アグリゲーターの収益方程式が変わった年──前日化・30分化と機器個別計測が同時に来た2026年度
この記事でわかること
- 需給調整市場の前日取引化・30分化で複合市場の平均約定単価が東京で4.91円→2.31円へ半減し、ΔkW収入だけでの投資回収は一段と難しくなった
- 低圧リソースの需給調整市場参入と機器個別計測は2026年度から始まるが、高圧は2027年度、特高は未定と、電圧階級ごとに参入時期が最大2年ずれる
- ΔkW価格には人件費・システム費用しか算入できず蓄電池やEVの設備費は認められないため、設備投資の回収は卸市場や容量市場など他の収益源との組み合わせが前提になる
1. 価格構造の転換点:前日化・30分化がΔkW単価を押し下げた
需給調整市場は2024年4月に全商品が運開したが、その後は一貫して応札不足と約定単価の高止まりが課題だった1。この構造に手を入れたのが取引スケジュールと商品ブロックの見直しである。
先行して2025年度に実施された三次調整力②の30分化(開始済み)では、募集量が約25%削減される一方、応札量は約52%増加した2。ブロック時間を一次〜三次①でも3時間から30分に短縮し、前日取引に移行する制度変更は2026年3月13日受渡分以降のシステム改修とともに適用された(開始済み)3。
結果は明確である。前日取引化後の2026年3月14日〜20日の複合市場では、平均約定単価が東京エリアで4.91円/kW30分から2.31円/kW30分へ、中部エリアで3.49円から1.89円へ低下した4。同時に募集量・上限価格も見直され、複合市場の最高約定単価は多くのエリアで15.00円/kW30分に張り付いている4。他方、三次②市場の最高約定単価は依然として200円/kW30分に達するコマがあり、商品間の価格分散はむしろ拡大している4。
ここから読み取れる示唆は、「ΔkW市場全体が儲かる/儲からない」という粗い議論がもはや成立しないということである。 平均単価が下がった複合商品と、スパイクが残る三次②、そして後述するように依然として調達未達が続く一次調整力とでは、リソースに求められる応動性能も収益期待値も別物になった。2024〜2025年度の実績単価を横引きした事業計画は、少なくとも商品別に分解し直す必要があると考えられる。
なお、一次調整力については前日取引化以降も多くのエリアで調達未達が継続していることが報告されている4。稀少性が残る商品に応動できるリソースを持てるかどうかが、今後の差別化要因になる。
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2. 応札障壁の実態:市場は「量」ではなく「要件」で詰まっている
2026年6月10日〜30日、広域機関は需給調整市場の全取引会員136社にアンケートを実施し、51社(約38%)から回答を得た5。前日取引化により需給リスクが低減し、30分化により応札量が増加したことが確認された一方、応札見送りの理由として、中東情勢による石油調達環境の悪化、燃料価格高騰による上限価格超過、タンク制約、システム開発の遅延、相対契約の交渉難航、共同保有設備の按分、応動時間の遅さによるアセスメント要件未達などが列挙されている5。
これを受けて2026年7月31日の第62回需給調整市場検討小委員会では、応札障壁解消として次の3点が提案された(提案・審議中)6。
- 一次調整力の技術要件の緩和:現行の調定率要件は5%以下だが、海外では3〜5%に設定される例があることを踏まえた見直し
- 蓄電池の一次オフライン参入要件の見直し:設備容量上限により参入できない蓄電池について、専用線オンライン化工事の申込完了までの経過措置として応札を認める案
- 電圧フリッカ防止のための要件追加:周波数追従が過度に速い設定に起因する電圧フリッカが2025年12月・2026年3月に2MW級高圧蓄電池で確認されたことから、移動平均計測時間幅(初期値0.1秒)や出力変化速度の設定を要件化する案
一次オフライン枠の現行対象は、1MW未満の発電機をアグリゲートする場合、1MW以上10MW未満かつ特別高圧・高圧の蓄電池、負荷設備を用いる場合などである76。
注目すべきは3点目である。 これは参入促進ではなく、既設リソースへの遡及的な要件追加まで視野に入れた品質規律の強化であり、グリッドコード検討会で議論されている蓄電池の出力変化速度上限(提案・審議中)とも連動する8。系統用蓄電池の接続検討受付が2025年6月末時点で約14,300万kW、契約申込が約1,800万kWに達している状況8を踏まえれば、規律強化は避けられない。緩和と規制強化が同時に走っている点を、機器仕様の確定前に織り込む必要がある。
3. 参入インフラの「時間割」:電圧階級と容量で段差がある
低圧の需要家リソースを束ねるアグリゲーターにとって、2026年度は制度上の節目である。整理すると次のとおりである910。
| 区分 | 需給調整市場への参入時期 | ステータス |
|---|---|---|
| 低圧・受電点計測(リスト・パターン) | 2026年度から全商品 | 決定済み(2026年度取引開始) |
| 低圧・機器個別計測 | 2026年度から全商品 | 決定済み(同上) |
| 高圧・機器個別計測(1,000kW未満) | 2027年度から | 決定済み |
| 特別高圧の機器点 | 早くて2027年度以降、託送システム改修が必須 | 継続検討中 |
| 機器点容量1,000kW以上 | 入札単位・通信設備の整理が必要 | 継続検討中 |
(2026年度からの低圧・機器個別計測の取引開始は、2026-08-10時点で後続資料での実施確認なし、開始済みの可能性あり)
機器個別計測とは、需要家の受電点ではなく、制御対象である蓄電池やヒートポンプ給湯機などの機器そのものの出力・消費電力を計測してΔkWを評価する方式である11。受電点計測では、制御対象外のリソース(PVや通常需要)の変動に埋もれて調整力が過小評価される問題があったが、機器点計測はこれを回避できる11。
ただし前提条件がある。アセスメントⅡの妥当性確認には一般送配電事業者が保有する計量データが必要で、次世代スマートメーターの設置が事実上の参入条件となる。低圧は2025年度から順次設置、高圧以上は2026年度後半から順次設置というスケジュールである10。データ収集ルートはIoTルート(約120億円)とインターネットルート(約489億円)が比較され、費用・セキュリティ両面でIoTルートが優位とされた10。
また、kWh精算のない一次調整力については機器個別計測の先行導入が技術的には可能と整理されたものの、2026年度の導入は行わない方向で提案された(決定済み)10。
残された課題の規模感も示されている。2025年11月の調査では、機器点特高のニーズは65件・約72万kW、機器点1,000kW以上は137件・約84万kWであった12。1,000kW以上について、新たな入札単位を設ける方法はMMS等の大幅改修(期間6〜24か月)を要する一方、既存のリスト・パターンを活用する方法は改修が比較的簡易とされ、費用は数千万円から十数億円のレンジで見込まれている9。
この時間割が意味するのは、リソースの電圧階級と容量が、そのまま参入可能時期と設備投資タイミングを規定するということである。 高圧の自家発・産業用蓄電池を主軸に置く事業者は2027年度、特高や大容量機器点は2027年度以降と、少なくとも1〜2年の待機期間を前提とした資金計画が要る。
4. ベースラインとリソース標準化:収益の「測り方」がまだ動いている
需要側リソースの収益は、削減量をどう測るかに依存する。低圧ベースラインについては、ERABガイドラインで「High 4 of 5(当日調整あり)」を推奨する方向で合意された13。ただし精度分析では、個別管理のケースはいずれの需要家区分でもガイドラインが求める誤差水準(RRMSE 20%以下)に達しておらず、群管理では電灯・PVなしの群で11.5〜13.9%と水準を満たすものの、PVありの群では30〜40%台に悪化する14。
さらに、高頻度に経済DRを実施すると標準ベースラインの参照日が枯渇し、DR実施後の需要が低く算出される問題が2025年11月に提起された(継続検討中)。直近19日のうちDR実施日が16日、未実施日が3日という事例も示され、需要実績にDR量を足し戻す方法が提案されている15。PV・EV・蓄電池を含む需要家向けの「機器特有のベースライン」については、事業者・研究機関からの計算方法提案を資源エネルギー庁が評価し、公表可能と判断したものを公表する方式が示された13。ERABガイドラインは、機器個別計測・低圧ベースライン・情報連携の標準フォーマットを含む形で改定が進められている1617。
機器側の標準化も並走している。DRready勉強会では、ヒートポンプ給湯機・家庭用蓄電池・ハイブリッド給湯機・家庭用燃料電池について通信接続機能・外部制御機能・セキュリティ(JC-STAR★1以上等)の要件案が順次整理され、DRready対応機器の市場導入目標は2029年度に置かれている1819。関連ガイドライン(仮称)の案は2026年11月頃に提示される予定である20。
EVについては、アグリゲーター団体(ERA)が2026年7月に、系統混雑緩和・需給調整市場・容量市場・経済DR・再エネ出力制御低減という複数ユースケースからの収入積み上げが可能である一方、現行の充電器・充放電器の仕様では対応可能なユースケースが限定されると指摘し、SOC取得・プラグ接続情報取得などの段階的実装を要望している21。評価間隔は需給調整市場の一次オフラインで1秒、三次②で5分、経済DRで30分と大きく異なり、狙うユースケースが機器仕様を規定する構造にある21。
つまり、リソース側の標準規格が固まるのは2029年度の市場導入を見据えた時間軸である一方、市場制度は2026〜2027年度に立ち上がる。 このギャップの間、アグリゲーターは既存機器のベンダー個別仕様で組み上げざるを得ず、後の標準化で作り直しが発生するリスクを織り込む必要があると考えられる。
5. 収益スタッキングの実像と、価格規律という天井
需給調整市場はマルチプライスオークションであり、ΔkW価格には「当該電源等の逸失利益(機会費用)+一定額」という価格規律がかかる7。DR等については、この「一定額」に算入できる固定費として需給調整市場への応札のための人件費とシステム費用(通信費含む)が認められる一方、電炉設備・蓄電池・EV・自家発電機そのものにかかる費用の算入は認められないと整理されている22。蓄電池の限界費用については、劣化コストを10%のマージンとして考慮することが適当とされ、劣化に伴う修繕費等はΔkW価格の一定額側で見るという整理である22。B種電源としての事前協議は2025年8月時点で5社19件(うち蓄電池VPP5件)が整った23。
この規律は、「設備投資費をΔkW価格に転嫁して回収する」という発想を制度的に封じている。 蓄電池・EVの設備費回収は、卸市場のアービトラージ、容量市場、経済DR、将来の系統混雑緩和など他の収益源に依存せざるを得ない。
容量市場側では、発動指令電源(DR)の落札容量が2018年の96万kWから2024年415万kW、2025年475万kW、2026年584万kWへと拡大する一方、価格は2020年の749円/kWから2025年146円、2026年243円へと低下している24。数量は増えるが単価は下がるという、成熟市場の典型的な軌道を描いている。
系統混雑緩和は、NEDOのFLEX DER事業(2022〜2024年度)で栃木県那須塩原市の最大14MWの逆潮流が発生する配電系統において実証され、DER制御による混雑緩和効果が確認された(実証完了)25。ただし系統混雑予測の精度向上、指令発出方法、セーフティネットの検討が課題として残り、フレキシビリティ活用市場の整備は今後の課題である(継続検討中)25。EVのユースケース整理でも、系統混雑緩和はΔkW・kWhいずれの取引価値か、評価間隔がどうなるかが「未定」とされている21。
さらに中長期では、kWhとΔkWを同時に約定する同時市場の検討が第1フェーズ(詳細業務設計・技術研究)に入っている。論点セットには「I:DER」が明示的に置かれ、2026年7月から2027年3月にかけて論点ごとの事業者ヒアリング・技術検証が進む予定である(継続検討中)26。第2フェーズで要件定義と導入可否の最終判断、第3フェーズ以降でシステム開発という段取りであり27、現行の需給調整市場の商品構成そのものが将来的に置き換わり得る点は、10年超の投資回収を前提とする事業者にとって無視できない。
6. 変動性再エネ+蓄電池という次の参入経路
見落とされがちだが、FIP電源・非FIT電源は需給調整市場に応札可能であり、変動性再エネ単体では天候による供出量の変動が障壁になる一方、蓄電池を併設すれば安定供出とインバータによる精緻な制御を両立できると整理されている287。参加形態としては、発電リソース単体・アグリゲーション、ネガポジ型、需要リソース(ネガワット型)が用意され、最低入札量1,000kWを満たすために複数発電所を束ねる、あるいは蓄電池・負荷と組み合わせるという設計が可能である7。
課題は、アセスメントⅡの達成困難性とペナルティリスク、そして出力制御時の調整力供出の扱いであり、市場参加の対価性を含めて継続検討中である287。ただし2026年度の応札スケジュール・ブロック時間の見直し(開始済み)は、予測誤差の縮小を通じて変動性再エネの応札を促す方向に働くと考えられる7。
低圧DERを束ねるアグリゲーター(ERAB事業者)
現状認識として押さえるべきは、2026年度に開いたのは「低圧受電点計測と低圧機器点計測」までであり、高圧は2027年度、特高・1,000kW以上は依然として課題整理段階だという非対称性である912。
これが重要なのは、参入時期が電圧階級で分かれる以上、ポートフォリオの構築順序が制度に規定されるからである。家庭用蓄電池・給湯機を軸にした低圧アグリゲーションを先行させ、高圧の産業用リソースは2027年度以降の第二波として設計する、という順序が制度的に合理的である。同時に、参入可能性は次世代スマートメーターの設置進捗に紐づくため、対象需要家の所在エリアと設置スケジュールの照合は、契約獲得活動そのものの優先順位づけに直結する10。
判断の軸として提案したいのは、「収益源をΔkWに寄せるか、kWh(経済DR)に寄せるか」の見極めである。ΔkW価格には逸失利益+一定額という規律があり、設備費の算入は認められない22。一方、経済DR側はベースライン算定という別の不確実性を抱え、高頻度実施時の算出方法は継続検討中である15。個別管理のベースライン精度がガイドライン水準に届かず、群管理でPVありの場合も30%超の誤差が出る14という事実は、束ねる需要家の属性(PVの有無、電灯/動力)が収益の安定性を左右することを意味する。機器特有ベースラインの提案・公表スキームが用意された以上13、自社データを用いた計算方法の提案そのものが競争戦略になり得る。
機器仕様については、狙うユースケースの評価間隔から逆算するのが実務的である。一次オフラインなら1秒、三次②なら5分、経済DRなら30分と要求水準が桁違いであり21、DRready標準の確定が2029年度の市場導入を見据えた時間軸である以上18、当面はベンダー個別仕様での構築と、後の標準対応コストの引当てを前提に置くべきだと考えられる。
蓄電池を保有・開発し、レベニュースタッキングで投資回収を組む事業者
現状認識として最も重いのは、前日取引化後に複合市場の平均約定単価が東京で4.91円→2.31円、中部で3.49円→1.89円へ低下し、上限価格も15円水準に張り付いたという事実である4。ΔkW収益を主軸に据えた回収モデルは、この単価水準で成立するかを検証し直す局面にある。
これが重要なのは、単価低下が一時的な需給変動ではなく、募集量削減・上限価格見直し・安値札の増加という制度設計に起因する構造変化だからである4。同時に、容量市場の発動指令電源も落札容量584万kWに対し価格243円/kWと、量の拡大と単価低下が同時進行している24。スタッキングの各層が同時に薄くなるリスクを、感応度分析に明示的に入れる必要がある。
どう考えるべきか。第一に、価格分散が残る商品を狙う戦略である。一次調整力は前日化後も多くのエリアで調達未達が続いており4、三次②では最高200円/kW30分のコマが残る4。一次調整力の技術要件緩和と蓄電池の一次オフライン参入要件の見直しが提案されている(提案・審議中)6ことは、応動性能に投資する価値が相対的に高まる方向の変化と読める。
第二に、規律強化を先読みした機器仕様の確定である。電圧フリッカ対策としての移動平均計測時間幅(初期値0.1秒)や出力変化速度の要件化は既設リソースへの遡及も検討対象とされており6、グリッドコード側でも出力変化速度上限の要件化が議論されている8。PCS調達時点で設定変更の自由度を確保しておくかどうかが、後の改修コストを分ける。
第三に、制度の可変性そのものをリスクとして値付けすることである。同時市場は第1フェーズでDERを独立の論点セットとして扱い、2026年7月から2027年3月にかけて詳細検討が進む26。導入可否の最終判断は第2フェーズであり27、現行商品構成を前提とした15年・20年の回収計画は、後半期間の前提が置き換わる可能性を含む。系統混雑緩和市場も実証段階を終えたが制度化は未確定である25。日本の蓄電池導入量が50万kW規模である一方、CAISOで1,200万kW、ERCOTで1,400万kWという海外との差29は成長余地を示すと同時に、制度が急速に書き換わる局面が続くことも示唆している。確定した収益源のみで最低限の回収が成り立つ設計か、未確定の収益源を前提にした設計かを、投資判断の分水嶺として明示すべきである。
参考文献
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