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需給調整市場とは何か:5商品の役割と2026年3月からの前日・30分化で何が変わったか

需給調整市場は一般送配電事業者が周波数・需給を維持する調整力(ΔkW)を調達する市場で、一次〜三次②の5商品からなる1。2026年3月14日受渡分から複合商品(一次〜三次①)も前日・30分単位取引へ移行しており2、供出可否の判断単位がコマ単位に変わったことが最大の実務変化である。

この記事でわかること

  • 自社リソースがどの商品に応札可能か、単体・アグリゲーションのどちらで参入するか
  • 前日・30分化を前提に、どのコマへ供出しどのコマを外すかという応札設計を見直すか
  • ΔkW価格の低位推移と価格規律強化を前提に、蓄電池等の投資回収を需給調整市場単独で見るか他市場併用で見るか

需給調整市場は「調整力そのもの」を売買する市場であり、商品は応動速度で5つに分かれる

需給調整市場は、卸電力市場で取引される電力量(kWh)とは別に、周波数や需給のずれを埋めるための調整能力(ΔkW)を一般送配電事業者が調達する市場である。2024年度から調整力公募が終了し、調整力のすべてを需給調整市場から調達する枠組みへ移行した1

商品は指令方式と応動速度で区分される。一次調整力はオフラインの自端制御で10秒以内に応動し継続時間5分以上、二次調整力①はオンラインのLFC信号で5分以内・30分以上、二次調整力②と三次調整力①はEDC信号でそれぞれ5分以内・15分以内、三次調整力②は45分以内で応動する2

必要量の性格も商品ごとに違う。一次は極短周期成分の変動と電源脱落、二次①は短周期成分の誤差と電源脱落、二次②は需要計画と実績需要の誤差、三次①は継続する量の誤差に対応するものとして整理されている3つまり「速さ」と「持続」のどちらを売るのかで、必要な計測・制御設備と応札できる商品が決まる。これが参入検討の出発点になる。

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参入経路は単体かアグリゲーションかで分かれ、1,000kWと計画値の扱いが分岐点になる

商品区分が決まったら、次はどの経路で市場に入るかである。発電リソースは1,000kW以上であれば単独で入札でき、1,000kW未満は複数リソースを束ねたアグリゲーション参加となる。ネガポジ型リソースや需要リソースは、単体・アグリゲーションのいずれでも基準値計画や需要家リスト、機器個別計測などの追加要件が求められる4。アグリゲータは応札するリソースの情報を需要家リスト(需要家名称、所在地、供給地点特定番号、供出電力、電源等種別)として一般送配電事業者へ事前提出する必要がある5

電源種別による制約もある。変動性再エネのうちFIT電源は現行制度では需給調整市場への調整力としての参入が認められておらず、FIP電源や非FIT電源は通常の発電リソースと同様に活用できると整理されている2。蓄電池を併設した変動性再エネは、天候影響を蓄電池で補完して安定供出でき、インバータによる精緻な制御が可能とされる6。参加方法が多岐にわたること自体が市場参加のハードルになっているという課題認識も、審議会で継続的に議論されている4

EV充放電器のような分散リソースでは、要求仕様の差が参入可否を直接決める。三次②はkW(ΔkW)価値・評価間隔30分、一次オフラインは評価間隔1秒であり、いずれもペナルティが設定されている7評価間隔の細かさが、必要な通信・計測仕様とペナルティリスクの大きさを規定する

2026年3月14日受渡分からの前日・30分化が、応札の判断単位を根本から変えた

制度面の最大の転換は取引スケジュールと取引単位である。三次②は2025年3月14日受渡分から取引単位が3時間ブロックから30分へ変更されており、すでに運用実績が蓄積している8。そして複合商品(一次〜三次①)についても、取引規程改定とMMS改修を伴い、2026年3月14日受渡分から前日化・入札時間単位30分・継続時間30分へ変更されている3。2025年度までは週間取引・3時間ブロック入札が現行運用であった3

先行した三次②の実績は、この変更の効果を具体的に示している。募集量は3時間ブロック継続を仮定した試算値比で全国計6,921MW/日から5,204MW/日へ、約1,717MW/日(約25%)減少し、応札量は約7,047MW/日(約52%)増加した9。コマごとの供出可能量に応じて応札できるようになったことが応札量増加の要因とされ、落札価格は大きく上昇せずに推移している10

一方で30分化には副作用も指摘されている。過去実績データ数の減少により必要量算定が困難になる可能性と、コマごとに約定が飛ぶ「歯抜け約定」による応札者負担の増加である3。前日化に伴い、広域予備率の計上方法、発電機の起動判断、調達量の判断といった運用上の課題も検討されてきた1130分化は応札の自由度を上げる一方、歯抜け約定と起動費の回収可否という新しい収益リスクを持ち込んだと読むのが実務的である。

ΔkW約定単価は多くのエリアで1円/ΔkW30分前後にとどまり、応札不足と価格上限が同時に存在する

では前日・30分化が進む市場で、収益はどう見えるか。三次②の前日取引の平均約定単価は、2025年度を通じて多くのエリアで1円/ΔkW30分前後の水準で推移している。2026年2月時点では北海道2.02円、東京0.95円、四国0.30円などであり、最低約定単価は各エリア0.28〜0.30円に張り付いている12。一方で最高約定単価は東北195円、東京・中部・関西・九州で200円に達するコマがあり12、平均と最高の乖離が極端に大きい。

供給側の不足は継続している。2024年度上期は全商品で応札量が募集量に未達で、一次商品の不足率は80%に達した13。2025年度上期も応札不足が続き、特に一次調整力での乖離が大きいことが報告されている14。2026年2月時点でも一次調整力が未達のエリアが多い状況である15。未達時には一般送配電事業者がエリア内オンライン→エリア外オンライン→エリア内オフライン→エリア外オフラインの優先順で市場外調達を行うが、相対契約であるため調達コストが約2倍になるリスクが指摘されている16

価格面の規律も強化方向にある。2026年度以降はB種電源協議が廃止され、事前確認から期中の固定費回収報告に基づく事後監視へ重心が移る。あわせて「不合理な入札価格設定」「不適切なシステム設定」が処分対象行為として明記され、需給要因で説明のつかない入札価格の逸脱や、未稼働電源から不当な収入を得る行為が例示されている17応札不足は続いているが、それが高値を許容する環境にはなっていないというのが現在地である。

判断項目確認条件判断への示唆
応札する商品区分の選定自社リソースの応動時間(10秒/5分/15分/45分)と継続時間、オンライン指令受信の可否応動が遅く継続時間が短いリソースは三次②中心。一次オフライン枠は評価間隔1秒相当の計測要件を満たせるかで可否が決まる
単体参入かアグリゲーションか発電リソースが1,000kW以上か未満か、需要・ネガポジ型かどうか1,000kW未満や需要リソースはアグリゲーション前提で、需要家リスト提出・機器個別計測などの追加準備が必要
30分・前日取引前提の応札設計の見直し2026年3月14日受渡分以降のコマ別約定実績と歯抜け約定の発生頻度コマ単位供出で応札量は増やせるが、歯抜けによる起動費未回収リスクを織り込んだ最低応札価格の再設定が必要
需給調整市場単独での投資回収可否対象エリアのΔkW平均約定単価が1円/ΔkW30分前後か、B種電源の固定費回収率水準単独回収は現状困難。容量市場・kWh収益・系統混雑緩和等との併用前提でIRRを再計算する
価格設定方針の妥当性確認2026年度以降の事後監視枠組みと処分対象行為への該当可能性需給要因で説明できない価格逸脱は処分対象。固定費・他市場収益・想定約定量に基づく算定根拠の文書化が必要

ペナルティ緩和と揚水随意契約の扱いが、蓄電池・新規リソースの投資判断を左右する

価格が伸びない中で参入を判断するには、リスク側の制度整備をどう見るかが決め手になる。少量約定時のペナルティリスクに対しては、アセスメントI不適合時のペナルティを1.5倍から1.0倍へ緩和する方向性が基本とされ、落札量が定格の0.56%以下の場合は許容範囲を補正する案などが検討されてきた。これらはシステム改修を要するため2026年度の実施が目指されていた18。緩和内容の適用状況について2026年8月13日時点で後続資料での確認はできておらず、実施済みの可能性を含めて個別確認が必要である。

調達方式そのものも動いている。北海道エリアでは揚水随意契約による募集量削減が進行し、調整力の確保が課題となっている一方、全量市場調達からポートフォリオ調達へ移行する方針が示され、随意契約の解除も検討対象とされている1920。事業者側からは、新規電源は初期の固定費負担が高く市場参入リスクが存在すること、需給調整市場の制度リスクの増大が収益性に影響していることが指摘されている1920。大阪ガスは2030年度までに100万kW規模の蓄電池事業を計画しており、制度設計の安定性を求めている20

収益構造の実態も参考になる。B種電源のΔkW価格の「一定額」は、当年度の固定費、他市場での収益、想定約定量から算定される考え方であり17、2025年4〜6月のB種電源の固定費回収率は0〜22%の範囲にとどまった21需給調整市場のΔkW収入だけで固定費を賄う設計は現状では成立しにくく、容量市場やkWh収益との組み合わせを前提にした回収計画が必要と考えられる。分散リソースでは、系統混雑緩和、容量市場、経済DR、再エネ出力制御低減など複数ユースケースの収入を積み重ねる考え方が示されている7

まず行うこと

  1. 商品適合性の棚卸し 自社リソースの応動時間・継続時間・計測仕様を一次〜三次②の要件と突き合わせ、応札可能商品と追加投資が必要な機能(SOC取得、プラグ接続情報、1秒計測等)を一覧化する
  2. 30分化後の応札モデル再設計 2026年3月14日受渡分以降のコマ別約定・不約定実績を収集し、歯抜け約定時の起動費未回収を織り込んだコマ別最低応札価格を設定する
  3. 価格設定根拠の文書化 固定費、他市場収益、想定約定量に基づくΔkW価格の算定根拠を整備し、事後監視での説明に耐える形で内部承認プロセスに載せる

監視する指標

  • ΔkW平均約定単価(エリア別・商品別) 多くのエリアで1円/ΔkW30分前後の水準から継続的に上振れするかどうかで、投資回収前提を見直す
  • 一次調整力の調達未達状況 未達エリアが縮小に向かうか拡大するかで、新規参入の競合環境と募集量見通しが変わる
  • 歯抜け約定の発生率と起動費精算の扱い コマ単位約定で起動費が回収できない事例が増える場合、応札価格と供出コマ選定の方針を変更する
  • アセスメント緩和・ペナルティ倍率の適用状況 1.5倍から1.0倍への緩和や少量約定時の許容範囲補正が実際に適用されているかで、少量供出の是非が変わる
  • 揚水随意契約とポートフォリオ調達の方針 随意契約の解除・拡大や調達方式の変更が募集量に与える影響を確認し、対象エリアの参入優先度を再評価する

参考文献

  1. 4.
    需給調整市場の運用等について
    電力・ガス取引監視等委員会2026/03/30PDF
  2. 9.
    アセスメント緩和等に関する検討について
    電力広域的運営推進委員会2024/12/05PDF
  3. 13.
    需給調整市場の運用等について
    電力・ガス取引監視等委員会2026/02/20PDF
  4. 16.
    変動性再エネの調整機能の活用について
    電力広域的運営推進委員会2024/09/10PDF
  5. 17.
    揚水随意契約にかかる事業者意見
    電力・ガス取引監視等委員会2026/02/20PDF
  6. 20.

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