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スイッチング率51%・新電力シェア22%──同じ「切替」でも意味が違う

電力の切替手続きそのものは、2016年の全面自由化時に構築された共通システムでほぼ標準化され、実務上の争点は限られた残余論点に絞られてきた。一方で、審議会が公表する「スイッチング率」「新電力シェア」は指標として異なる現象を測っており、2026年には競争状況の測り方そのものが変更された。本稿では、制度の現在地と指標の読み違えを避けるための論点を整理する。
23 件参照

この記事でわかること

  • 「スイッチング率51.4%」は規制料金から自由料金への移行も含む数字で、旧一電から他社へ実際に移った顧客の割合(旧一電→新電力スイッチング率)は23.8%にとどまる
  • 2026年4月から域外みなし小売電気事業者の実績が新たに公表対象になり、中国エリアでは占有率が10.6%に達するなど「旧一電同士の越境競争」が競争構造の一部になっている
  • 高圧契約の切替では現事業者による「取戻し営業」が競争阻害要因として指摘されており、スイッチング情報の営業利用制限のルール化が審議中だが結論は出ていない

スイッチング支援制度とは何か

スイッチング支援制度とは、需要家が小売電気事業者を切り替える際に必要な地点情報の照会・現事業者との契約廃止の取次ぎ・託送異動申込を、電力広域的運営推進機関(広域機関)が運営する共通システムと統一ルールの上で処理する仕組みである。

このシステムは、全面自由化に伴いスイッチング件数の急増が想定されたことを受け、①供給地点特定番号や過去13か月の使用電力量の提供、②託送異動申込の受付、③使用電力量の提供と託送料金・インバランス料金の算定、という機能群として整備され、スイッチング支援関連機能は2016年3月、託送業務関連機能は2016年4月に稼働している(開始済み1

制度の要点は、これが単なるITシステムではなくルールとセットで運用されていることにある。システム利用ルールおよび小売事業者間の業務ルールは「広域機関ルール」として制定され、違反事業者に対しては広域機関が指導・勧告・制裁を行う制度が設けられた(開始済み2。さらに「適正な電力取引についての指針」にも、広域機関・一般送配電事業者はスイッチング申込み状況に応じて対応能力を増強しスイッチングが行いやすい環境を確保すべきこと、不当な取扱いは問題となることが明記されている(開始済み3

実務レベルの改善は「スイッチング支援に関する実務者会議」で継続的に処理されてきた。たとえば、需要家に複数の契約番号(お客さま番号・契約番号・供給地点特定番号)が通知されているために本人確認ができず切替が滞る事例に対し、いずれの番号でも本人確認できるようマニュアルへ明記する見直しが議論され、あわせて廃止取次依頼データをコアタイム(平日9〜17時)内に1時間に1回以上取得すること、判定OKと回答した場合は必ず廃止申込を実施することなどの運用が整理されている4。また、稼働から6年が経過したサーバ機器の老朽化更新が2023年度に実施され、2024年1月までに完了する見込みとされていた(業務アプリケーションの変更なし、接続先変更なし)5(2026-08-10時点で後続資料での完了確認なし、完了している可能性あり)。

つまり手続きインフラとしてのスイッチング支援制度は、既に「完成して運用に入った制度」であり、競争の摩擦点はここから価格・電源調達の側へ移っていると考えられる。

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「スイッチング率51.4%」を額面通りに読んではいけない

直近のモニタリング報告によれば、2025年12月時点で全国のスイッチング率は51.4%、エリア別では東京55.3%、中部53.6%、東北39.1%である(開始済み・継続公表中6。2025年9月時点では全国50.8%、最高は中国58.3%、最低は沖縄36.2%であった7

ここで重要なのは、この指標が「規制料金メニューから自由料金メニュー又は新電力へ移った低圧需要家の割合」である点だ。つまり、旧一般電気事業者の自由料金プランに移った需要家も分子に入る。実際、同じモニタリングで別途集計されている「旧一般電気事業者から新電力等へのスイッチング率」は、2025年6月時点で全国23.8%にとどまり、北陸7.5%、中国12.8%、東北14.6%と、東京32.9%との地域差が極めて大きい8

第三の指標である新電力シェア(販売電力量ベース)は、2025年9月時点で総需要約22.6%、低圧28.7%、特高・高圧19.0%である7。2025年12月時点でも総需要約22.1%であり6、2021年4月の19.9%から2023年4月には16.0%まで落ち込んだ後に回復してきた経緯がある7

この3つの数字の差こそが、実務上の意思決定に効く情報である。 51.4%は「規制料金からの離脱がほぼ半分に達した」という市場成熟度の指標にすぎず、23.8%が「旧一電から他社への実質的な顧客移動」、22.1%が「販売電力量ベースでの新電力の存在感」を示す。営業目標や市場ポテンシャルの試算に51.4%を用いると、獲得余地を大幅に過大評価することになる。

なお、年度ごとの新規スイッチング率は2020年度をピークに低下を続け、2023年度に底を打った後、2024年度には約2ポイント反転上昇している7。この反転の背景の一つとして、2025年10〜12月期には低圧の規制料金が全エリアで自由料金を上回る状況が生じていることが報告されている6価格の相対関係が反転した局面では、需要家の切替インセンティブが構造的に回復するという関係が読み取れる。

2026年の転換点:「新電力シェア」では競争が測れなくなった

より本質的な変化は、競争状況の測定方法そのものに起きている。

電力・ガス取引監視等委員会は、みなし小売電気事業者による旧供給区域外への供給が増加し、新電力シェアだけでは各エリアの競争状況を把握することが難しくなるとして、電力取引報の公表内容を変更し、販売電力量・販売額・契約口数について「域外みなし小売電気事業者」の数値を新たに追加することを決定した(決定済み、2025年4月分データから適用)910

その規模は無視できない。域外みなし・域外関連会社のエリア占有率は2025年12月時点で全国合計5.7%、中国エリア10.6%、東京エリア8.2%、九州エリア5.8%に達している9

これが意味するのは、「旧一電 vs 新電力」という二項対立の構図が、統計上も実態上も崩れつつあるということだ。エリア内で旧一電のシェアが低下していても、その受け皿が新電力ではなく他エリアの旧一電である場合、競争の質は異なる。かつては「みなし小売電気事業者の旧供給区域外への進出は全体の約1.5%にとどまる」(2018年時点)と評価されていた11ことを踏まえれば、この10年弱での変化は大きい。

新電力にとっては、自社の競合が「地域の旧一電」だけでなく「域外から入ってくる旧一電」でもあることを、地域別に定量把握できるようになったという実務的な含意がある。

スイッチングが5割を超えても、経過措置料金は解除されない

需要家の切替が進んでいるにもかかわらず、低圧の経過措置料金(規制料金)は解除されていない。現在も規制対象となっているみなし小売電気事業者は10社である(開始済み12

解除の判断は、①消費者等の状況(自由化の認知度・スイッチング動向)、②十分な競争圧力の存在(シェア5%以上の有力で独立した競争者が2者以上)、③競争の持続的確保(旧一電による内外無差別な卸売の状況)の3要素から総合的に行われる13

2025年6月に実施された確認では、いずれの区域においても解除基準を満たす状況にはないと評価された(継続検討中)。ボトルネックは②である。2025年3月時点でシェア5%以上の競争者が存在する区域はあるものの、2者以上存在する区域はない。具体的には北海道(北海道電力79.1%、北海道瓦斯6.3%)、東京(東京電力67.6%、東京瓦斯12.1%)、関西(関西電力74.4%、大阪瓦斯13.0%)といった構図である13。消費者の自由化認知度は約90%に達している14

ここから導かれる示唆は明確である。すなわち、競争評価の律速要因は「需要家が切り替えるかどうか」ではなく「規模のある独立した競争者が育つかどうか」であり、その前提条件が電源アクセスの公平性=内外無差別な卸売にある。

その内外無差別の評価は継続中である。2025年6月時点の評価では関西が「◎」、中国・四国・九州が「〇」(内外無差別が担保されている)とされた15一方、2023年度単年卸の評価では東京・中部について既存の長期契約の存在を理由に「担保されていない」とされていた16。また、経過措置料金解除の判断において競争環境の持続性が満たされることが重要であり、常時バックアップは休止可能だが内外無差別が担保されない場合には再開する必要があるとの整理も示されている(決定済み・運用中16

小売市場側の監視としては、旧一電およびシェア5%以上の小売電気事業者を対象とする「小売市場重点モニタリング」が継続しており、2024年度契約では小売単価がエリアプライスを下回る案件は確認されず、競争者からの申告件数も0件であった。次回調査は2026年7〜8月頃に実施、結果は同年9月頃公表予定とされている17(2026-08-10時点で調査実施中とみられ、後続資料での確認なし)。

実務に残る摩擦:取戻し営業と手続きの残余論点

手続きインフラが整備された後も、切替プロセスに固有の競争阻害要因として議論されてきたのが「取戻し営業」である。

高圧契約では新事業者への申込から供給開始まで1〜2か月かかることが多く、その間に現事業者が特別料金の提示や違約金請求の予告を通じて切替を阻止する事例が指摘された。審議会には、7月19日申込・9月30日切替予定の案件で8月21日に現事業者が営業活動を行い9月5日に申込が取り消されたタイムライン例が提示されている18。論点は、①スイッチング情報の営業活動等への利用、②託送契約手続きの短縮化、③差別的廉売行為への対応の3点に整理され、「スイッチング情報を本人確認以外に用いるのは論外である」との委員意見も示されたうえで、スイッチング期間中の情報利用制限のルール化が検討された(継続検討中1920(2026-08-10時点で最終的なルール化の帰結を確認できる後続資料は見当たらない)。

また、需要家保護の側面では、小売電気事業者の休廃止増加を受けて、登録申請時の事業計画書提出が電気事業法施行規則の改正により2023年4月1日から義務付けられた(開始済み21。撤退時の周知期間についても、通常30日以上、十数万件規模の契約を有する事業者では90日以上が必要となり得るとの整理がなされている22。小売契約における書面交付義務について、電磁的方法を用いる場合の需要家の承諾取得方法も制度的措置として議論されている(提案・審議中、2025年4月時点)23

ステータス整理

項目内容ステータス
スイッチング支援システム2016年3月稼働、地点情報・使用量提供、託送異動受付 1開始済み
広域機関ルール(指導・勧告・制裁)システム利用・事業者間業務ルール 2開始済み
老朽化機器更新2024年1月完了見込み、業務アプリ変更なし 5後続資料での確認なし(完了の可能性あり)
取戻し営業・スイッチング情報の利用制限ルール化の方向で議論 19継続検討中(帰結未確認)
域外みなし小売の数値公表2025年4月分データから追加公表 9決定済み・適用移行中
経過措置料金の指定解除全区域で解除基準未充足(2025年6月確認) 13継続検討中
小売市場重点モニタリング次回2026年7〜8月調査・9月公表予定 17実施予定(実施中の可能性あり)
事業計画書提出義務2023年4月1日施行 21開始済み
Key Points·読者別ポイント

小売電気事業者(新電力・異業種参入)の営業・企画担当

現状認識:スイッチング手続きそのものは共通インフラ化しており、切替オペレーションの巧拙で差がつく余地は限定的である。一方、市場の獲得余地を示す指標は3層に分かれており、全国スイッチング率51.4%6と旧一電→新電力スイッチング率23.8%8の差の中には、旧一電の自由料金プランへ移った需要家が大量に含まれている。

なぜ重要か:この層は「切替経験がある=再切替の心理的ハードルが低い」層でありながら、依然として旧一電の顧客である。エリア別に見ると、旧一電→新電力スイッチング率は北陸7.5%・中国12.8%と東京32.9%の間で4倍以上の開きがあり8、一方でスイッチング率(規制料金からの離脱)は中国が58.3%と最高水準にある7「規制料金離脱は進んでいるが新電力が取れていないエリア」が存在することが、この2指標の対比から読める。

どう考えるべきか:エリア戦略の優先順位付けにおいて、単一指標ではなく「規制料金離脱率の高さ×旧一電→新電力率の低さ」の組み合わせで空白地帯を特定するのが実務的である。ただし、その空白地帯を埋めているのが域外みなし小売電気事業者である可能性を織り込む必要がある。中国エリアでは域外みなし等のエリア占有率が10.6%に達しており9、競合の実体は「地域の旧一電」ではないかもしれない。2025年4月分から公表が始まった域外みなしの数値10は、この見極めのために最初に確認すべきデータ系列である。

もう一つの判断軸は調達側である。経過措置料金の解除が「シェア5%以上の独立競争者2者以上」で止まっている13以上、規模拡大の制約は需要家獲得よりも安定的な電源調達にある。内外無差別評価が担保されているとされたエリア(2025年6月時点で関西◎、中国・四国・九州〇)15と、長期契約を理由に未担保とされた東京・中部16では、卸調達の交渉環境が構造的に異なる。事業計画の前提として、エリアごとの卸調達可能性を先に確認し、そこから需要家獲得目標を逆算する順序が合理的である。

需要家側のエネルギー調達担当(高圧・特別高圧)

現状認識:切替手続きは標準化されているものの、高圧契約では申込から供給開始まで1〜2か月を要することが多く、その期間中に現事業者からの引き留め(取戻し営業)が行われる余地がある18。スイッチング情報の営業利用制限は審議会でルール化の方向が示されたものの、2026年8月時点で明確な決着を確認できる資料は見当たらない。

なぜ重要か:切替の意思決定後に現事業者から有利な条件が提示された場合、それが「継続的に維持される条件」なのか「切替阻止のための一時的な条件」なのかを判断する必要がある。審議会では、現事業者による安値提示の是非や交渉機会付与義務条項の適正性そのものが競争政策上の論点として提起されている18

どう考えるべきか:第一に、契約更新の周期を意識した調達設計が有効である。新事業者との契約締結前に現事業者へ交渉機会を与える条項(交渉機会付与義務条項)が既存契約に含まれていないかを確認し、含まれる場合はスケジュールに織り込む。第二に、複数事業者からの提案を比較する際、旧一電の自由料金プランと新電力の提案を並べる場面では、内外無差別な卸売の評価状況がエリアごとに異なることを踏まえ、供給の安定性・継続性の観点も価格と併せて評価する必要がある。第三に、小売電気事業者の撤退リスクについては、登録申請時の事業計画書提出義務化(2023年4月施行)やリスク管理体制・資金状況の定期報告制度が導入されており21、撤退時の周知期間も契約規模に応じて30日〜90日以上とする整理がなされている22。制度上のセーフティネットは強化されているが、周知期間内に再調達を完了できる社内プロセスをあらかじめ準備しておくことが実務上の備えとなる。

参考文献

  1. 2.
  2. 8.
    電力取引に係る公表資料の変更について
    電力・ガス取引監視等委員会2026/03/30PDF
  3. 9.
    小売市場重点モニタリング 調査結果について
    電力・ガス取引監視等委員会2025/09/24PDF
  4. 14.
    小売電気事業者に関する今後の対応について
    電力・ガス取引監視等委員会2023/07/28PDF
  5. 18.
    電力取引報に係る公表資料の変更について
    電力・ガス取引監視等委員会2026/04/06PDF
  6. 21.
    小売電気事業者に関する今後の対応について
    電力・ガス取引監視等委員会2022/10/25PDF

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