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デマンドレスポンス、2026年度の転換点——計量の粒度が事業性を決める

デマンドレスポンス(DR)をめぐる制度設計は、この2〜3年で「市場に参加できるかどうか」から「どの計測点で、どの粒度で調整力を評価するか」へと論点が移っている。2026年度は低圧リソースの需給調整市場参入と機器個別計測の開始が予定された年度であり、同時にインバランス料金のC値・D値見直しが効き始める年度でもある。本稿は、この転換が事業者の投資判断にどう効くかを整理する。
27 件参照

この記事でわかること

  • DRの収益源は容量市場・需給調整市場・経済DRなど複数あるが、要求される計測仕様は市場ごとに大きく異なり「最も厳しい市場に機器を合わせられた事業者」だけが収益を積み上げられる
  • 家庭用機器のDRready化(通信・外部制御・セキュリティ対応)は2029年度の市場投入を目標とする長期工程で進んでおり、EV充電器の外部制御対応率はコンセントタイプで依然0%にとどまる
  • 低圧リソースは個別管理だとベースライン誤差が基準の20%を大きく超えるため、群単位で束ねて統計的に評価する事業モデルへの転換が制度側から求められている

トピックの定義:DRとは何か、何が「制度化」されたのか

デマンドレスポンスとは、需要家側のエネルギーリソース(自家発、蓄電池、給湯機、EV、生産設備等)を制御して電力の消費パターンを変化させ、その変化量を供給力・調整力として市場に供出する行為である。需要を減らす「下げDR」と、再エネ余剰時などに需要を増やす「上げDR」の双方を含む。

制度化の中身は、大きく分けて4層で構成されている。①取引の場(容量市場の発動指令電源、需給調整市場、経済DR/小売DR、系統混雑緩和)、②量の測り方(受電点計測・機器個別計測、ベースライン)、③事業者ルール(特定卸供給事業者、ERABガイドライン、サイバーセキュリティ)、④機器側の対応要件(DRready)である。近年の審議会の議論は、①よりも②〜④に重心が移っている。

DRリソースの実績量は、2017年度の96万kWから2024年度415万kW、2026年度600万kW、2027年度621万kWへと拡大する見通しが示されており、特定卸供給事業者は2024年10月時点で81社に達している(開始済み)1。量的な立ち上がりは進んだが、以下に見るとおり、その先の伸びしろは計測インフラと機器仕様に律速されている。

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論点1:収益は積み上げ前提、しかし各市場の「要求仕様」が事業性の天井を決める

アグリゲーター業界団体(ERA)が整理したユースケースは、系統混雑緩和(上げDR)、需給調整市場、容量市場、経済DR(小売DR)、再エネ出力制御低減(上げDR)であり、複数ユースケースからの収入を積み重ねること(レベニュースタッキング)が前提とされている2

重要なのは、ユースケースごとに要求される計測・応動仕様がまったく異なる点である。同資料では、経済DR・再エネ出力制御低減・容量市場が30分単位のkWh/kW価値であるのに対し、需給調整市場の三次②は30分のΔkW、一次調整力(オフライン)は1秒間隔の評価であり、ペナルティも市場側は「あり」で固定されると整理されている2。系統混雑緩和については、取引価値・評価間隔ともに「未定」であり、機器の要求仕様が判断できない状態にある(継続検討中)2

つまりレベニュースタッキングは「同じ機器で複数市場を掛け持ちできる」という意味ではなく、「最も厳しい市場の仕様に機器を合わせられた事業者だけが積み上げられる」という意味であると考えられる。EV充電器で言えば、Phase 1で実装済みなのは充電電力情報取得と充電制御にとどまり、SOC取得・プラグ接続情報取得は未実装というのが業界側の現状認識であり、これらを追加実装して初めて経済DR(上げ下げ)や容量市場が視野に入る、という段階的アプローチが提案されている(提案・審議中)2

価格規律という第二の天井

需給調整市場のΔkW価格については、固定費として算入が認められるのは「需給調整市場へ応札するための人件費」と「システム費用(通信費含む)」であり、電炉設備・蓄電池・EV・自家発電機にかかる費用は算入が認められないという整理が示されている(開始済み)3。A種電源の固定費回収のための一定額は0.33円/ΔkW・30分が上限として明文化されている4

これは事業性評価上、決定的な意味を持つ。リソース設備そのものの投資回収は需給調整市場のΔkW収入では正当化できず、他市場収益や需要家側の本来用途(自家消費・BCP・料金削減)と合わせて初めて成立する構造が制度側で固定されていると読むべきである。

一方で、経済DR側の価値は上がる方向にある。補正インバランス料金のC値は2026年度から300円/kWh、D値は50円/kWhに見直すことが中間とりまとめで整理され、制度運用開始は2026年4月とされていた(決定済み。なお2026-08-10時点で運用開始を確認できる後続資料は見当たらず、開始済みの可能性あり)5。同時に、直前7日間にスポット価格200円/kWh以上が30コマ到達した場合に補正インバランス料金の上限を100円/kWhとする累積価格閾値制度も併せて導入される整理となっている5。DR事業者にとってはインセンティブ拡大と上振れ抑制が同時に入る形である。

なお容量市場側では、発動指令電源の応札上限容量をH3需要の4%から5%へ引き上げ、追加オークションの応札上限を「メインオークション未達量+市場退出量」に改める案が示されている(提案・審議中)6。2027年度向けメインオークションでは発動指令電源の応札容量600万kWが落札率100%であった実績があり7、上限が実質的な制約として働いてきたことを踏まえると、この見直しはDR側の容量市場収益の上限を押し上げる方向に働くと考えられる。

論点2:2026年度が転換点になるのは「計測点」が変わるから

機器個別計測とは、需要家の受電点ではなく、制御対象リソース(蓄電池・自家発・給湯機等)の出力・消費電力を直接計測してΔkWを評価する仕組みである。受電点計測では制御対象外リソースの変動が混入して調整力が過小評価される問題があったが、機器点で測ることでこれを排除できる8

導入スケジュールは電圧階級で明確に分かれている(決定済み)9

区分適用時期前提条件
低圧受電点計測(全商品)2026年度から次世代スマメは2025年度から順次設置
機器個別計測(低圧機器点)2026年度から同上
機器個別計測(高圧・1,000kW未満)2027年度から次世代スマメは高圧以上で2026年度後半から順次設置
機器点「特高」2027年度以降(順次)託送システム改修にエリア差6〜24か月
機器点1,000kW以上継続検討中入札単位の新設か既存リスト・パターン活用かで検討中

(出典:91011

2026-08-10時点で、2026年度の低圧参入・低圧機器点計測が実際に開始されたことを明示する後続資料は確認できていない(決定済みの内容であり、開始済みの可能性あり)。ただし2026年3月の需給調整市場検討小委員会では、発動指令電源の機器個別計測での扱いについて「2027年度以降に順次市場参入を許可する案」が引き続き検討されており、特高・大容量側の課題が残っていることは確認できる11

ニーズ規模も定量化されている。機器点特高は65件・約72万kW、機器点1,000kW以上は137件・約84万kWの参加意向が確認されている12。合計150万kW規模のリソースが「制度が追いつくまで待たされている」構図である。データ収集ルートについては、IoTルートが約120億円、インターネットルートが約489億円と試算され、IoTルートにセキュリティ上の優位性があるとされている9

ベースラインの扱いも同時に変わった

低圧リソースのベースラインについては、調査の結果、個別管理では誤差(RRMSE)が東京都で99.1%〜、動力・PVありでは数百%に達し、ERABガイドラインが求める誤差水準20%以下をまったく満たさない一方、群管理では電灯PVなしで11.9%(東京都)まで改善することが示された13。これを受けてERABガイドラインでは「High 4 of 5(当日調整あり)」を推奨し、低圧需要家では群単位でのベースライン設定を期待する方向で改定案がまとめられ、パブリックコメント(4件)を経て改定案を維持することが決定された(決定済み)14。改定では、受電点以外での計測方法の追加、アグリゲーターと供給元小売電気事業者の情報連携方法・フォーマットの明確化、ネガワット調整金の機器個別計測下での扱いも整理されている14

さらに、PV・EV・蓄電池の普及で標準ベースラインが誤差基準を満たせなくなるケースへの対応として、事業者・研究機関から機器特有のベースライン計算方法の提案を受け付け、資源エネルギー庁が正確性・公平性・簡便性・事前性の4軸で評価し、公表可能と判断したものを公表する方式が示されている(継続検討中)15。高頻度な経済DRについても、DR実施日の需要実績にDR量を足し戻す方式などが検討されている(継続検討中)16

ここから読み取るべきは、低圧DRの事業設計が「1軒ずつ契約して積み上げる」モデルから「群として束ねて統計的に評価する」モデルへ、制度側から誘導されているという事実である。 需要家1件あたりの限界獲得コストではなく、群を構成できるまでの初期規模到達コストが、事業性のクリティカルパスになる。

論点3:家庭用機器のDRready化は「2029年度」という長いリードタイム

DRready勉強会では、ヒートポンプ給湯機・家庭用蓄電池・ハイブリッド給湯機・家庭用燃料電池(エネファーム)・EV充電器/充放電器について、①通信接続機能、②外部制御機能、③セキュリティの3層で要件案が整理されている(提案・審議中)17。家庭用蓄電池では、DR要求による充放電目標値・継続時間の受信、充放電可能容量の送信、DR実行後の元モード復帰、通信途絶時の復帰などが要件案とされ、セキュリティはJC-STAR(セキュリティ要件適合評価及びラベリング制度)への適合が求められている18。エネファームではJC-STARスマートホーム分野★2以上が要件案に置かれている19

市場導入スケジュールは、2026年度に他業界団体との通信仕様検討、2027年度にJEM規格策定、2028年度に運用ルール策定、2029年度にDRready対応機器の市場投入という工程が示されている18。エネファーム・ヒートポンプ給湯機についても2029年度の市場導入を目指す計画である2017

リスクも明示されている。JC-STARの★2の要件が未確定であるため各社の検討が遅れる可能性、および開発コスト増加による市場投入遅延の懸念が資料上のリスクとして挙げられている17。JEITAスマートホーム部会によるDRready関連ガイドライン(仮称)は2026年11月頃に案が提供される予定である(決定済みの予定)21

なお制度的位置づけについては、ヒートポンプ給湯機のDRready要件が、製造・輸入事業者のうち年間の生産量または輸入量が500台以上を勧告・命令の対象要件とする形で、判断基準にDRready要件を置く方向が示されている22。DRreadyは任意仕様ではなく規制的枠組みに接続する設計である点は、メーカーの投資判断上見落とせない。

機器側の現状が示す「ポテンシャルの真の制約」

EV充電器・充放電器の外部制御対応状況の調査結果は、制度と現実の乖離を端的に示している(2024年度出荷ベース)23

機器サーバ経由の外部制御可能割合GW経由
普通充電器(コンセントタイプ)0%0%
普通充電器(ケーブル搭載タイプ)50%10%
急速充電器55%8%
充放電器(V2H機器)94%92%

一方で、将来の必要量として、2040年頃のDR必要量が約1,500万kW、うち運輸部門が730万kWと想定され、これをEVの調整力で賄うには約122万台のEVが必要とされる試算が示されている24制度が求める量と、現在出荷されている機器が対応できる量の差が、DR拡大の最大のボトルネックであると考えられる。国内の取り組みは依然として数十台規模の実証が中心であり、EVを活用したDRの本格展開には時間がかかるという認識が示されている25

ステータス早見(2026-08-10時点)

項目ステータス要点
需給調整市場 全商品取引開始済み(2024年4月〜)全商品で応札不足が継続26
ΔkW価格の固定費算入ルール(設備費不可・一定額0.33円)開始済み34
C値300円/kWh・D値50円/kWh・累積価格閾値制度決定済み(2026年4月運用開始。後続資料での開始確認なし、開始済みの可能性あり)5
ERABガイドライン改定(低圧ベースライン・機器個別計測・情報連携)決定済み(改定案維持を決定、改定版公表)14
低圧リソース参入・低圧機器個別計測決定済み(2026年度から。後続資料での開始確認なし、開始済みの可能性あり)9
高圧(1,000kW未満)機器個別計測決定済み(2027年度から)9
機器点「特高」・1,000kW以上継続検討中(特高は2027年度以降順次)1011
発動指令電源の応札上限4%→5%引上げ提案・審議中6
一次調整力の技術要件緩和・蓄電池の一次オフライン参入要件見直し提案・審議中27
DRready要件(HP給湯機・蓄電池・ハイブリッド給湯機・エネファーム・EV充電器)提案・審議中(2029年度市場投入目標)1718
機器特有ベースライン/高頻度経済DRベースライン継続検討中1516
系統混雑緩和(上げDR)の市場要件継続検討中(取引価値・評価間隔とも未定)2
Key Points·読者別ポイント

アグリゲーター/DRサービス事業者

現状認識として押さえるべきは、制度の解禁が「一括」ではなく「電圧階級と年度のマトリクス」で刻まれていることである。低圧は2026年度、高圧1,000kW未満は2027年度、特高は2027年度以降順次、機器点1,000kW以上は入札単位の議論が未決着という状態にある910。しかも機器個別計測は次世代スマートメーターの設置を前提としており、設置を待たずに市場参入することは困難と整理されている8

これが重要なのは、営業リソースの投下順序を制度スケジュールが実質的に決めてしまうからである。特高・大容量の産業需要家は商談単価が高く優先したくなるが、その参入時期はエリアごとの託送システム改修(6〜24か月のばらつき)に依存しており、自社ではコントロールできない11。逆に低圧は制度が先行するが、単独では誤差基準を満たせず、群管理を組めるだけの契約母数に到達するまで収益化できない13

したがって考えるべき問いは「どのリソースが儲かるか」ではなく、「制度が開く年度と、自社が群を形成できる年度を、どうそろえるか」である。低圧は2026〜2027年度を母数構築フェーズと割り切り、その間の収益は既存の高圧・自家発リソースと経済DR(C値300円化により価値が上がる領域)で埋める、という二層構造の事業計画が現実的だと考えられる。また、ΔkW価格に蓄電池・EV・自家発の設備費を算入できない以上3、需要家に対しては「設備投資の回収手段」ではなく「既存設備の遊休時間の換金手段」としてDRを提案する設計に切り替える必要がある。

なお、ベースライン計算方法については資源エネルギー庁が事業者・研究機関からの提案を受け付け評価・公表する枠組みが用意されている15。自社リソース構成に有利なベースライン手法を持つ事業者にとっては、制度形成に直接関与できる数少ない窓口であり、受け身で待つべき局面ではない。

家庭用エネルギー機器メーカー・EV充電サービス事業者

現状認識として重要なのは、DRready要件が「2029年度市場投入」という長期工程で組まれている一方、確定していない要素がクリティカルパス上にあることである。JEM規格策定は2027年度、運用ルール策定は2028年度に置かれているが18、その前提となるJC-STAR★2の要件が未確定であることがリスクとして明記されている17

これが重要なのは、DRready対応が単なる機能追加ではなく、規制的枠組みに接続する可能性が高いからである。ヒートポンプ給湯機については年間生産・輸入500台以上の事業者を勧告・命令の対象要件とし、判断基準にDRready要件を置く方向が示されている22。つまり「対応するかどうか」ではなく「いつまでに対応するか」の問題に移行しつつある。

どう考えるべきか。2029年度から逆算すると、通信プロトコル・データモデルの設計判断は2026〜2027年度中に確定させる必要があるが、セキュリティ要件は後から固まる。したがって、セキュリティ層を後から差し替え可能なアーキテクチャで先に通信・外部制御層を作り込むという設計方針が、開発コスト増と市場投入遅延という二つのリスクを同時に抑える現実解になると考えられる。

EV充電器については判断がより急を要する。普通充電器(コンセントタイプ)の外部制御ポテンシャルが0%、急速充電器でも55%という現状23は、2040年頃に運輸部門で730万kWのDR必要量が見込まれる将来像24との落差が極めて大きいことを意味する。しかも系統混雑緩和の要件が未定である以上2、要件確定を待って設計すると出荷済み機器のストックが対応不能なまま積み上がる。SOC取得とプラグ接続情報取得というPhase 1未実装機能は、ほぼすべての将来ユースケースの共通前提であり2、ここへの先行投資は要件未確定リスクを取る価値がある領域だと判断できる。

参考文献

  1. 6.
    ロードカーブ想定に関する検討状況について
    電力広域的運営推進委員会2024/12/03PDF
  2. 9.
    一部商品要件等の見直しに関する検討について
    電力広域的運営推進委員会2026/07/31PDF
  3. 16.
    発動指令電源の機器個別計測での扱いについて
    電力広域的運営推進委員会2026/03/03PDF
  4. 19.
    インバランス料金制度の詳細設計等について
    電力・ガス取引監視等委員会2025/06/27PDF
  5. 20.
    インバランス料金単価について
    電力・ガス取引監視等委員会2024/10/15PDF
  6. 24.
    需給調整市場の運用等について
    電力・ガス取引監視等委員会2024/09/30PDF

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