需給調整市場とは何か──周波数を保つ「調整力」を売買する仕組みと商品区分をやさしく解説
この記事でわかること
- 需給調整市場が何を売買する市場で、なぜ必要とされているのか
- 一般送配電事業者・発電事業者・アグリゲーターなど誰がどう関わるのか
- 一次〜三次調整力という商品区分の違いと、前日取引化などの現在の状況
需給調整市場が売買している「調整力」とは何か
電気は、使われる量(需要)と発電される量(供給)が常に一致していなければ、周波数(東日本50Hz、西日本60Hz)が乱れ、最悪の場合は停電につながります。ところが実際の需要は分刻みで動き、太陽光や風力の出力も予測どおりにはなりません。この差を、送配電網の運用者が発電機の出力を上下させて埋めていきます。このとき使われる「出力を上げ下げできる余力」が調整力です。
需給調整市場は、この調整力を市場取引で集める仕組みです。取引されるのは主に二種類の価値です。ひとつは「いざというとき動かせる余力を確保しておくこと」への対価(容量に対する支払い、ΔkW=デルタキロワット)、もうひとつは「実際に出力を動かした電力量」への対価(kWh)です。需給調整市場は電気そのものを売る市場ではなく、周波数を保つための調整能力を売買する市場という点が、初めて読むときの最大のポイントです。
審議会資料で市場の状況を示すときに「平均約定単価(円/ΔkW30分)」という単位が使われるのは、30分ごとの時間区分で確保した調整力の容量価格を表しているためです1。
Policy Monitoring
このテーマを、資料公開から社内共有まで追跡する
Policy Scopeでは、関連審議会の新資料、AI要約、重要論点、一次資料リンクをまとめて確認できます。
なぜ市場で調達するのか──公募から市場化へ移った理由
かつて調整力は、各エリアの送配電事業者が自ら公募を行い、地域ごとに契約して確保していました。この方式では、契約できる相手が限られ、コストの妥当性や参加機会の公平性を外から確かめにくいという弱点があります。実際、審議会でも個別協議による契約は、参加機会の公平性、コストの適切性、調達プロセスの透明性の観点から安易に行うべきではないと整理されています2。
市場を通じて全国から調達すれば、より安い調整力から順に使われ、地域をまたいだ広域調達によって必要量そのものを抑えることも期待できます。そのため調整力を地域間連系線(エリアをつなぐ送電線)を使って広域で集める仕組みが整えられ、連系線の確保量をどう決めるかという検討も続けられています3。
もうひとつの理由は、電源構成の変化です。再生可能エネルギーの拡大や大規模火力の休廃止が進み、調整力を出せる設備の顔ぶれが変わってきました4。蓄電池や需要側の設備など新しい担い手を呼び込むには、誰でも同じ条件で参加できる市場という共通の入口が必要になります。
誰が関わるのか──買い手・売り手・監視する側の役割
需給調整市場の登場人物は、大きく三つに分けて理解すると整理しやすくなります。
- 買い手:一般送配電事業者(TSO=各エリアの送配電網を運用する会社)。系統運用と需給調整を担い、必要な調整力量を算定して市場で調達します5。
- 売り手:火力・水力(揚水発電を含む)などの発電事業者、蓄電池やVPP(多数の小さな設備をまとめて一つの電源のように動かす仕組み)の事業者、需要側の抑制を束ねるアグリゲーターなど。審議会では蓄電池VPPが調整力の案件として扱われた実績も報告されています2。
- 市場の運営・ルール整備と監視:電力広域的運営推進機関が需給調整市場システム(MMS)と取引規程を整え6、電力・ガス取引監視等委員会の制度設計・監視専門会合が約定単価や調達状況を継続的に点検しています7。
監視の対象には、価格形成の公正さも含まれます。特定のエリアで大きな影響力を持つ事業者には、市場シェアやPSI(供給余力の要となる度合いを測る指標)を用いた評価が行われ、登録価格に規律を設けて遵守を求める措置が検討されています8。太陽光・風力のように出力が変動する電源については、参加方法の整理や予測精度の課題が引き続き議論されています9。
取引の流れと一次〜三次調整力という商品区分
取引の基本的な流れは、送配電事業者が時間帯ごとの必要量を示して募集し、売り手が価格と量を入札し、安い順に約定する、という形です。約定した事業者は、その時間帯に指定された余力を残し、指令に応じて出力を動かす義務を負います。応動できなかった場合には、落札価格の1.5倍相当といった金銭的ペナルティが定められています10。
商品は「どれだけ速く応動する必要があるか」「どんな種類のズレに対応するか」で分かれています。
- 一次調整力:周波数の非常に短い周期の変動や電源脱落に備えるもので、10秒以内の応動、5分以上の継続、並列運転が必須という厳しい要件があります11。
- 二次調整力①・②:短い周期の変動や、需要計画と実績需要の差を埋める役割を担います12。
- 三次調整力①・②:継続的な予測誤差への対応と、再エネの発電量予測誤差への対応を担います12。
要件が厳しい商品ほど参加できる設備が限られるため、一次調整力では多くのエリアで調達が必要量に届かない状況が続いてきました7。三次調整力①でも応札不足への対応が議論の対象となってきました13。
| 比較項目 | 基本的な意味 | 押さえるポイント |
|---|---|---|
| 需給調整市場 | 周波数を保つための調整力(余力と実際の出力変化)を売買する市場 | 買い手は各エリアの一般送配電事業者に限られ、電気そのものの売買とは区別される |
| 卸電力市場(スポット市場) | 実際に消費される電力量そのものを売買する市場 | 市場支配力を持つ事業者への限界費用供出などのルールが別途議論されている14 |
| 容量市場 | 将来の供給力(発電できる能力)をあらかじめ確保する仕組み | 新設の蓄電池は初期2〜3年は参入できない場合があるなど、参加条件が需給調整市場と異なる4 |
| 一次調整力 | 10秒以内に応動し5分以上継続する、最も速い調整力 | 並列運転が必須で要件が厳しく、多くのエリアで調達未達が続いてきた11 |
| 三次調整力② | 再エネの発電量予測誤差に対応する調整力 | 応動要件が比較的緩く、蓄電池やアグリゲーターの参入余地が相対的に大きい |
| 随意契約(個別協議) | 市場を通さず特定の設備と個別に契約する調達方法 | 公平性・コスト適切性・透明性の観点から、必要性と経緯の公表が求められる2 |
制度が動いてきた道筋と、今の需給調整市場が置かれている状況
制度は段階的に広がってきました。2021年度に三次調整力の運用から始まり3、2024年4月に一次・二次①・二次②を含む全商品の市場が開設されました1516。開設直後は全エリアで応札不足が発生し、募集量の見直しや市場外調整力の控除といった調整も重ねられてきました17。
大きな変化は取引時期と時間単位の見直しです。もともと週間単位・3時間ブロックだった取引を、前日・30分単位に改める方向が検討され18、2026年3月14日受渡分から前日化と30分単位への変更が適用されています12。前日に近づけることで、発電事業者が自らの稼働見通しを踏まえて応札しやすくなり、応札量の増加と調達コストの低減が期待されています。
同時に価格面のルールも変わり、上限価格は2025年度の19.51円/ΔkW・30分から2026年度は15.00円/ΔkW・30分へ引き下げられ、募集量算定も3σから1σへ見直されました4。約定単価は月平均で1円前後の水準にとどまる一方、需給が締まる場面では上限に近い水準まで跳ね上がることがあり、エリアごとの差も大きいことが報告されています7。
さらに先の論点として、発電と調整力を同時に決める「同時市場」の検討が進んでおり、現行の商品区分そのものを見直す議論も行われています195。需給調整市場を理解した次は、容量市場(将来の供給力を確保する市場)や卸電力市場との役割分担、そして同時市場の議論をたどると、電力市場全体の姿がつながって見えてきます。
参考文献
本サービスで提供される審議会資料は、各府省庁が公開している情報を公共データ利用規約(PDL1.0)に基づいて利用しています。詳細はデータソースページをご確認ください。
Next Action
需給調整市場の制度変更を週次で把握
関連審議会・制度資料の更新を、チームで共有できる形に整理します。
需給調整市場の監視を相談する関連コラム
