸価格の水準リスクとスポット価格の変動リスクの両方をカバーするわけではない。相対卸で数量とロードカーブを押さえ、先物で価格水準を固定し、残るエリアスプレッドと形状リスクをスポット・時間前で吸収する、という三層構造をどう組むかが調達設計の中心論点になる。

監視制度の非対称性という残された論点

先物市場の拡大に対し、監視の枠組みは追いついていない部分がある。2022年12月の整理では、①国内取引所(TOCOM)からは商品取引所経由で情報取得が可能、②国外取引所(EEX)は国内法が適用されないためEEXとのMoUに基づく情報提供が計画される、③取引所外(OTC)取引は一元的に把握する機関が存在せず事業者からの報告徴収が必要、とされ、取引量が多い事業者等に不定期の報告徴収を求める方法が提案された(提案・審議中。2026-08-10時点で、この報告徴収の運用実績を示す後続資料は確認できていない)2

取引の大半が国外取引所に集中しているにもかかわらず、監視の直接的な手当ては国内取引所に厚いという非対称は、市場参加者にとって二つの意味を持つ。第一に、価格指標としての先物価格の信頼性は、参照される現物市場(スポット)の健全性に強く依存する。第二に、その現物市場では、JERAが2019年4月〜2023年10月に合計約54億kWhを未供出とし、約定価格の押し上げに寄与したとして2024年12月27日から2025年12月26日までの集中改善期間が設定され、2026年度末まで定期報告が継続される予定である 11。卸電力市場の取引量は2016年度から2023年度で約10倍、参加者数は96社から234社へ増加しており、監視ルールの更新とJEPXの監視機能強化が中期方針として検討されている(継続検討中)12

今後:同時市場が価格形成をどう変えるか

より長い時間軸では、同時市場の導入検討が先物のヘッジ設計にも影響し得る。検討会は第1フェーズの詳細業務設計を2026年7月から2027年3月にかけて進める予定であり、論点は11項目に整理されている(継続検討中)13。同時市場ではkWhとΔkWを同時に約定させる設計が議論されており、発電費用の取り漏れ等を補填するアップリフトの規模はkWh年間取引総額の1.8%程度(年間5兆円なら約900億円)と試算されている 14

現時点で断定はできないが、前日市場の価格算定方式が変われば、先物が参照する現物価格の性質そのものが変わり、既存のヘッジ有効性の前提が揺らぐ可能性があると考えられる。数年物の先物・相対契約を結ぶ際は、参照価格の定義変更に関する条項の扱いを意識しておく実務的な意味がある。

Key Points·読者別ポイント

新電力の電源調達・リスク管理担当者へ

現状認識として押さえるべきは、中長期ヘッジの選択肢が「相対卸か、先物か」の二択に収斂したことである。取引所の先渡市場は四半期で200MWh規模の約定にとどまり 3、常時バックアップは四国以外で休止した 10。これが重要なのは、これまで「制度が用意した安全網」で吸収できていた価格リスクが、そのまま自社のバランスシート上のリスクとして顕在化するからである。

したがって、問うべきは「先物を使うべきか」ではなく「自社のリスクのうち、先物で消せる部分はどこまでか」である。供給エリアが東京・関西・中部に集中しているなら先物のカバレッジは高く、それ以外のエリアが主力なら、エリアプライスと参照価格のスプレッドが残存リスクとして残る。東京-中部45.0%、北海道-東北29.0%という年平均分断率 9 は、この残差が小さくないことを示している。ヘッジ比率の管理指標を「量ベース」から「エリア別・時間帯別の残存エクスポージャー」に組み替えることが、事業計画書に記載するリスク管理の実質化 1 にも直結する。

発電・卸売側で収益の変動幅を抑えたい事業者へ

売り手側から見ると、相対卸メニューの多様化(燃料フォーミュラ付き複数年商品、ロードカーブ型、通告型、入札方式)10 は、価格リスクの引き受け方を商品設計で差別化できる局面が来たことを意味する。同時に、内外無差別の評価では一部エリア(東京・中部)で既存の長期契約により無差別性が担保されていないと指摘されており 10、長期の相対でリスクを固定する余地は制度側から制約を受け得る。

その前提に立てば、相対契約でヘッジしきれない部分を先物で管理する発想が、売り手側にも同様に必要になる。特に、複数年契約の販売価格を先に固定した場合、燃料調達と発電量の変動が収益に直結する。先物の建玉は会計・与信・証拠金管理の体制を伴うため、トレーディング機能を内製するか外部に委託するかは、価格リスクの引き受け量に見合った投資判断として整理すべき論点である。あわせて、先物価格の信頼性がスポット市場の健全性に依存する以上、誤入札・未供出事案への監視強化 11 や監視機能の中期方針 12 の帰趨は、自社の入札実務の統制水準を測る基準としても見ておく価値がある。

参考文献

  1. 2.
    市場間相場操縦の監視について
    電力・ガス取引監視等委員会2022/12/22PDF
  2. 3.
    内外無差別な卸売の実施に向けた 取組状況について
    電力・ガス取引監視等委員会2025/11/21PDF
  3. 8.
    小売電気事業者に関する今後の対応について
    電力・ガス取引監視等委員会2023/07/28PDF
  4. 9.
    スポット市場における不適切入札の振り返り
    電力・ガス取引監視等委員会2025/12/26PDF

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