インバランスとは何か──計画と実績のズレを精算する仕組みと料金制度の基礎
この記事でわかること
- インバランスが「計画値と実績値の差」であり、なぜ料金として精算されるのか
- 計画値同時同量制度のもとで、小売電気事業者・発電事業者・一般送配電事業者がそれぞれ担う役割
- 補正インバランス料金のC値・D値や累積価格閾値制度といった主要な構成要素の意味
インバランスは計画値と実績値の差を指す言葉
電気は貯めておくことが難しく、需要と供給を常に一致させなければ周波数が乱れて停電につながります。そのため日本の電力システムでは、小売電気事業者や発電事業者が実際の需給(実需給)に先立って、30分ごとの発電計画・需要計画を提出し、その計画どおりに動かすことを求められます。これが計画値同時同量制度です。
しかし気温の急変で需要が想定を超えたり、太陽光発電の出力が予測を外れたり、火力発電機が計画外に停止したりすれば、計画値と実績値は必ずずれます。この差分がインバランスです。
インバランスが生じた瞬間、電力系統全体では供給が不足または過剰になります。そのギャップを埋めるのは、送配電網の需給運用を担う一般送配電事業者です。一般送配電事業者はあらかじめ確保した調整力(出力を上下できる発電機や蓄電池、需要を減らすDRなど)を動かして周波数を維持します。その費用は本来、計画からずれた事業者が負うべきものであり、事後に単価をかけて精算します。この単価がインバランス料金です。
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インバランス料金が「実需給時の電気の価値」を映す理由
インバランス料金には二つの目的があります。第一に、一般送配電事業者が調整力を動かすために要した費用を、原因者に負担させることです。第二に、事業者が計画値を実績に近づけるよう促すことです。
この二つを満たすため、料金水準は実需給の時点における電気の価値を反映し、卸電力市場の価格や需給調整のコストを基礎に算定される設計が採られてきました1。実務上の算定には、スポット市場価格や時間前市場価格、需給調整に要した費用などが用いられます2。近年は、需給状況に応じて動いた調整力の限界的な価格に基づく算定方法が用いられています3。
つまり、インバランス料金は罰金ではなく、実際に発生した調整コストを価格として映す仕組みです。市場価格が安いときにインバランスを出した場合の単価は低く、需給がひっ迫して調整コストが跳ね上がった局面では単価も大きく上昇します。2020年6月21日には20.0円〜44.7円/kWhへ急上昇した事例が報告されており2、2024年1月7日には北海道エリアで200円/kWhに達した事例もあります4。
BGを単位に関わる小売・発電・一般送配電の三者
インバランスは事業者ごとにばらばらに計算されるのではなく、バランシンググループ(BG)という計画提出の単位で管理されます。BGは複数の事業者が共同で需給計画を提出し、過不足を相互に打ち消し合う枠組みで、代表契約者が計画提出とインバランス精算の窓口となります。揚水発電のように、2024年度からBGが運用主体となり自ら揚水用の電気を調達する整理がなされた設備もあり、BGは需給運用の実体を伴う単位です5。
関与する主体と役割は次のとおりです。
- 小売電気事業者:担当需要家の需要を予測し、卸電力取引市場や自社電源から必要量を調達して需要計画を提出します。調達手段が限られる新規参入者では、インバランスの影響が相対的に大きくなるとの指摘があります6。
- 発電事業者:発電計画を提出し、計画どおりの出力を維持します。
- 一般送配電事業者:調整力を確保・起動して周波数を維持し、インバランスを精算します。発電・小売との兼業は原則禁止され、中立性が制度的に担保されています7。
精算の結果として生じるインバランス収支は一般送配電事業者に集約され、その適切さは監視の対象です。2022年度は144億円、2023年度は94億円の赤字が見込まれるなど収支の悪化が課題となり8、収支計算書の監査も求められてきました4。
通常時の料金と需給ひっ迫時の補正インバランス料金
インバランス料金は一律ではなく、需給の余裕度に応じて水準が切り替わる構造を持ちます。通常時は市場価格を基礎とした水準ですが、供給余力が細ってくると補正インバランス料金が適用され、需給ひっ迫を反映した高い単価になります。この切替の判定に使われるのが、供給余力を示す補正料金算定インデックスです9。
補正インバランス料金の水準を決めるのが、C値とD値と呼ばれる二つのパラメータです。
- C値:需給ひっ迫が極まった局面で適用される上限側の水準で、緊急時に供給力を確保するためのコストを表します6。制度上の原則値は600円/kWhとされる一方、2022年度から2023年度は暫定的に200円/kWhとされてきました10。
- D値:追加的な供給力対策に要するコストを反映する水準で、全国平均で45円/kWhと設定されてきました10。
水準の設定は容易ではありません。C値を高くすれば発電事業者やDR事業者が供給力を出す誘因は強まりますが11、同時に小売電気事業者のリスクが過大となり、事業撤退や金融機関の融資姿勢の厳格化を通じて競争が縮小する懸念も示されてきました12。専門会合では、C値引き上げによる社会的な不利益も踏まえて最適水準を見極めるべきとの意見が出されています13。
| 比較項目 | 基本的な意味 | 押さえるポイント |
|---|---|---|
| 計画値同時同量 | 事前に提出した30分ごとの発電・需要計画どおりに運用することを求める制度 | インバランスは違反ではなく、この制度の下で必然的に生じる差分として精算されます |
| インバランス料金 | 計画値と実績値の差に適用される精算単価 | 実需給時の電気の価値と調整コストを反映し、市場価格に連動して変動します |
| 補正インバランス料金(C値・D値) | 需給ひっ迫時に適用される上乗せ水準。2025年の審議ではC値300円/kWh、D値50円/kWhへ見直す方針が示されました | 引用資料では2026年4月の開始予定まで確認できますが、開始後の運用実績は本稿の資料範囲に含まれません |
| 累積価格閾値制度 | 直前7日間で200円/kWh以上が30コマに達した場合に上限を100円/kWhへ引き下げる設計案 | 高値の長期化による負担の累積を抑える緩和措置との位置づけです |
| バランシンググループ(BG) | 複数事業者が共同で計画を提出しインバランスを精算する単位 | 個社ではなくBG単位で過不足が相殺されるのが精算の基本的な前提です |
2025年の審議で示されたC値・D値の見直し方針
暫定措置の解除に向けた議論は、2024年9月から2025年6月にかけて制度設計・監視専門会合で継続的に行われました14。その結果、C値を300円/kWh、D値を50円/kWhに見直す方針が示され15、沖縄エリアのD値も同水準とする案が整理されました16。パブリックコメントを経た2025年7月の中間とりまとめでは、2026年4月からの運用開始が予定されていました14。本稿が引用する資料から確認できるのは開始予定までであり、開始後の運用実績は確認対象に含まれていません。
併せて検討されているのが累積価格閾値制度です。高値が長く続く局面で事業者の負担が累積することを緩和する仕組みで、対象日の直前7日間にスポット市場価格が200円/kWh以上となったコマ数が30コマに達した場合、翌日から補正インバランス料金の上限価格を100円/kWhに引き下げ、直前7日間で100円以上のコマ数がゼロになった時点で解除する設計案が示されています14。沖縄エリアでは指標としてインバランス料金を用いる整理です16。
インバランス料金は市場の実勢を映すため、想定外の値動きも起こります。2025年5月10日には北海道エリアで蓄電池が高額な価格を登録したことが広域ブロック内へ波及して料金が高騰し、調整力kWh価格の監視強化などが課題として挙げられました3。理解を深めるには、インバランスの背後にある需給調整市場や容量市場との関係を続けて確認する順序が有効です13。
参考文献
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